128 経験値へ感謝を
入れ替えパズルは順番を間違えると禁書に封じられた魔物が解放されてしまうものではあるが、そこはこの俺、転生者。
一切の迷いなく正しい並びに本を入れ替え隠し扉を出現させると、その先に保管されている書物を入手する。
タイトルも記されていないその古い書物はしっかりとした本と言うよりも複数の羊皮紙を綴じた冊子のようなもので何処と無く歴史を感じさせる。
しかしありがたいことに、そして奇妙なことに、数百年は前に作られたであろうこの書物に使われている文字は今の時代に使われているものとなんら変わらないため問題なく読むことができた。
ただ内容は俺がゲーム時代に見たものと大きく変わらない。要は「ダンジョンって実は魔物だったんだよー!」というものだ。
後は神々に庇護されていた人間たちがダンジョンと共存するようになるまでの歴史、人類が自分たちの力で歴史を描き始まるまでの軌跡がゲーム時代以上に細かく記されているくらいだ。
ちなみに神々が地上を去り、人類がその生存圏を狭めて1つの国に纏まることを余儀なくされたその切っ掛けというのが「邪悪たる夜空の王」……つまりアイリスの父親である「バビ・ニブルヘイム」が大暴れして数々の国を滅ぼして回った一件にあると記されている。
アイツのせいで複数の国から成り立っていた防衛線はグッチャグチャになって攻め込んできた魔物に滅ぼされる国が出るわ、アイツを討伐するために多くの犠牲を出すわ、神が国を支配する体制に懸念と不安を抱き始める集団が現れるわと大変だったらしい。
「本当にろくでもない奴だな。少しは他人のこと考えろや」
今更言っても詮無きことだが、そんなんだから周囲に敵を作って囲まれで棒で殴られるのだ。
自分勝手な人ってこれだから嫌だねー。
ちなみに神々が
そんな中、とある魔物使いが奇跡的にもダンジョンとの対話・交渉に成功したことでダンジョンが縄張りとしていた場所に人類の生存圏を新たに得ることができたそうな。
これによりダンジョンを中心として再興を始めた人類は自分たちを滅亡一歩手前に追い込んだ
その上で既に地上から去っていった神々に対して自分たちが過ちを犯したことを認め、その償いとして改めて神々を崇めることで許しを得ようとした。
これが宗教の始まりであり、神々の教えを聖典にまとめそれが共同体の中で根付くように制度を作り上げ各種問題を解決して現代にまで続く基盤を作り上げた偉人こそがエセル達の祖先である初代聖女である。
貧乏くじを好き好んで引きに行く超人とそれに甘えた人々のせいで聖女というのは歪な存在になってしまったわけだな。
これだから敬うだけで
「しっかし、魔物使いがダンジョンと交渉成功ねぇ」
魔物使いは『魔物使役』のスキルを有するキャラクターのことであり、彼らはその名の通り魔物を支配下におくことができるようになる。
使役できる魔物の強さや数はスキルレベルに比例しており、レベルが高ければ高いほど自分のキャラクターレベルを超えた存在でも支配下におくことができる存在だ。
しかし当然のことではあるが、ゲームにおいてはダンジョンが魔物であるという設定があってもシステム的にはマップでしかないため『魔物使役』の対象にすることはできない。
加えて『魔物使役』はスキルレベルを最大値まで上昇させたとしてもボスクラスの魔物やドラゴン等の壁外に住まう強力な魔物も対象にすることができないようになっていた。
魔物使いはあくまでも国内におけるダンジョンの中に現れるボス以外の魔物に限って支配下における存在である。
俺はそれを知っているからこそ『ダンジョンとの交渉に成功した』とされる魔物使いを羨ましいと思わずにはいられない。
仮に真の意味でダンジョンを私物化できたのであれば、それこそ俺はダンジョンの入り口を閉ざし未来永劫引き篭もりながらレベル上げに励むことができるかもしれないのだ。これを最高のレベリング環境と言わずしてなんというのだろうか?
