第4章 集団序列戦in無人島編2日目

◯教師参戦

第127話 教師の集い

—1—


 2日目の朝。

 念のためにアラームをセットしておいたのだが、陽が昇り始めたのと同時に自然と目が覚めた。

 慣れない環境下でかなりの運動量だったが、思ったほど疲労感も残っていない。


 外の空気を吸い、テントを畳みながら今日のプランを考える。


 教師5名の参加。

 倒すことはほぼほぼ不可能に近いだろうが、教師1人につき10得点獲得できるため、チャンスがあれば狙っていくのも1つの手だろう。


 教師のスタート位置は砂浜エリアと決められている。

 ここ北エリアからは最も離れた場所だ。


 視界に入った生徒を片っ端から攻撃していくルール故、教師が北エリアに辿り着く頃には良い時間になっているだろう。

 オレの動きとしてはしばらく北エリアに居座った後、様子を見て西エリアに向かう予定だ。


 1日目で生徒の約半数が脱落したため、移動中の遭遇率も落ちるはずだ。

 教師に狩り尽くされる前に少しでも得点を重ねておきたい。


「西城はまだ寝てそうだな」


 テントは物資補給ポイントに返却することで2日目の夜にポイントを支払わなくても借りることができる。

 西城が起きていれば一緒に返しに行こうと思ったのだが、西城のテントから物音がしないため1人で物資補給ポイントに向かうことにした。


—2—


環奈かんなちゃん、まだ?」


 砂浜エリアに停められている豪華客船。

 その船内の客室の前で小柄なスーツ姿の女が頬を大きく膨らませていた。

 無論、大きく膨らませているのは頬だけでは無い。


 異能力者育成学院、1学年担当保坂歩ほさかあゆみ

 集団序列戦2日目からは教師も参加するということで、同じく1学年担当の鞘師さやしの部屋までやって来たのだが、何をしているのか彼女がなかなか出てこない。


「何してるの? もう7時30分だよ」


 スマホで時刻を確認し、通路にある小窓から外の様子を窺う。

 タラップの近くではクロムとイレイナの2体が軽い模擬戦のようなことをしていた。


 イレイナが放ったレーザー銃をクロムがビームソードで真っ二つに斬り裂く。

 2体にとっては準備運動に過ぎないのだろうが、その芸当は誰もが真似できる訳ではない。

 ハイスペックな2体だからこそできてしまうことだ。


「すまない。待たせたな」


 2体の様子を観察していると、固く閉ざされていたドアがようやく開かれた。

 スーツ姿の鞘師が保坂の腰に下げられている刀の鞘を見て動きを止める。


「保坂、刀を使うのか?」


玲於奈れおなちゃんのこともあるし、一応護身用としてね」


 保坂が刀の柄に触れると、鞘の中から青黒い光が漏れた。

 小柄な体型の保坂には不釣り合いな武器であることは間違いない。


「玲於奈の存在を知った陣内は確実に仕掛けてくるはずだ。万が一の事態になれば私も左を使う覚悟だ」


 自身の左腕に目を落とす鞘師。

 それを見て保坂が顔を歪める。


「そうならないために私がいるんだよ」


 保坂が鞘師の左腕を掴んで歩き出した。

 教え子に襲い掛かろうと蠢く悪に対して勇敢に立ち向かう決意を固めた2人だった。


—3—


 鞘師と保坂が砂浜エリアを訪れてから少しして、千炎寺正嗣せんえんじまさつぐが姿を見せた。

 赤と黒の袴に身を包み、堂々と佇む様子はどこか貫禄を感じさせる。


「千炎寺先生、おはようございます」


「おはようございます」


 鞘師が正嗣に声を掛ける。


「もうすぐ始まりますけど、どうですか今の気持ちは?」


 普通であれば正嗣が周囲に放つ圧から声を掛けることを遠慮してしまいがちだが、マザーパラダイスという厳しい環境を生き抜いた鞘師にとってはあまり関係ない。


「率直に楽しみです」


「それはどういった方向で?」


「お二人と比べたら短いですが、異能力実技の授業を通して私も彼等に異能力について伝えたつもりです。その成果、成長を直で見られると思うと楽しみで仕方がありません」


 正嗣の気持ちの昂りに呼応して腰に挿さっている黒色の鞘が熱を帯びる。


「我輩も早く戦いたいぞ!」


「クロム、そんなに張り切らなくてもあと3分で始まるから大人しくしていなさい」


 ビームソードをぶんぶんと振り回すクロムに対して冷静なツッコミを入れるイレイナ。

 どうやら上下関係はイレイナの方が上らしい。


「あの、1ついいですか?」


 タイミングを見計らって控えめに保坂が手を上げた。


「どうした保坂」


「視界に入った生徒を対象にするとは言っても、誰がどのエリアを担当するのかおおよそでいいので持ち場を決めませんか?」


「確かに、同じエリアに教師が複数人いても我々が参加した意味がないですね」


 保坂の提案に正嗣が頷く。


「我輩はどこでも構わないぞ」


「私も問題ありません」


 クロムとイレイナも納得し、この場で反対する者はいないようだ。


「それでは、私と鞘師先生が北エリアを担当。千炎寺先生が東エリアを担当。クロムさんとイレイナさんは西エリアを担当ということでよろしいですか?」


「合点承知!」


「任せて下さい」


「もし、自分が受け持つエリアに生徒がいなくなった場合は隣のエリアに移動ということで」


「わかりました」


「そろそろ時間だ」


 鞘師が話がまとまったと見て声を掛ける。

 教師陣が一斉に視線を無人島に向けた。


 集団序列戦3日間の日程の中で最も過酷な1日が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る