幕間――過去の夢花
「貴妃のお務めを果たしますわ。何をすれば良いのか、お伝え下さいませ」
天武は僅かに視線を逸らした。逸らす度に花芯の顔が近くなる。頬を赤らめて、花芯はもじもじと肩を揺らしている。
「柱を掴んで、腰を高く」
え? と花芯は足を摺り合わせた。ちょっと好奇心を煽ってくれる二本の柱を花芯はまじまじと見つめ、ゆっくりと這い寄った。
「貴妃として、堪えてもらうぞ。王を奮い立たせるのが貴妃の仕事だ。種など出さぬ。安心しろ。あんな屈辱は一度で結構だ」
低く囁く声ですら、花芯を興奮させるらしく、天武の一挙一動はすべて愛撫に成り下がる。それほどに、花芯は愛してくれているのが分かる。
「あけすけに、私への愛情を、当の私に分からせるな」
枯渇した泉に水が満ち溢れる。花芯はあっという間に潤い、滴は太腿を滑り降りてゆく。
時折「うふ」と花芯が笑いを漏らし、振り返る。牀榻に付いた膝は白く、丸い重しとなって、爪先は可愛らしく震えていた。
天武は強さを増すため、片足を牀榻から落とした。両腕に力を込め、挿入を果たすと、花芯は大きく上半身を仰け反らせ、柱を強く揺すった。慣れている遥媛や庚氏のようには呼吸ができず、ただ、はあはあと声を上げては、首を振っている。どうしていいのか分からず、ひたすら躯を揺する。
「力むな。達けぬぞ」
こ、くんと頷いた刹那、包んでいる躰が柔らかくうねった。
「力を抜け。私を締め付けるな」
花芯の柔襞は、しっかりと天武自身を捉えている。
瞬間の予兆を感じた。唇を噛んで二回三回と押し込んで、一気に引き抜いた。
唇を噛み締めて、逆流を味わった。
終われば、また、愛情を手放す必要があった――。
*
「しかし、宦官が来ぬな」
「無粋な邪魔など、ごめんだもの。お暇を願ったの。私が天武さまを殺すはずもないでしょ。こんなにお慕い」
言いかけた唇を唇で塞いだ。終わったばかりの花芯の眼がとろんと下がる。
「天武さまがお優しいのを、初めて知りましたわ。もっと好きになれそうです……。足りないのもっと、ちょうだい」
もう良いわ。聞いてられんと柱に寄りかかった。眠気を堪えて、片眼を薄く開ける。
視界が揺らぐ。その前で、花芯は来た時と同じ、腹に布を巻き、何の意味があるのか分からない格好で立ち上がった。
「天武さま、仙人を、仙薬を、お花を避けないで下さいましね」
――天武、見てとっても綺麗なお花でしょう? 火棘と言うのよ。
(ええ、母様。麗しい花が咲いている優しい気持ちを、趙政は忘れません)
揺らいだ視界の向こうで、趙で待ち構えているであろう母が笑った。
意識が落ちる瞬間、花芯の柔らかな唇が首筋に触れるのを感じる。
手が天武の肌を撫で始めたが、ようやく訪れた陽の気の気流に呑み込まれ、もはや、指一本さえも上がらない。
「まあ、ふふ……。なんて無防備。好き放題だわ。覚悟なさいませ」
悪女の声が緩やかに鼓膜を震わせた。
「天武さまは私が幸せに導くのよ。それが、方士の役目ですもの。何度でも、陽の気を差し上げますわ」
(思い出した……。昔は、花をちゃんと美しいと思えたのだ)
再度、花に包まれる夢を見る。
靜かな皇宮で、二本の柱を掴み、天武に跨がった花芯が腹の上で打ち付け、ゆっくりと動き出した。だが、それすらも睡魔の、過去の夢に誘う靄の中だった。
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