もしも過去に遡ってその人物に出会えたのならダンジョンを支配下に置く方法を聞き出すか、拘束なり脅迫なりして事実上ダンジョンの乗っ取りを画策するのだが……と考えたところで、ふと気がつく。
「ダンジョンの支配……これ、あのチート野郎ならできるんじゃないか?」
現実化したこの世界においてはポーションの裏設定などのゲーム時代には何ら影響を及ぼさなかった部分がしっかりと機能している。定められた設定がフレーバーではなく事実として存在しているのだ。
それはつまりゲームではマップでしかなかったダンジョンはこの世界においてしっかりと魔物として規定されている可能性が高いということだ。
そしてダンジョンはゲーム時代において実データを持たない設定上の魔物であったが為に『魔物使役』の対象外とするための属性付けがされていない可能性がある。
となると『魔物使役』スキルの対象となる『国内のボス以外の魔物』という条件をダンジョンは満たすこととなり、交渉にさえ成功すればダンジョンを支配できるかもしれない。
もちろん生物の頂点であるドラゴンに次ぐ第二位であるダンジョンを支配するには前提として高レベルの『魔物使役』スキルが必要であり、それはゲームにおける最大値程度では全く足りないであろうことは想像に難くない。
だが奴には、七篠 克己には条理を無視することができる
過去には実際にダンジョンと対話を成り立たせ交渉を成功させた実績のある人物が居ることがわかっているのだから、『世界介入』の力でその人物と同レベルかそれ以上の『魔物使役』スキルを手に入れればダンジョンを支配下に置くというのは理屈の上では成り立つだろう。
「でもアイツ、ボスキャラの体使ってるからか経験値入らないとか言ってたしな……ダンジョンを支配してなんのメリットがあるんだ?」
ダンジョンの存在意義を「俺の経験値稼ぎに大きく貢献できるもの」としか思っていない俺には経験値を得られない体でダンジョンを支配下におくメリットも動機もまるで思いつかない。
だから筋道こそ通るものの思いつき以外の何ものでもないコレは頭の片隅に置いておくに留める。
そもそもそれが事実だったとして、ダンジョンに入り込み封鎖を解除する方法を探さなければならない現状には何も変わりはないのだ。
というか『世界介入』って便利すぎて無理のある話にも筋道立てられるようになるな。
七篠になにかの罪を着せたい時には「これも『世界介入』のちょっとした応用だ」とでも言えば免罪付与いけるんじゃないか? これは覚えておこう。
「そんなことよりも、もっとこう直接的に中に入り込めるような、どストレートな解決法が書いてるやつとか無いのかよー」
文句を言いながらあれやこれやと探し回るが、小一時間かけても残念ながら有益な情報を見つけることができない。
これは俺の探し方が悪いのか、それとも有益な情報がそもそも存在しないのか。
どちらなのかも判断することもできず段々と苛ついてきた俺は腹いせに本棚のパズルをわざと間違え、魔物が封じられている禁書を解放して出てきた奴をしばき倒す。
「
多分、身振り手振りからして「お前の願いを叶えてやる」的な取引を持ちかけてきたのだろうけれど、その場合でも経験値になってもらうことを願っていただろうからどうせ末路は変わらない。
つまり彼は身を挺して俺の経験値となる道を選んでくれたのだ。
ありがとう魔物、フォーエバー魔物。君の名前は忘れても、君から得た経験値数は忘れない。
そうして腹いせに倒した魔物からドロップした回復ポーションを多少の足しにはなるかと思いコーデリアさんの傷口に振りかけると――
「う、ぐ……ここ、は……?」
「あ、起きた」
――背中の傷はまだ癒えていないものの、我らが聖女様がゆっくりと目を覚ましたのであった。
さて、隠し扉が開いていることへの言い訳でも考えるとするかな。
調べ物をしてたら偶然開いたということでゴリ押しできるかな……できると良いな……。
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