187 水面下の三者
「――で。その後は竜の死を察知して向かってきた魔物を到着した『剣聖』殿と共に屠りながらダンジョンを伴い帰還した、と」
「はい。以上がことの顛末になります」
水の都、王都。
巨大な湖の中心に立つ王城の中。
重鎮集まる一室にてユリア・フォン・クナウストは此度の報告を自身の言葉で締めくくった。
前代未聞の学園ダンジョンの暴走、魔人達の無差別襲撃、そして3年ぶりの
第一報を聞いてから迅速に行動を続け戦力をかき集めながらも各地に現れた魔人を討伐している内に殆どの問題、特に竜の討伐に成功したという知らせは喜びよりも困惑と疑心の方が遥かに上回っていた。
しかし一週間もの時間をかけた調査の結果、その報告は全てが真実であると判明する。
壁外での戦いは外壁警備兵達の多くが知るところであり、竜の死骸は本物。
ボロボロになった学園ダンジョンは冒険者学園の元へと戻り、それらを成し遂げたのが学園に所属している学生の手によるものであること。
そしてさらなる裏付けとして彼らと共に行動していたユリアの口からダンジョン攻略から竜討伐までの仔細が明かされた。
「経緯はどうあれ数々の問題が解決され事件の首謀者も捕縛できた。考えうる限り最良の結果といえるのでは?」
「結果だけ見ればだろう。ダンジョンが魔物であるという事実は共存共栄のために秘されているものだ。騒ぎ出す者も利用せんとする者も必ず現れる」
「『魔物使い』技能保有者への対応も改めて考えねばなりませんな」
「それよりも魔人化技術だ。運用していた技術者や科学者は確保できなかったのか?」
「まさか活用するつもりか? 人道を外れて得られるものなど高が知れている。連中の無様さを見て、よくそんなことが言えるな」
「ならば全て焼き払えと? 竜の力を得た人間がいる中でその暴走に備え大元となる技術とその対抗策の研究は必要だろう」
「首謀者については公開処刑が妥当だろう。少しでも多く怒りの矛先を集めねば治安に影響が出るぞ」
「多くの記録にその所業と名が残されることになるぞ? 如何に統制をかけようとも全ては消しきれん」
「もしもこれらの情報が邪竜信仰者共の手に渡ってしまえばどうなることか。秘匿処刑にして記録を焼き払うのが一番では?」
その場はただの報告会であったはずだというのに重鎮たちが思い思いに喋りだす。
喧々諤々とした光景の中でユリアはただ一点。正確には唯一人の人物に目を向けていた。
自身と同じローズゴールドの髪色。
オールバックに纏めたその頭には黄金の冠が乗る。
薄い眉に人を射殺すかのように鋭い三白眼の男性。
3年前、対竜総力戦に参戦した先王の代わりに即位したユリアの父。
現王、クリメント・フォン・クナウストへと目を向けていた。
「静かに」
呟くようなその一言に誰もが反応し、一斉に口を噤んだ。
「一番の問題は『何故3年前に、これができなかったのか』と民に叫ばれることだ」
学生が犠牲もなく竜の討伐を成し遂げた。前回の戦いからたった3年でそれをやってみせた。
学生に出来たのであれば国でそれができなかったのか? なぜやらなかったのか?
