188 公開処刑


「で、モブ野郎が俺に何か用か?」


 床に転がりながらなおも見下すような調子で七篠が俺に声をかけてくる。

 それはまるで「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉通りの態度であり、俺はそれに対して冷やかな視線を返した。


「用も何もお前の処遇が決まったから伝えに来たんだよ」

「はぁ? テメェが? そういうのは立場がある奴が……あぁ、そういうことか」

「ん?」

「達磨になってるっつーのに、それでも俺が怖いんだな。だから俺を倒したテメェを使いに寄越したわけか」


 七篠は満足そうに笑みを浮かべていた。

 今まで見てきた嘲笑うかのようなものではない、憑き物が落ちたかのような穏やかな笑みがそこにある。

 きっと今後の展望を予想して、それが自分の意に沿うものであるというのがわかっているのだろう。

 だからこそ自身の処遇に対する問いかけは「で? 処遇は?」と軽い調子であり、俺としても別にシリアスである必要もないので「公開処刑だと」と軽く返す。


「予想通りだな。そうでもなきゃこのファンタジー中世時代で民の不満を受け止めきれねぇだろうし。オーソドックスに断頭台か? それとも火炙りか?」

「随分と嬉しそうだなお前。もうすぐ死ぬんだぞ?」

「馬鹿かテメェ、俺の目的知ってんだろ。全部、全部。全部この時のためだ!」


 この世界の歴史に名を残す。

 奴はそんな理由で降って湧いた力を振り回し、多くの悪行を働いた。


 出来事としてはたった1日のことでしかない。

 しかし動き出した巨大な学園ダンジョンの存在、暴れまわる魔人達、迫りくる竜、そしてこの騒動の中で犠牲となった人々のことを生き残った者たちは忘れない。

 そしてそれらを齎した不条理への怒りを忘れない。元凶たる七篠のことを決して忘れない。

 いくら情報を規制しようとも記憶に残し記録に残し。再びこのような事が起きないようにと、第二第三の七篠が生まれないようにと歴史に刻む。


 王……というか国の力が強い世界であるためやろうと思えば犯人を公開しない秘匿処刑だって出来ただろうし、情報統制もかけられただろう。

 その上で公開処刑に踏み切ったということは抑え込んだことで起きる民の不平不満の爆発など将来の火種になり得るものをより危険視してのことだろうか。


 まぁ、この世界の人間は鍛え上げればドンドン強くなる存在だ。

 事件の被害者、遺族の中から『剣聖』おじさん級が生まれてこないとは限らないし、その矛先が諸々を秘匿した国側へと向かないとは限らない。


「(七篠を作り出した『黒曜の剣』はこの国の重鎮貴族だったわけだしな。そこら辺と結びつけて国の隠蔽、陰謀だの言われる可能性もあるわけだ)」


 俺の要望が通っている辺り、ユリアを通じて公開処刑に踏み切りやすいように促したことも一因ではあるが大きな理由はそんなところだろう。


 勿論、七篠はそこら辺のやり取りを知らないだろう。

 こんなところに監禁されているのだ、知る術があるはずもない。


 だが犯行を計画していた以上はコイツもまた「国はそうする」と予想を立てていたはずで、実際にそうなったのだから奴としては本懐を遂げた気分なのかもしれない。

 何度も死を踏み倒してる俺が言うのも何だが、これから死ぬというのに恐怖の一つも見せない辺りこいつの歪んだ承認欲求……というか功名心は筋金入りだなと感じる。


 まぁ今更七篠のパーソナルを深堀りする必要もない。

 ともあれこいつの所業は公開処刑を通じて知れ渡り、記録され、歴史の一つとして刻まれる。そう決まったのだ。


「あぁそうだ。テメェに聞いておきたいことがあったんだ」

「俺に?」

「お前、竜の中で暴れまわっただろ? 碌な空気も無いだろうに、どうやったのかだけがわからねぇ。答えろよ」

