171 勝ちは勝ち
なんかよくわからんが勝った。
「本当にどうやったんだよ桜井」
「知らん。なんか勝ってた。あれじゃね? 鍛錬によって身体に染み付いた動きのお陰で無意識の中でも戦えたとかそういう?」
俺の言葉に全員して懐疑的な言葉を向けてくるが俺としても学園長がぶっ倒れてる理由がわからない以上はそうとしか言えないのだ。
学園長は作中唯一の幻覚魔法使いであり、原作ゲームにおいて”ほぼ”無敵の存在と言って良い。
というのもこの男、戦闘開始時に指を鳴らすだけで全員を戦闘不能の陥らせる上に作中のどんなアイテムを使おうとも対処できないのである。
じゃあどうすれば良いかというと「世界から音を消す」のだ。
具体的にはタイトル画面のオプション設定からBGMもシステム音もボイス音も何もかもOFFにすること。
これによって
ちなみにこの時、ゲームプレイ中のメニュー画面から行けるオプション設定でそれらをOFFにしたとしても学園長の指鳴らしだけは音が発生して敗北する仕様になっている。
つまり学園長とは世界の外側からそれこそ世界に降り立ってない段階にある
こんな攻略法を考えた製作者側もおかしいし、見つけ出した側のプレイヤーもどうかしているとしか言い様がない。
いや8割位は製作者側がおかしいな。思いついたって普通やるか?
でもオニハルコン搭載する連中だしやるか……不快度で言えばあの鬼の方が万倍上だしな……。
「まぁ勝ちは勝ちだ。さっさと学園長拘束して保管庫漁りに戻ろうぜ!」
「言うと思ったよ」
「私と赤野さんは檜垣さんとエセルさん連れてきますね」
俺が提案する前に動き出す面々。
天内は持ち込んでいた縄で学園長を拘束し、エセルと赤野は入り口で寝転んでいるであろう見張りの2人を回収しに。
そして俺は『剣聖一閃』で扉の鍵を斬り裂き、ルイシーナが「えいっ」と気の抜けた声を上げて重い扉を開け放つ。
目に入るのは金銀財宝の煌めき……などではないが、力を求める俺たちにとっては幾千金もの価値がある武具やアイテムがこれでもかと保管されている。
「『シルフィード・ハート』『アバルソード』『魔殺の帯』……色々ありすぎて目移りしちまうな」
予想通りの物が予想以上の数でそこに収められている。
俺はその光景に満足しながら各人に合ったアイテムを集めるために踏み込んでいく。
それはレベルを上げるためではなく、ただ敵を打倒するための強さを追求するための第一歩である。
「んじゃ、もらうもん貰っていくとするか」
我ながららしくはないなと思いながらも、アイテム溢れるこの光景を前にゲーマーとして胸が膨らむものを感じてしまう。
それを目的意識で塗りつぶし、連れてこられた檜垣達含めて手分けして探し始める。
奪うべきアイテムの名前と外見の特徴を伝えて、正確でなくともまずはそれっぽいものを集めるところからスタートだ。
「桜井、お前が言ってた『
「わかりにくかっただろうによく見つけたな檜垣。枚数は……2枚か。複数あるだけ上等だな」
「トール! 『
「そのまま全部もってこい! 俺が確認する!」
「桜井さーん! ありました! ありましたよ『黄金ぶどう』!」
アイテム回収は俺と同程度に分かっている天内の補助もあるとは言え、意外にもスムーズに進んでいた。
探す連中に対して俺は次から次へと持ち込まれるそれらを準備していた荷物袋に詰め込む役割を担っている。
ポーション類や『黄金ぶどう』のような食べ物系アイテムなどは適当に入れて持ち出そうとすると他のアイテムとぶつかり合って破損してしまうものもあるため慎重に扱わねばならないのだ。
あぁして、こうして、これをこう入れて…………。
「……なんか、旅行のために荷造りしてる感じしてきたな」
「やってるのは強盗だよ桜井くん。はい『
「あぁ、そうしてくれ。次は天内と合流して防具類を探すの手伝ってやってくれ。特徴はアイツが指示してくれる」
「わかった。隼人ー! どこー?」
防具類に関しては天内に任せてある。お互いに勝手知ったるゲーム世界のアイテム類だ。
短いやり取りで鬼剣オニガシマのフレーバーを思い出せるくらいには奴もやり込んでいるのだから、敵の性能と軽い打ち合わせをしておけば十分なものを選んでくれるだろう。
後、なんでか知らないが赤野やエセルが「
どうして防具の時だけそんな反応をされてしまうのか?
思い当たる節と言えば学園祭において服を脱いでスリーサイズ測らせろと言ったことくらいなのだが、その程度のことでそこまでの反応をされるものだろうか?
とはいえそこを追求してゴタゴタするのも馬鹿らしいので、彼女らの意見も踏まえて防具類は天内に任せることとなったのだ。
こうして俺たちは手分けして保管庫を漁り、目的のものを手に入れたら急ぎ荷物に詰め込んだ。
なんだかんだでかかった時間は10分あったかどうか。
強盗計画にしては悠長で、魔法的な警報が鳴っているならば誰かしらが踏み込んできてもおかしくなかったがその間に新たな人物が現れることは無かった。
となれば後の展開はなんとなーく予想できる。
なので俺はそれを乗り越えるためにもみんなを驚かせないために脱出前に先の展望を語り、天内から「お前についていくと決めたこと、後で後悔すると思ってはいたがもうすでに許容量を超えそうできつい」だのアイリスから「全部終わったら全員で謝って回らないとですね……」だのと褒められた。
俺自身やや遵法精神が薄れている自覚はあるが、俺たちは私的な理由で勝手に首を突っ込んでいる愚連隊なのだ。
ならばもはや我らは一蓮托生。考えた俺も悪ければ止めずに乗ったお前らも悪い、の精神を宿してみんなで赤信号を渡ってしまうくらいが気楽で良いだろう。
なーに、最終的に七篠始末して事態を解決させれば罰せられたとしても功績の部分で人生のリカバリーは効く……と良いな!!
そんなわけで未だ気を失っている学園長と一緒に地上へと戻り、保管庫に仕掛けられていたであろう魔法の警報を察知して囲んで待ち構えていた学校職員の面々に対して用意していた覆面を着用した俺が率先して声を張り上げる。
「貴様ら! 保管庫で何を――っ!?」
「オラァ! こっちには人質がいるぞぉ! 学園長と
拘束した赤野の喉元にナイフを突きつけている俺、隣には同じく縛り上げた学園長の首元に刃を向けている覆面着用の檜垣。
ざわつく連中の中から聞こえてくる「あの声、間違いなく桜井だろ!」という風紀委員の言葉を無視しつつ、俺は「犯人2人組と赤野と人質に取られて協力せざるをえない天内達」という体で真正面からの強行突破を図るのであった。
適当なところで学園長と野次馬しにきてる市民だか学生だか複数人と交換するか。人質って、数がいてなんぼみたいなとこあるし。
じゃあ赤野、連中に本気っぷりを見せつけるためにこの『奇術師のナマクラナイフ』で脇腹少し刺すからいい感じに痛がってくれ。せーの、えいっ!
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