対竜総力戦にて戦死した遺族や関係者がその声を上げることは目に見えている。
それは国への批判となり、ともすれば犠牲となった英雄たちが無駄死にであったのではないか、別の目的があったのではないかという邪推を招く。
ダンジョンが魔物であることは秘中の秘であり、国の中でもごく一部の人間にしか知られていない。
その上で竜に対してダンジョンを使役して戦わせる、という発想は確かにあった。
しかし、やりたくてもできなかったのだ。
彼らには七篠のような
自己利益という邪念の混じった言葉を使い、国はこれまで幾度となく『魔物使い』によるダンジョンとの対話を試みては失敗してきたのだ。
「民は国が強大であり、守護者足り得るからこそ国に従う。その強さに陰りを見せれば、別の何かに縋る者が現れる。それは国を割りやがては人類全てを滅ぼす毒となる」
バビ・ニブルヘイムの暴虐により神々の強さを疑い、自らの力を過信した末に滅んだ
国の法を良しとせず、従わず、ただ展望なき反発の末に最強種たる竜の力に魅了された邪竜信仰者然り。
増長させてはならない。存在させてはならない。
民の心に入り込む隙を与えてはならない。
そのためにもこの失態を対処に成功したものだと、3年前からの積み重ねにより『勝利した』という形に置き換えねばならない。
まずは勝ったのだと大々的なインパクトを与えた上でそれに紛れる形で諸々を処理するのだ。
現王クリメントはそう言った後、周りの発言を許可するように口を閉ざした。
「であればまずは動き出したダンジョンに対する情報統制から始めねばなりませんな」
「あの巨体を目にした者たち全てを黙らせるというのか? それは不可能だろう。理性的に黙らせても、酒で口を滑らせるものもいる」
「誰が語ろうと与太話と受け止められれば……何か思いつく手段はあるか?」
「首謀者はやはり公開処刑にするべきだろう。民の怒りと憎悪を煽った上で処断する。罪状読み上げも凄惨な文言で装飾を加えた上でだ」
「あえて所業を知らしめることで戦勝の空気を高めるということか。ならば世俗の空気を上手く操らねばならない。記録を残すのはやむ無しか」
王の言葉に方向づけられ重鎮たちが動き出す姿を前にユリアは静かに眺め。
そして話し合いが始まってからずっと心に抱え続けていた気持ちを悟られぬようにと飲み込んで、目を開きゆっくりと手を上げた。
「それにつきまして私に腹案があります」
注目が集まる中、ユリアはゆっくりと語りだす。
それは人道を外れた外道の行い。
だからこそ最小の行いで最大限の効果を発揮する恐るべき企み。
話が進むにつれて重鎮たちはその策謀の悍ましさに目を見開いていく。
それは冷淡な視線を向けていた現王クリメントも同じくであり、眼の前にいる娘が本当に自身が知る人物かと疑った。
「――さぁ、如何でしょう皆様。私としてはコレが最も効果的であると思いますが」
効果的ではあるが、効果的であることのみしか考えられていない外道の策。
そこにクリメントは違和感を覚え。王はユリアを通じて策を上奏する何者かがその背後にいることを看破した。
そしてその何者かは明らかに常軌を逸した視点と思考を持っており……王は僅かな思考の末に娘に策を語らせる彼の正体を見抜いてみせた。
重鎮たちが押し黙り王の反応を待つ中、クリメントは思考する。
その所業がもたらす効果が各所にどのような影響をもたらすのかを。
短期的のみならず長期的に見てどうなるかを。
検討し、予測し、思考して。かの王には珍しい長考が周囲の不安を掻き立てる。
「甘言には乗らぬ。それは王道に外れた行いである」
王は外道の思索を拒絶した。
ユリアを通じて提唱されたルイシーナ・マテオスが持つ魔人の力。
洗脳能力を有する『血霧』を利用した民草への記憶改変。
公開処刑に先立ち「死んだはずの歌姫が復活する」というセンセーショナルな見出しで人を集め、歌わせ、支配下に置く。それを目撃者のいる街全てで行う。
確かにこれならば情報統制に傾ける労力は少なくなるだろう。
誰かが真実を語ろうともそれを受け止める大衆というものがそれを与太話として認識させることもできる。
オペラハウス事件にて報告された『血霧』の性質からその力の及ばぬ強者というものは冒険者だろうが騎士だろうが概ね社会秩序側に立っている。
彼らの口だけに範囲を絞って情報統制を行えるならば大衆全員を相手にするよりも遥かに楽だ。
だが王は思考の末にその天秤を拒絶に傾けた。
短絡的に得られるメリットよりも予見される将来的なデメリットが遥かに上回ると考えたからだ。
第一に以前『剣聖』とその協力者の手によって処断された『黒曜の剣』首領、その邸宅から発見された計画書の中にルイシーナの『血霧』をこの提案と同じように利用する企みがあったこと。