「……『不屈の鉢巻はちまき』、『巫蠱調伏ふこちょうふくの鉄杭』、んでもって『生滅の指輪ギアス・リング』を使った」


 七篠の問いかけに答える必要は無いのだが、隠す理由も特に無いので俺は素直に答えることにした。

 返答はただ要素を羅列しただけ。

 しかし七篠も転生者、少し悩んだ素振りを見せた後には予想がついたのか「まさか」とばかりに驚いた顔を浮かべた。

 だが完全には確証を得ていないようで、視線で話を促してきたので俺は答え合わせを始めることにした。


「竜の内部に侵入して暴れまわるという案を考えた上で真っ先に解決しなきゃならねぇのが侵入方法よりもだ」


 体内には酸素というか空気が殆ど無いのは容易に想像できる。

 あるにしても胃袋くらいまでか、それにしても胃液から立ち上る酸性のガスか何かの方が濃いという予想はできる。

 そこから更に別の場所へと動き回るのであれば最低限酸素と視界確保は必須となる。


 視界についてはどうせ『火剣』で炎を生み出すだろうから問題ない。

 この炎は物理法則に従った燃焼ではないファンタジー炎なので酸素がない状況でも問題なく使える。

 じゃあ酸素の類はどうするか、ということを考えた時に真っ先に思いついたのは水中ダンジョンを探索する際に必須となるアイテム『魚人の首輪』。

 水中で発生する『呼吸不可』という特殊な持続ダメージを無効化するアイテムであり、フレーバー的にも使える……と思ったのだが入手するには遠い場所にあるクエストをこなさねばならないので時間が足りないため現実的ではないという問題があった。


 というわけで俺は発想を変えた。

 生存方法ではなく「死なない方法」か「死んでも行動可能な方法」を考えることにしたのだ。

 ニュアンスの違いは置いておくとして、そう考えた時に思いついたのが先ほど上げた3つのアイテムを利用した方法である。


 アイテムのおさらいをすると『不屈の鉢巻』は自身のHP上限を大きく上回るダメージを受けた際にHPを1だけ残して耐えきる装備品。

 『巫蠱調伏の鉄杭』は使用した対象に持続ダメージを与える『呪詛』という状態異常を付与するアイテム。

 そして最後の『生滅の指輪ギアス・リング』は「最大HPを1にする代わりに減少した分、MPの上限値が上昇する」という学園ダンジョン裏階層産の装備品である。


 この指輪は魔法使い型育成の中でも一撃に全てを込める「浪漫砲」型という構築ビルドをする上で必須級の装備品なのだが、今回はデメリットである「最大HPを1にする」という点に俺は目をつけた。


 手順としては『巫蠱調伏の鉄杭』から始まり、『生滅の指輪』『不屈の鉢巻』の順番。


 鉄杭による状態異常『呪詛』の持続ダメージは「毎ターン最大HPの2%」と設定されている。

 ポイントになるのはこの最大HPというものがを参照元にしているということ。

 そしてこの世界において状態異常による持続ダメージが毎ターン発生する場合はそれが10秒に1回だとこれまでの戦いで判明している。


「だから杭で軽く自分を傷つけて『呪詛』を付与、んでそのダメージが発生するまでの10秒の間に竜の腹の中で『生滅の指輪』と『不屈の鉢巻』を装着した」


 これにより俺のHP最大値はたった”1”となり、そこに対して『呪詛』によるダメージが襲いかかる。

 『呪詛』は指輪装着前のステータスを参照しているため襲いかかってくるダメージは今の最大HPと比べて100倍近いものとなり、『不屈の鉢巻』がそのバカでかいダメージ量に反応してHPを1だけ残して耐えきることになる。


 俺はかつて鉢巻を装備した状態で『剣聖』のおじさんと鍛錬とは名ばかりの殺し合いを演じたことがあった。

 殺し合いと言っても実態は俺がおじさんの剣を覚えるまで致命傷を叩き込まれ続けるサンドバッグ状態だったのだが、その際に本来原作ゲームでは1戦闘に1度しか発動しない『不屈の鉢巻』が何度も発動していたのだ。

