第128話 自分の為から仲間の為へ
—1—
「
2日目も快晴。
砂浜エリア近辺を拠点としていた私たちはテントを返却してから北エリアに向かって歩いていた。
砂浜エリアは教師陣のスタート位置だからなるべく遠くに離れた方がいい。
「明智さんは教師の中だったら誰と戦うのが1番マシ?」
日差し避けの青い帽子を深く被った磯峯さんが横目で聞いてきた。
「え、マシとかそういうのは特に無いけど、戦う姿が想像できないのは保坂先生かな」
「確かに、戦いとは無縁なイメージがあるかも」
「お二人共、人を見た目で判断してはなりませんぞ。拙者が愛読しているバトルモノのライトノベルでは、小柄な教師は戦闘能力が高いと相場が決まっている。それに加えて秘めたる力を持っているなんて設定もあってだな——」
饒舌に語り出した丸岡くんを見て、呆れた溜息をつく磯峯さん。
「丸岡、あんたこそ二次元と現実を混同させないで」
「磯峯氏はあまり二次元に触れてこなかったからわからないかもしれないが、アニメや漫画から学ぶことは多いぞ。それこそ拙者は人格を形成する上でもアニメや漫画を義務教育として取り入れてもいいと思うのだが」
丸岡くんが人差し指で黒縁眼鏡をくいっと押し上げた。
「みんなが丸岡みたいになったら日本も終わりだね」
「うぐっ、磯峯氏の言葉には棘があるな」
丸岡くんが胸を押さえて大袈裟に蹲った。
「そう? 明智さんもそう感じる?」
そんな丸岡くんのことなど気にも留めていないとばかりに磯峯さんがスタスタと歩きながら私に会話を振る。
「ううん、私は大丈夫かな」
私が思うに丸岡くんのことを信頼しているからこその発言だと思う。
当の本人である磯峯さんは無自覚みたいだけど。
「だってよ丸岡」
「うぬっ、拙者にだけ当たりが強いのは不平等だと思うのだが」
不服そうな表情を見せる丸岡くん。
「今更意識して直したとしてもそれはそれで気持ち悪いだけだって」
とまあこんな調子で私たちは北エリアに向かって真っ直ぐ進む。
昨日の出来事をまだ完全には消化できていないが集団序列戦期間中は足を止めるわけにはいかない。
学院に入学してから今まで築き上げてきたものを全て失う覚悟で暗空さんにぶつかり、掲示板の件の犯人が自分であることも明かした。
私のことを慕ってくれている磯峯さんや丸岡くんたちから見限られることも視野に入れていた。
人に囲まれること自体はそこまで嫌ではなかったけれど、私自身元々何も持っていなかったのだ。
またゼロに戻るだけ。振り出しに戻るだけ。それが本来の私の姿。
だが、磯峯さんや丸岡くんは離れなかった。
それどころか私の生い立ちを知り、自分のことのように悩んでくれた。
テントで夜中まで語り合った末、協力すると申し出てくれた。
私としては巻き込みたくないという気持ちはあるけれど、誰かと同じ目的に向かう経験が無かったから心強かった。
これまで復讐のために自分を偽り本性を隠して生きてきたが、知らず知らずのうちに私にも仲間ができた。
私を信じてついてきてくれた仲間に後悔してほしくはない。
だからこれからの私は仲間のために戦ってみようと思う。
ふと、風花ちゃんの顔が頭に浮かぶ。
正面から真剣に向き合ってくれた大切な友達。
序列戦が終わったら謝らないとな。
—2—
砂浜エリアから三手に分かれた教師陣。
北エリアに向かっていた
「隠れるのが上手なのか、それともこの辺りにはいないのか」
腰に鞘をぶら下げた保坂が目一杯首を上に向け、木を見上げるがどこにも生徒の姿は無い。
護身用として持ってきた刀だが、使わないのであればそれに越したことはない。
とはいえ、陣内から釘を刺された以上、暗空に対して何かしら仕掛けてくる可能性は捨てきれない。
マザーパラダイスの子供たちを1人残らず排除しようとした男だ。
暗空1人の命を揉み消すなど造作もないだろう。
序列戦最終日まで残り、暗空の無事を見届ける。
これは序列戦が始まる前に鞘師と2人で決めたことだった。
そのためにもまずは暗空を見つけなくてはならないのだが。
「あれは明智さんと磯峯さんと丸岡くんかな?」
遠目で3人の姿を確認した保坂が地面を蹴る。
生徒の姿を見つけたら相手が誰であろうと倒さなくてはならない。
それが教師側に課されたルールだ。
そして獲得した得点を3点支払うことで特定の生徒をGPSサーチすることができる。
無人島全体が均衡状態に陥った状況などを想定して教師側も使用できるようになっているが、ここで3点獲得することができれば暗空の居場所を特定することができる。
GPSサーチを使用した履歴が残るとしてもこれに関しては後からいくらでも言い訳ができる。
失いたくないものは自分の手で守るしかない。
マザーパラダイスで育ったからこそ強く思う。
3人には申し訳ないけどここで脱落してもらう。
そう思う保坂だった。
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