◯復讐と共闘
第115話 友情なんて紛い物
—1—
誰にも見られてないよね?
周囲を見回して気配を探る。大丈夫。落ち着け、明智ひかり。多分誰もいない。
集団序列戦が始まってから、私は自分を慕ってくれている人たちに一旦別れを告げてとある人物を追っていた。
私の本当の顔を知る唯一の女。
思えば彼女と出会ったのは入学式の日のバスの中だった。
財布を忘れて鞄の中身を引っくり返した彼女を見兼ねて声を掛けたんだっけ。
初めは随分とドジな子もいるんだなーという印象だった。
しかし、彼女と接していくうちに内側に秘めている強い想いを知り、印象が変わった。
自分を変えたい、変わりたい。
その強い意志が彼女の原動力だった。
彼女は真面目だからコツコツ努力を積み重ね、ソロ序列戦でも結果を出した。
明確な目標を持ってそこに真っ直ぐ突き進めるのは素敵なことだと思う。
私もそうでありたい。
自分でも気が付かないうちに彼女に嫉妬していたのかもしれない。
目的のためなら手段を選ばない自分自身にうんざりしていた。
偽物を演じ続けるのは辛い。何より孤独だ。独りは嫌だ。
はあ、風花ちゃんとなら友達になれると思ったんだけどな。
まさか保健室での発言を聞かれているとは思わなかった。
これは完全に私のミスだ。
彼女は良い意味で嘘をつけない性格だからトイレで問い質したときにすぐにわかった。
ちょっと脅せば黙っててくれると思ったんだけど、神楽坂くんと繋がってる可能性があったからそこが厄介だった。
私たちは入学からの付き合いだから風花ちゃんが頼るとしたら神楽坂くんくらいしかいない。
計画のためにも私の本性が他の人に知られるのは都合が悪い。
神楽坂くんがどこまで知っているのか探りを入れたりもしたけど、当然彼はボロを出すような性格じゃないから空振りに終わった。
焦ってはいけない。
だが、急ぐ必要はある。
1つミスを犯したら負の連鎖は止まらない。
それはわかっている。
だから取り返しがつかなくなる前に蹴りをつけなくてはならない。
私が学院で築き上げた地位がまだある間に。
復讐のためなら利用できるものはなんでも利用する。
別に風花ちゃんに恨みがあるわけじゃない。
ただ邪魔だから消えてもらう。それだけだ。
「
地面を蹴り、周囲に5つの光球を展開する。
ターゲットは、前方でスマホに視線を落としている風花ちゃん。
直撃するまで永遠と追跡するこの光球で先手を取る。
「……行って」
目標である風花ちゃんに直撃するイメージを脳内で固め、光球を一斉に放つ。
攻撃に気付いた風花ちゃんは木の影に身を隠した。
「隠れても無駄だよ」
この光球から逃れることはできないんだから。
—2—
誰かが私の跡を付けているのはなんとなく感じていた。
背後の空気が騒がしかったから。そこだけ明らかに風の流れが違う。
学院の中でも日陰者に属する私なんかの跡を追いかけてくる人間は限られている。
集団序列戦の序盤ともなればもう答えが出ているようなものだ。
明智さん。
秘密を知る私を退場させて、本命の暗空さんを狙いに行くのだろう。
何度か明智さんに口止めをされたけど、私ってそんなに明智さんの中で信用されていないのかな?
友達だと思っていたのは私の方だけだったのかな?
確かに今まで見たことがない明智さんの姿を目の当たりにして恐怖心を覚えたことは事実だ。
初めて明智さんのことを怖いと思った。
でも、明智さんがそうなってしまったことには何か理由があるのではないだろうか。
理由も無しにあんな風に感情を昂らせることはできないはずだ。
人は誰しもが闇を抱えているもの。
私が過去にいじめを受けていたように。
明智さんはきっとこれまで自分の想いを吐き出せる人と出会って来なかったんだ。
自分のことしか信用できないでいるのだろう。
もし、そうだとしたら他の誰でもない私が明智さんの信頼できる人になりたい。
明智さんは私の憧れだから。
初めて私の友達になってくれた人だから。
だから誰の力も借りずに1人でやる。
私は遠くからこちらを見ているであろう神楽坂くんにメッセージを送った。
『明智さんと正面から向き合ってみます。どんな結果になっても見守っていて下さい』
明智さんが動いた。
一度木の影に身を隠してから体勢を立て直そう。
そう思い瞬時に身を隠したが、明智さんが放った光球が木を回り込むように軌道を変えた。
「
左右に息を吐き、突風を巻き起こす。
光球は風に押し返されて周囲の木々にぶつかり激しく爆発した。
「本気、ですよね」
降り注ぐ木の枝の雨をかわしながら明智さんの元に走る。
少年漫画ではないけれど、想いを伝えるなら正面からぶつかるのが1番だ。
「
斜めに爪を振り下ろし、両腕で風を切り裂く。
「
明智さんが形成した盾から光の破片が飛び散る。
『「明智さん・風花ちゃん」』
光の盾が消え、明智さんと向き合う。
「消えてもらうよ」
「受けて立ちます!」
私は明智さんの低く冷たい声に負けないように声を張った。
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