 その御蔭で俺はポーションで蘇り再びおじさんと斬り結んで『剣聖一閃』を身につけて……ともあれ現実化に伴い効果の挙動が変わっているのを思い出したのでこの組み合わせコンボを思いついたのだ。


「この世界におけるHPってのは雑に言えばだ。勿論、上限が大幅に下がれば戦うために必要なスタミナがゴリッと削れた実感があった。だけどそれは別に身体能力を下げるわけじゃない。そこは別のステータスが担保してるからな」


 だから逆に言えばたった1でも残っていれば戦い続けることができる。ほぼ無傷の状態でそうなった俺はただ死ぬほど疲れやすい身体になっただけであった。

 ちょっと違うところと言えば10秒ごとに死ぬほどのダメージを受ける個性的な性質があるくらいである。


 なお『不屈の鉢巻』は本当の本当にギリギリ戦える状態を担保してくれるだけで、別に傷を癒やすわけじゃないという点は注意しておくべきだろう。


 鉢巻によるギリギリの生存は「手足無くても噛みつくくらいはできるよな?」というレベルの理論上戦闘可能な可能性を残すものでしかない。

 なので1だけ残したところで傷を癒やさなければ出血による死亡などの危険性は残るし、戦えると言っても戦うための手足が失われていたら普通はもうどうしようもない。

 あくまでも最後の一線を超えないようにその一歩手前で一瞬ブレーキをいれてくれるというだけだ。


 それでも一応は生存できるのだから身につけておいて損はないのでは? と思う人もいるだろう。

 しかしそもそも強くなればなるほどHPの上限値は増加していくので強敵との戦いの中でも鉢巻が起動する条件を満たしづらくなっていくのだ。

 その上でもしも仮に起動して生き残ったとしても先ほど説明した「傷を癒やすわけではない」という点が問題となる。


 つまり、無傷の状態から一撃でHP全損させてくるような相手を前に踏みとどまっても回復する暇があるかという問題だ。

 俺がやったおじさんとの斬り合いに関しては回復の際には手を止めてもらうなどしてもらえたが、実戦の中でそんな状態は望むべきもない。

 だったらそれを装備する枠をもっと別の装備品にしたほうが有用だよね、という話になってくるので『不屈の鉢巻』を身に着けてる冒険者は殆んど居なかったりする。


「でも『呪詛』のダメージはどこかが欠損するわけじゃねぇからな。それに竜の腹の中なら食いしばり間のインターバル中に追撃してくるような敵もいない。空気だろうがなんだろうが10秒以内に死ぬ致死性ガスだとか強酸性の胃液だとかに触れなけりゃ


 これが俺の思いついたゲームと現実、両面に敷かれている法則システムの穴をついた「死んでも行動可能な方法」である。

 10秒事に背筋が凍るほどの悪寒と心臓を強く握りつぶされるかのような感覚が襲いかかってくる上に一振りごとに息切れしそうになる身体で剣を振り回し続けるのは中々に苦労したが、暴れている内にテンション上がって最終的には気にならなくなった辺りよく頑張ったなと自画自賛する次第である。


 それもこれもきっと過剰分泌された何らかの脳内物質のおかげだろう。

 ビバ脳内物質! 分泌量がおかしなことになれば不調を無視して何でもできる!