この提案を許せば王たる自分は首領と同じ存在であると言うようなものである。
品格を落とし、権威を落とし、最悪の場合は『剣聖』を敵に回すことになる。
国家成立から長い時をかけて積み上げてきた王族への敬意を損なうことは将来的な果断に従わぬと言う者を生み出しかねない。
信頼に対する罅ははいつか国を割るほどの亀裂になるとクリメントは考えた。
第二に魔人による洗脳という手法を王が許可したならば、今後重鎮たちが「王もやったのだから」と同様の手法に手を出し始めると予想したため。
どれだけルールを設けて縛ろうとも最上位者たる王が認めたならばと考えるものは必ず生まれる。そしてそれはたった1人に留まることはない。
その先にあるのは洗脳対処の頻発。悪用。腐敗。
そしていつ誰がどのように何を指示したのかがわからなくなり、果てにはそもそもの問題が解決せぬまま放置されてしまう事も考えられる。そんな悪い想像が幾らでもできてしまう。
「しかしユリア。お前の国を想っての上奏を咎めることはない。『血霧』の利用は言語道断だが、事件首謀者の目的を阻止する手法については採用してもよい」
「父上、ありがとうございます。ところで、そう仰られるのであればルイシーナ・マテオスについては如何されますか?」
「オペラハウス事件を引き起こした罪、此度の国家存亡事案に対する尽力。功罪共にあるとすれば『黒曜の剣』に生まれ、そうあれと育てられた点を考えるに情状酌量の余地はあろう。法務大臣、どうだろうか?」
「……書類上は既に死人でありますから裁判等にはかけられませんので、ご随意に」
「ではユリア。後は上手くやれ」
「かしこまりました父上」
眉をひそめながらも答えた法務大臣ベンジャミンに対してユリアの白々しさすらある返答にクリメントは内心呆れながら決定を下した。
語られた非道の提案はルイシーナの持つ洗脳能力が中心的役割を持っている。
その案を却下したとあれば、今度は彼女の扱いそのものに目を向けなければならない。
なにせ彼女の力が悪用方法と共に知られてしまった以上は排除するか否かを明確にしなければ要らぬ不安を撒き散らし、意向がハッキリしないからこそ暴走する者が現れかねないからだ。
その上で第一の理由として『黒曜の剣』首領の行いに否を叩きつけた以上、ルイシーナへの扱いもまた人道的なものにしなければ王としての立場に揺らぎが生じてしまうだろう。
ユリアはそれを見越して非道の提案を口にして、直ぐにルイシーナへの決断を求めた。人道的な決断のすぐ後に「危険だから殺せ」と言えないように。
ユリアとルイシーナの関係性は友人に近いものがあると報告を受けている。そして彼女らが轡を並べ共に戦ったことも王は知っている。
つまるところこれは遠回しな助命嘆願。
王は此度の功に対するユリアへの報酬としてそれを聞き入れた。
「(それと、ユリアにこの策を与えた桜井 亨。『剣聖』の弟子とは聞いていたがただの武辺者というわけでも無いようだな)」
『血霧』を利用した民の洗脳工作。
恐らく許容できないレベルの非道部分についてはユリアのための餌のようなもの。
彼の本命は徹底的なまでに七篠 克己の野望を挫くことにある。
上奏された提案の中に明らかな謀略、しかも国側に望ましいものが含まれていたのがその証左だ。
そして部分については採用することに何の否も無い。
王は桜井に対する認識を改める良い機会になったとそれを捉えた。
桜井はユリアに餌を与え、そこに紛れ込ませた謀略を国に対して通してみせた。
ユリアはメッセンジャーとしての役割に加えて得られた餌を利用し友の命を守ってみせた。
そして現王クリメントは彼らの狙いを看破した上で正義正道の立場を定めその敬意と威厳を積み重ねた。
王によって大まかな方針が定まったことで重鎮たちが動き出す。
クリメントの残りの仕事は彼らの話し合いが前提からズレぬように舵を取ることであり、そこにユリアがいる必要は無くなった。
彼女は桜井より与えられた本命の謀略だけは実行されるようにと念を入れるように一言二言発した後、一礼して部屋から退出した。
扉をでてなお気を抜くこと無く背筋を伸ばし、警備の近衛兵達に対しても王家としての品位を見せつけるように歩いていく。
「…………ふぅ」
それでも供回りと合流するまでの僅かな間、彼女は廊下の途中で小さく吐息を漏らした。
「(父上は亨君と私の求めているものを的確に見抜いてくださった。功績在りきとは言え、本当にありがたい)」
もしも仮に自分たちの企みが全却下されてしまっていたならば桜井は独断で動き出すだろうし、ルイシーナは雲隠れしていただろう。
