第3話 サバイバーズ“ギルド”

 廃聖堂を出て、雑草が茂る敷地内を抜け、町の中央に向かって荒廃した道を歩いていく。

 廃聖堂は本当に町の外れにあったようだ。


 空はどんよりと暗く、空気はなんだか薄ら寒い。



 歩いていくにつれて景色に建物が増えていく。


 街並みはレンガ調の建物が多く、道は石畳により整備されている。

 視界に現地の看板らしきものが目に入るが、見たこと無いはずの文字なのに、なぜだかするりと頭の中で理解できた。

 不思議な感覚だ。


 まばらに人を見かけるが、歩いている人達は心なしか若い人が多いように見える。

 服装はてんでばらばらで、古めかしい服の人も居れば今っぽい服装の人もいる。

 これならば学校の制服でも怪しまれないかもしれない。


 通りを歩いて行くと、雑貨屋、薬屋、何かの素材を扱う店や武器防具の店の他、貸本屋やお菓子屋まである。

 先生の話の通り、特に制限などを受けている様子はない。



 散策を続けていると、ギルドという看板が目に入ってきた。

 現状、バアルのようなものを持っただけの一般人の僕が戦ったり出来るとは思えないけど、一応中を見てみようか。


 ギルドの施設は入口が解放的に広く作られており、中に入るとすぐ酒場になっている。

 奥の方には大きな掲示板と受付と換金所と思しき場所があった。


 酒場を素通りして大きな掲示板の前に来た。

 掲示板はランクごとに分かれており、ランクが上がる程高難易度の依頼が貼られているようだ。

 掲示板の並び通りに読むと黄金階級、水銀階級、赤銅階級、銀階級、銅階級、鉛階級、血階級の七つに分かれている。

 恐らくは依頼の危険度の階級なのだろうか。


 階級の上下はよくわからないが、貼り出された依頼内容を見ると黄金階級が一番上で、血階級が一番下らしい。

 ちょっと分かりづらい。


 僕にもこなせそうな依頼は無いか、一応掲示板を確認してみる。



『中央地下迷宮区一層にてゴブリンの間引き。

 報酬:一体につき銅貨1枚。ゴブリンの所持品に有用な物が有れば買い取りあり』


『中央地下迷宮区三層にて低層魔鉱石原石の採掘。ギルド統一規格で3個分相当。

 報酬:一個分につき銀貨1枚。過剰分は一個分につき銅貨5枚で買い取り可能』


『北部洞窟迷宮区二層にてグラウンドフィッシュの捕獲。食用にするので毒や薬を用いないこと。

 報酬:必要なのは1匹のみで、銀貨5枚。状態が良ければ追加報酬あり』


『魔国領域にてエルッパの実を採取。

 報酬:一個につき銅貨5枚。最大10個まで』



 掲示板とにらめっこしたが、やはり戦闘力が無ければ難しそうに見える。

 採取系の依頼も多分危険な場所なのだろうし、身を守る力が無ければ厳しそうだ。


 町の商品価格と依頼の報酬から考えて、銅貨1枚が100円くらいで銀貨1枚が1000円くらいの価値だろうか。

 一番低い階級だけあって、あまり実入りが良いとは言えないかもしれない。



「こんにちは、冒険者登録希望の方ですか?」


 掲示板を熱心に見ていたら、背後からギルドの職員の方に話し掛けられた。


「あ、いえ。ちょっと興味があっただけで……」


「ああ、もしかして悪魔の方々に連れて来られたばかりでしょうか?登録には費用が掛からないので、良かったら登録だけでもいかがですか。」


 この世界に連れて来られる人はそう珍しくないらしい。

 情報は可能な限り集めておきたいし、登録だけしてこの世界のお話をなるべく聞いておこうか。


「それじゃあ、お願いします」


「分かりました。それでは受付の横の机でお待ちください」


 机に座ると、間をおかずに職員のお姉さんが来る。

 職員さんは机に一枚の和紙のような質感の紙を置いた。


「お待たせしました。まずはギルドへの登録名義をここに書いて下さい。名乗れない都合の方も多くいらっしゃるので、こちらは偽名でも構いません」


 指示に従い、天晴と書いておく。


「ステータスの存在はご存知ですか?こちらの水晶に手をかざすと、ギルドカードという物にレベルと筋力・魔力・敏捷・耐久・抗魔のステータスが入力されます。それを拝見させて頂いた後、選択可能な職業を選んで頂きます」