 この言葉が不穏に聞こえたならば寒い中で乾布摩擦すれば体が温まるのと同じ原理とでも思ってくれれば良い。多分同じようなもんだろ。うん。


「よくまぁ考えつくもんだ。素直に感心してやるよ」

「お前の感心なんていらねぇ。冥土の土産に話してやっただけだ」

「冥土の土産だなんて随分とモブらしいこと言うじゃねぇか。フラグで言えばこの後俺の大逆転って――あ? なんだ?」


 その時、窓際から微かに聞こえてくる音に七篠が気がついた。

 俺はその音に引かれるように無警戒に檻の中へと入り込む。床に転がる七篠を無視して、唯一の窓から外を覗き込む。

 やや遠くにある広場の光景がまるでズームしているかのように映し出されており、加えて聞こえてくる人々の声に時間通りだなと笑みを浮かべて振り返る。


「喜べよ七篠。どうやらお前の公開処刑が始まったみたいだ」

「へぇ、すぐそこでやるのかよ。つまるところここは舞台袖ってわけか」


 まぁ公開処刑のメインキャストと言われればそうである。なので舞台袖と例えてもあながち間違いでは無いのかも知れない。

 俺は糸使って七篠を窓の前へと手繰り寄せて固定する。俺はその後ろに立って覗き込む。


 公開処刑のために作られた断頭台。それを囲むように集まった人々。

 中世で行われていたようなイメージ通りの光景の中で、組み上げられた舞台の上に『聖女』コーデリア・タイナーが立っていた。






 前世において公開処刑といえば「見せしめ以上に見世物であった」などと言われているのを耳にしたことがある。

 実際、古今東西の国々でそれが民衆にとって娯楽として扱われていたという話は多いし、見せしめとしての効果が本当にあるかなどと疑問点も多く俺が生きていた頃には国として公開処刑を行っている場所など存在していなかった。


 じゃあこの国は時代的には中世辺りを意識しているわけだし異世界とは言え同じ人間なのだから公開処刑となれば娯楽の一種になっている……かと言われればそうではない。


 一大イベントではあるためお触れが出され多くの、それこそ街中の人々が集まってきているのは同じだ。

 しかしその視線には楽しもうという気持ちなど一切含まれていない。

 だから『聖女』が始まりを告げるように手を上げた途端に喧騒や野次がピタリと止んで、厳粛な雰囲気がそこに生まれた。


 前列には今回の事件で死傷した被害者の遺族や関係者達が集まっている。

 静かな怒りを投げかける瞳からはただ罪人の死を求める意思が込められており、中心にいる『聖女』が全てを受け止めていた。


「エーリヒ・シュタールベルク、マルハレータ・ウーレンベック、酒井 大介、クリスティナ・スアレス、森田 マサノブ――――」


 前置きもなくコーデリアさんが口を開く。

 大きな声は出していないはずだが供回りである『顔を隠した三叉槍の少女』が魔法でも使っているのか、その声はハッキリと広場全体に広がっていく。


 紡がれているのは人名だ。

 死亡や重傷、様々な理由でこの場に立てない被害者たちの名前が読み上げられている。


「――――アンヤ・アンデション、ジョン・ハトルストーン、ナギ・カキモト。以上、1695名。この場に姿は見えずともその魂は今も我らと共にあるでしょう」


 コーデリアさんが目を閉じ僅かに顔を伏せた。数秒の沈黙の後に顔を上げる。

 表情に何一つ変わりはない。だが纏う空気は一変している。

 それはまるで向けられていた民衆の怒りを代行しているかのような印象を受ける。続く言葉もまたそうだった。


「此度の騒乱。全ては『黒曜の剣』なる組織がこれを主導し、数々の被害をもたらしました。友が、親が、子が、愛するものが、彼らの振るう凶刃によって傷つけられました。国はこれを許さず、騎士団とそして『剣聖』佐貫章一郎殿を筆頭とした多くの冒険者達の協力を得てその首謀者たる男を捕縛しました。『聖女』コーデリア・タイナーの名の下に、その罪を暴き立て、然るべき裁きを下しましょう」