ユリアにとって彼らは大切な友人であると共に目の届く場所に居てもらわねばならぬ爆弾だ。
爆発させないように、もし爆発してしまったとしてもその被害を最小限に留められるようにしておきたい存在である。
だからこそ2人が求めているであろうものを確保できたことにユリアは安堵していた。
「なんとかなって、よかったぁ」
ユリアは心からの本音を呟きつつ帰路についた。
彼女は知らない。
桜井が提唱した『血霧』の利用法は交渉のための餌でもなんでも無く、場当たり的に思いついた混じりっけなしの本音であったことを。
それによって危険視した国が敵に回ろうともいつかルイシーナが暴走して再び悪の道に堕ちようとも。
その時は正義を叫べる方に味方して相手を経験……その時に考えればいいかぁ! などと軽薄な考えでいたことを。
もしも仮に桜井の提案が全て採用されていたならば……いつの日か爆発する新たな火種が生まれていたことはまず間違いないだろう。
こうしてユリアは自らさえも知らぬ間に最悪の未来を回避することに成功していたのであった。
七篠が引き起こした騒動から一週間と少しして、街が落ち着きを取り戻してきた頃。
俺は街中に点在している妙に細長い塔の一つにユリアと共に足を踏み入れていた。
ここはなんでも高い位置から街の状態を確認したり、火事や敵襲があった際に鐘を鳴らして周知させたりと概ね治安維持に関わる形で利用されているらしい。
細長い塔の内部は狭い螺旋階段。
装飾がないどころか窓の一つすら無い、使えればいいと割り切られた石材むき出しの作りになっている。
「窓の一つもねぇし中って湿ってるもんだと思ってたが意外とそうでも無いんだな」
「今は雨季でもないからねぇ。それでも雨が長引いた後は足元は滑るし、どこからか出てきた苔やらカビやらで手直しに苦労するそうだよ」
「ふーん」
足元に並ぶ石材の段差は中央付近がやや凹み、角は丸みを帯びている。
足を踏みしめる場所が長年の使用で擦れ、削れているのだ。それだけ人の往来があったということだろう。
「最上階は亨君の要望通りに改装してある。防音の結界も施してあるからどれだけ叫ぼうとも外には伝わらない」
「盗賊ギルドの連中に任せたんだよな? いやぁ『特性付与』から今日まで何かと便利で助かるわ」
「あまり多用されるのも困るのだけれどね。それはそれとして、竜討伐の名誉を『剣聖』殿に渡すだなんて本当に良かったのかい?」
「別に名誉だとかそういうの要らないしなぁ」
なんやかんやあって討つことになった竜。
実はその討伐の事実を俺は後から合流したおじさんに押し付けていた。
これは俺が無駄に注目されると面倒な手合が接触してくるのを嫌ったことと、国側の「学生たちのみで討伐」という真実を隠したかった意図とが合致した結果である。
なんでも「3年前の悲劇を通じてより強くなった『剣聖』が竜討伐を主導した」という事にしたかったらしい。
過去にあった総力戦の遺族やら何やらかの不満を抑えるためにおじさんの存在は便利なんだそうで。
対するおじさんは「何で俺が坊主の功績乗っけられ無きゃなんねぇんだよ面倒くせぇ」と漏らしていたが、国側が予想している内容を聞いてため息をつきながら承諾してくれた。
『坊主がやったことを見て「何であの時これをやらなかったんだ」と言いたくなる気持ちは理解できる。でもよ、俺達はあの日、できることを全部やって立ち向かった。冒険者も騎士も国の連中も。俺ぁそれを知ってんだ』
『だからこそよ、それを口にしたらよぉ。言ったやつも、言われたやつも、聞いたやつだって暗い気持ちをずっと抱えることになるだろうよ。解消しようが無くなっちまうわけだ。面白くねぇ』
『斬り捨てるしか能の無い俺の剣がそれを防ぐ一助になるってんなら、あの戦いに参加した人間として嫌だとは言えねぇわなぁ。貸しだぞ坊主?』
押し付ける側の俺としては「真反対側にいたせいで全部終わってから汗だくで辿り着いた師匠に感動した! 是非ともこの功績を受け取ってほしい!」といつかの借金に対する当てつけじみたものがあった。
なので普段は随分と享楽的な印象があったおじさんがそんな殊勝なことを言うとはまるで思っておらず、耳にした時には「俺の師匠がこんな真っ当なことを言うはずが……!?」と驚いたことは記憶に新しい。
それが思いっきり口にでちゃったことで喧々諤々、最終的にはまた立ち会いでボコボコにされて笑われることになったがそれはまた別の話。
竜の力使ってもタイマンだと防戦一方になるおじさんやっぱなんかおかしいって。でも大太刀を抜かせたのは確かな進歩だと思うし経験値ごちそうさまですまたおねがいします畜生!!
