第116話 竜巻に風穴を

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 風花ちゃんは地味な性格をしている割に戦闘となると案外思い切りの良い攻撃をしてくる。


 神楽坂くんと3人で続けている自主練習でメキメキと実力を付けているところを私は間近で見てきた。


 確かに手強い相手だ。

 それは認める。


 でも、その攻撃の1つ1つに対する覚悟が私とは違う。

 重みが違う。


大光線メガ・レーザー


 射程圏内に入った風花ちゃん目掛けて特大の光線を放つ。

 光線を扱う技の中では現状最大の一撃。

 出力を上げた今では道路の道幅ほどに光のエネルギーが膨れ上がっている。


旋風壁サイクロンウォール


 突如、地面から天に向かって突風が吹き荒れる。

 風花ちゃんが片手を前に突き出し、風の壁を展開させたのだ。


 私はこんな技を見たことがない。

 そういえば風を切り裂く『風切りウインドカッター』も見るのは初めてだった。


 私が知らない間に風花ちゃんも成長しているということか。


「ほんと、別人だね。ムカつく」


 『大光線メガ・レーザー』を防ぎ切った風花ちゃんが爆風の中を突っ込んできた。


「明智さん!」


 飛び込んできた風花ちゃんの体は裂傷やら打撲やらですでにボロボロ。

 どうしてそこまでして至近距離にこだわるのか。


 彼女の戦闘スタイルは中遠距離からの風を操る攻撃がメインだ。

 バッジを割られたら脱落という今回の序列戦では中遠距離型の攻撃を得意としている生徒の方が有利だ。


 それなのになんで?


風切りウインドカッター


「光剣!」


 風を切り裂くびゅーという鋭い音が迫る。

 私は光剣を斜めに振り下ろして風花ちゃんの攻撃を斬り伏せた。

 そして、一度距離を取るべく後方に跳ぶ。


「明智さん、何か悩み事があるんですよね? よかったら私に話してくれませんか?」


 肩で息をしながら風花ちゃんが必死に訴えてきた。

 そんな風花ちゃんの姿を見て、私の中にグツグツと怒りの感情が込み上げてくる。


「誰がお前になんか話すか。話したところでお前に何ができる?」


「あ、明智さん?」


 風花ちゃんの瞳が恐怖で左右に揺れる。

 きっと今の私は酷く醜い顔をしているのだろう。

 でもこれが本当の私。嘘偽りの無い、本物の私だ。


「私がこれまでどんな想いで生きてきたのかも知らないで。馬鹿にすんな!」


「馬鹿になんてしていません! 明智さんが何か悩みを抱えているのなら友達である私が力になりたい。一緒に解決したい。そう思うことは間違っていますか?」


「……それを私に聞く時点で間違ってるんだよ」


 風花ちゃんは正しい。

 それは理解している。

 だが、正しさだけでは人は救えない。


 復讐という悪に手を染めようとしている私には全く響かない。

 もう引き返せないんだ。

 ここで全てを諦めて、風花ちゃんの胸に飛び込んでしまったら私は自分自身を否定することになるから。


 これまでしてきたことが全部無駄になるから。


 何より


「わかりました。言葉でダメなら異能力でぶつかるまでです」


 風花ちゃんを中心に風が渦を巻き始めた。

 木々が悲鳴のような葉音を鳴らし、砂やゴミを巻き上げていく。


 全身全霊。彼女の最大技だ。

 おどおどした性格の彼女とは正反対の荒々しい一撃。


殻破りの大竜巻ブレイクシエル・トルネード


 巨大な竜巻が周囲の木々を飲み込みながら直進する。

 私の元に届くまで僅か数秒。


 風花ちゃんは知らない。

 風花ちゃんが私に隠していたように私も密かに成長していたということを。


 迫り来る竜巻に対して体を斜めに構え、光剣の先を天に掲げる。

 そして、力を込めて一気に振り切る。


閃光十字架剣シャイニング・バスタード


 光剣の形を模した光り輝く十字架が巨大な竜巻に風穴を開けた。

 千炎寺くんの炎焔十字架剣フレイミング・バスタードを参考にして生まれたこの新技の威力は正に桁外れ。

 一点突破という点だけで見れば風花ちゃんの手札では対応不可能だろう。


「……ッ!!」


 竜巻が飲み込んだ全ての物体を粉々に吹き飛ばし、猛烈な勢いの風と光が風花ちゃんを襲う。


「もし、全部終わらせた後も風花ちゃんが今と変わらず同じ気持ちだったらそのときは——」


 甘い気持ちにすがりつこうとする自らの心を唇を噛み締めることで制した。


「一体、何が明智さんをそこまで苦しめているんですか?」


 風花ちゃんのバッジが砕けて地面に落ちた。

 私を苦しめているもの。


 それはこの世界の全てだ。

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