 コーデリアさんはそう告げて一歩身体を引く。

 『聖女』の名の下に、とは言うが実際には立会人と言ったところだろう。それを裏付けるように1人の男が入れ替わるように前に出てきた。


「これより、本件の首謀者たる男の罪を述べる!」


 頬を削ぎ落としたかのような細い顔に銀縁の丸眼鏡をかけた男、法務大臣のベンジャミン・バズビーがその体躯から出るとは思えないほどの大声を響かせる。

 手には王家の紋章が刻まれた羊皮紙の巻物。

 ベンジャミンはそれを一度掲げて民衆に確認させると封を開いてその内容を口にする。


「かの者は自身の野心と私利私欲のために国家統治機構を転覆また破壊することを目的に『黒曜の剣』なる秘密結社を結成し、その手勢を率いて国庫から指定封印禁具を盗み出し、魔人化技術なる外道の実験台として多くの冒険者や一般人を拉致監禁の上、殺害した! そしてついには諸君らの多くが目にした異形の外道共『魔人』の力によってダンジョンを操り暴動を引き起こした! これは言うまでもなく内乱罪に相当する!」


 その内容には幾つかの装飾が加えられていたが概ね正しいと言ったところだろう。

 本来の『黒曜の剣』首領は人知れず始末されているので、実質的な組織の後継者は七篠と言える。そしてそんなことを民衆に細かく説明する必要もないのだから。


「また、被告が主導した罪はこれだけではない!」


 そしてベンジャミンが告げた内乱罪の他にも『黒曜の剣』が行った様々な所業が説明する、それがどんな罪に相当するのかが読み上げられていく。

 殺人罪は当然のこと、普通は大きな罪の中に統合されていく器物破損だの傷害だの。奴が放った『魔人』や魔物による放火や強盗致死なども合わせて。


 こっちの世界の法律には明るくないので何がどれほど重たい罪になるのかは細かくわからないが、まぁ処刑台まで用意してるのでどんな判決が下るかなど火を見るより明らかなことだろう。


 それを聞いている人々は酷く静かなものだ。しかし無反応というわけではない。

 怒りを抑えてただ睨むように見据えている人もいれば犠牲者を想ってか涙を流す人、それを支える人など様々だ。


 共通しているのは老若男女誰もが一言も喋らないという点。

 どういう心理が働いているのかはわからないが、やはり見世物として見ている人間はいないということだけは確かだろう。


「以上の罪の数々、多くの証拠と目撃証言によってそれは証明された! もはや情状酌量の余地が無いことは明白! よってここにかの者に死刑を求刑するものとする! 異論あるものは声を上げよ!」


 当然、声を上げるものなどいるはずもない。その死刑は誰もが望んでいるものだ。

 これによって法の体裁は保たれた。ちゃんと裁判を行った。数々の罪と共にそれは正式なものとして記録される。


「一切の弁護無し! 被告、『黒曜の剣』首領。七篠 克己」


 そして満場一致を得て、犯した罪に対する裁きが下される。






「――!!」






「んーっんーっ! んーっ!!」


 断頭台に組み込まれた赤毛の男は口を布で覆われ、そして身体中を『魔殺の帯』で拘束されて。

 それでも唸り声を上げ、涙ながらに視線で訴え。何度も身体を揺らして抵抗を続けていた。

 それそのものはベンジャミンの罪状読み上げ中にも行われていたのだが、死刑と知ってか更にその抵抗は必死さを増している。


「んんうぅっ!! うーーっ!? んうぅぅうう!?」


 布越しにも伝わる困惑と混乱の感情。

 きっと民衆には自分の罪深さが今になってなお理解できてない醜悪で最悪な同情の余地もない畜生にしか写っていないだろう。

 だからヤン・ランの叫びは誰にも届かない。

 汲み取られないし、疑問にも思われない。

 壇上にいるベンジャミンも、コーネリアスさんも、三叉槍の供回りも彼の無意味な行いに一言も発することはない。


「うんぅぅ!?」

「刑を執行せよ!」

「んんぅぅぅんぅう――ッッッ!!!!」


 ズドン、とわざとらしく響き渡る大きな落下音が聞こえた。

 転がり落ちた頭部は魔法によって燃やされ、砕かれ、尊厳無くまた弔われることもなく土に帰る。

 胴体もまた同様に処理されるだろう。『聖女』が最後に犠牲者達に黙祷を捧げるように促し、公開処刑は終わりを告げた。








「――――は?」

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