 目の前に置かれた水晶に言われた通り手をかざすと、カードに一瞬で能力値が記入された。

 Lv.1

 筋力:9

 魔力:8

 敏捷:9

 耐久:8

 抗魔:9


「この水晶は受付横にあるので、定期的に更新することをお勧めします」


なるほど。


「では、失礼して拝見致します。そうですね……、こちらのステータス値ですと、選択可能な職業は【冒険者】のみとなります」


 あくまで予想だが、いずれかの値が高ければ別の職業を選択可能だったのだろう。


「では冒険者でお願いします」


「承知致しました」


 職員さんが水晶に手を当てて何か呪文のようなものを唱えると、ギルドカードに冒険者という表示が浮かび上がった。


「登録はこれで終了です。何か質問はございますか?」


 これで終了らしい。

 何か質問することがないか思案を巡らせる。


「今すぐに受ける予定はないですが、もし依頼を受けるとしたらどのようにすれば良いんですか?」


「階級が低い依頼ですと事後受注形式となっていまして、探索から帰ってきた後に討伐したモンスターと採取した物を教えて頂き、依頼が出ているモンスターや採取物でしたら報酬が発生します。倒したモンスターなどは受付の水晶を使うとギルドカードに記載されるので、そちらが証明となります。なので、出発前にどのような依頼が出ているかを確認することをお勧め致します」


 冒険に出て、モンスターを倒したり採取してきた物の中で依頼のものがあったら報酬がもらえるらしい。

 事後承諾みたいなものか。


「複数の人が同時に依頼を達成してしまったらどうなってしまうんですか?」


「依頼の階級が低い内は複数人に依頼を出すマルチタスクの依頼が多く、何人が同時に達成しても問題ない依頼が大半を占めています。たとえば掲示板に掲載されているのは常に需用があるものか緊急性のあるものです。ギルドは商業面に手広く、需要のあるものならば余さず売り切る自身があるのです。なので、冒険者の方から沢山買い取ることになっても問題はありません」


 それならば討伐依頼のついでに採取依頼も達成するなんてことも可能なのか。

 実入りが良くないと思っていたが、日に複数の依頼をこなせるのなら、その限りではないのかもしれない。


「ありがとうございます。ちなみに今現在で一番難易度が低そうな依頼って何かありますか?」


「モンスターに遭遇するかは運にもよりますので、確実に安全とは言えませんが……そうですね、血階級のエルッパの実の採集依頼でしょうか」


 エルッパの実……確かさっきの掲示板で見た。

 確か魔国領域とかいう場所の……。


「魔国領域と言われると恐ろしそうに聞こえるかもしれませんが、要するにこの町の防壁の外のことなのです。町の外はモンスターも居ますが、モンスターがひしめくダンジョン内よりはモンスターとの遭遇率は格段に低くなっています。エルッパの実は群生しているので集めやすく、木を見つければ収集は容易です」


「なるほど。行けそうならば行ってみます」


 職員の方は親切に対応してくれた。

 そういえば、最後に聞いてみたいことがあった。


「最後に、答えにくいのなら良いのですが……悪魔をどう思っていますか?」


 僕の質問に対して少し困ったように悩んだ後、真剣な表情で職員さんは答えた。



「そうですね……。『外』に居た時は神に毎日祈りを捧げていましたが、結局何もしてくれませんでした。悪魔の方々は対価こそ払えど私の最後の願いを叶えてくれました───それが私の全てです」



「……ありがとうございました」



 何となくだが、この町の人々は好きでこの町に住んでいるような気がした。

 この町に連れてこられたという人も、どうしても叶えたい願いがあり、その対価としてここに住んでいるのではないだろうか。


 先生は悪魔は契約を破れないと言っていたが、神は約束を破れるのかな。

 だとしたら、本当に誠実なのはどちらなのだろう。



 いや、

 だとしても、あの事件から僕だけが奇跡的に生き残ったのが神の加護ならば、僕は従順な仔羊でいようと思う。

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