そういえば竜の力と言えばあの土壇場で発現、習得した『半魔人化』のスキル。
敵専用スキルである『魔人化』の劣化版ではあると思うのだが当然ながら原作では見たことのないスキルだ。
俺はこれによって竜の力を部分的に扱えるようになったのだが、どうやら原因は学園祭での戦いとその後に訪れた冥界にあった。
というのも戦いの後で竜化した左手が戻らなくなったので「こういうことは頭のいい神にでも聞こう」と冥府にいるトート神を訪ねたらあっさりと答えてくれたのだ。
『言ったじゃねぇか変なもん混じってるから調整しておいてやるってよ。一ヶ月以内に同じ因子持ってる竜の『
そんな感じで「便利かどうかはお前次第だがよ!」とゲラゲラ笑われながら手の戻し方を教えてもらい、俺はなんとか人の身に戻ることができた。
その後、魔人達が暴れまわった街の後片付けを手伝う気が欠片も無かった俺はそのまま冥府の『塔』で試運転がてら『半魔人化』を試したのだが……まぁこれが上手く行かない。
どうにもこの力、俺自身のボルテージというかテンションが高い状態じゃないと使えないらしい。
しかもレベル上げ中の「アッハハハハッ!」くらいじゃダメみたいで「ウィーヒヒヒヒィ!!」くらいの高さが求められるのだ。
え? 度合いの違いがわからない?
理解できない人たちはレベル上げ能力が足りてないので先生と一緒に飲まず食わずで三日ほどレベリングし続けようね。
するとこう、人間の中にある予備電源みたいなのが起動して新たな境地に目覚めてよりレベル上げが楽しくなるからオススメ。
そこまでいけばきっと俺の言ってることを理解できるようになるだろう。多分。
まぁともあれ。
発動できれば強いが冷静な状態じゃ使えない、どうにも不安定な力というのが『半魔人化』の現状。
使い続ければスキルの経験値も溜まって安定してくるだろうから長い目で見て育てていこうというところである。
「さぁ着いたよ。ここが最上階だ」
「ん? あぁ、あんがとな」
ぼんやり回想している内に螺旋階段を登りきり最上階へ。
眼の前には重厚な鉄の扉が一つだけ。俺は今の時間を思い出しつつ、ドアノブを握る。
「んじゃここで少し待っててくれ。広場のイベントはもうすぐだったよな?」
「予定通りなら10分も無いといったところかな。君が入り次第、要望通り窓際なら聞こえるように集音するように言っておくよ」
何から何までありがたいことだ。軽く感謝をしてから俺はユリアを残してゆっくりと扉の先へと踏み込む。
真っ先に目に映ったのは壁の一部をくり抜いたような鉄格子のはめられた小さな窓。床は石材むき出しで家具の一つも何も存在しない。
次いでわかるのは小部屋の中を更に区切る鉄格子。つまるところ部屋の中に窓側の壁に接する檻が作られている。
これは独房だ。
たった1人を閉じ込めておくだけの、俺が無理を言って急造してもらった独房。
そしてそのたった1人は部屋の中心に転がっている。
両手足を失い、傷口を火で焼き付け、更には『魔殺の帯』を幾重にも巻いて拘束された――七篠 克己。
「あぁ? なんだ、テメェか。モブ野郎」
無惨な姿を晒しながらも相変わらずそう吐き捨てるコイツのために、俺はわざわざ準備をしてここまできたのだ。
正直なところ面倒くさいという気持ちでいっぱいであるがこれが最後だと言い聞かせ頭を切り替える。
「ふぅ……」
刹那の想起に怒りを蘇らせ、燃え上がるそれを数秒待って飲み込んで。
後に残った熱を払えば訪れるのは冷徹な思考と凪のような心持ち。これでいい。
「(――よし、やるか)」
これが本当に、本当に最後の最後。
決着をつけるなんてものではない、ただの後始末を始めよう。
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