第五話 寒い、けど温かい

 ガイドマップを見ながら何を見ようか考えていたらいつのまにか寝ていたようだ。

「今どこら辺かな?」

「あっ、起きたんだ。どこかまでは分からないけどあと30分ぐらいで着くらしいわよ」

「そっかー、楽しみだなぁ」

ふと、外の景色を見るために窓に顔を近づけてみてみると海の上に氷が浮いていて、暖房が入っているおかげで分からなかったが冷気が窓の枠から入ってきているのが分かった。

「そういえば防寒着なんて持ってきてないけどどうしたらいいんだろう」

「あっ、そういえばそうだったな。まいったなぁ、まさか現地に服を売っている店があるわけないし」

「ちょっと聞きに行こうかしら」

「そうだな、アイは俺がみてるから聞きに行ってくれ」

お母さんが部屋から出ようとするとラッキーさんがしゃべりだした。

「服を売っているフレンズは今のところいないけど上着のレンタルならこの船にあるよ」

「へー、僕たちみたいな人がたくさんいたのかな」

「でもジャパリパークは開園してからまだそんなに日にちは経ってないわよ?」

「なんでだろうね」

「例のミライさんが準備してくれたんじゃないか?アイが気になるぐらいなんだから他のちほーが気になるフレンズはいくらでもいるんじゃないかな」

「あー、確かにあんなに動物好きのパークガイドさんが凍えるフレンズを見てなんとも思わないわけないもんね」

 話終わったのに気付いたのか、そろそろ服を見に行かないと誘ってきたラッキーさんが歩いていくのについていくと、スタッフオンリーと書かれた扉の隣にレンタルルームというのがあった。

 扉を開けてほしそうにその場でラッキーさんがぴょんぴょんしていたので開けると、そこには背中に大きく「の」と書かれていてちょっと袖を握ってみるとふわふわしていていかにも暖かそうなダウンジャケットがサイズ別にかけられていた。

「これ、勝手に借りていいのかな」

「内側についているタグのコードを僕に見せてね、そうしたらレンタルできるよ」

「なるほど、便利ねー」

「読み込み中・・・読み込み中・・・読み込み完了、ホッカイチホーから帰るときには返してね」

「もちろん」

「どうしても欲しかったらおみやげコーナーにあるからぜひ買ってね」

「ちゃっかりしてるなぁ・・・」

 選び終えて、もうすぐ着くそうなので防寒着の温かさを確かめるついでに甲板に出てみると正面にそこには銀世界が広がっていた。

「すごい、どこを見回しても一面雪だよ」

「そっか、アイは今まで雪なんかほとんど見たことがないもんな」

 しばらく銀世界で遊んでいると

「すみません、サーバルさんを見かけませんでしたか?」

 そう誰かが突然話しかけてきた。その人は緑色の髪をしていて、腰に迷彩柄のポーチをさげているガイドさんだった。

「え?見てませんですけど」

「そうですか、もし見つけたら・・・あ、いえ、よかったらこのホッカイちほーを案内しましょうか?」

「はい、お願いします」

 雪深いため普通のタイヤでは埋まってしまい碌に動けないためこのちほー専用のキャタピラバスに乗ることになった。

「そういえばどうしてサーバルさんを探しているですか?」

「実はフレンズさんたちがかくれんぼをしていてサーバルさんが見つからないように船に隠れていたところ出航してしまったみたいで」

「それだったらこの船の中にいるんじゃないですか?こんなに寒い中外に出なそうですけど」

「多分サーバルさんのことですから初めての雪原に興奮して夢中で駆け巡ってしまったのかもしれません」

「凍えてなかったらいいですね」

しばらく進むと寒さを気にせず雪遊びをしているフレンズさんたちを発見した

「寒くないんですか?」

ホッキョクキツネ「うん、このぐらいの寒さなんてへっちゃらだよ、ここより寒いところなんていくらでもあるよ」

マンモス「それに雪遊びしてたらあったかくなるしね」

「すみません、サーバルさんを見かけませんでしたか?」

ホ「サーバルちゃん? ああー、しばらく私たちと遊んでたけどそろそろ帰らなくちゃといってあっちのほうに行きましたよ」

「あっちって、港と逆の方向じゃないか?」

「確かに」

「でも船が来るのは3時間に一本なのであっちで温かい場所を探す方がよかったのかもしれませんね」

「よーし、じゃあどんどん行こうよ」

「ええ、きっと待ってますからね。情報ありがとうございました。では」

「じゃあねー」

「あれ、あんなところにロッシが」

「ああ、あれはオーロラを見るためのロッジですね。ホッカイちほーは極寒なのでたまに見られるんですよ」

「へー、だったらサーバルさんもあの中にいるのかもしれないね」

「ええ、でもここまで来れているでしょうか」

 たしかに車でもここまで来るのに20分ほどかかっている。徒歩でここまで来ることなんてできるのだろうか。

 どちらにせよ一旦暖を取るために中へ入るとそこには暖かい部屋の中で震えるサーバルさんの他のフレンズさんがいた。

「ガイドさん、ごめんね」

「いいんですよ、サーバルさん。でもどうやってここまで」 

「それはハクトウワシががが…」

「ええ、ハヤブサに誘われてレースにでるんだけど、ついでにセルリアンがいないか見てたらサーバルがいてここまで連れてきたのよ」

「まぁ、ハクトウワシさん。ありがとうございます。なんと言っていいのか」

「良かったね」

「寒い地方で過ごすのって大変なんだね、来てなかったらわからなかったよ」

「お母さんも寒い思いした甲斐があったわ」

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る