071 犯罪行為を少々……。
「バカがバカですまない」
「現れて早々貶めるのやめろや」
お昼時。
俺は学園内の食堂で檜垣と合流し、天内と赤野、そしてエセルと昼食を取っていた。
そして俺が授業妨害を行ったなどという根も葉もない噂を耳にした檜垣が現れ、天内達に謝罪しているわけである。
「ほんとよ。大体授業中に素振りをし始めるなんて非常識にもほどがあると思わないの?」
「200ゴールドでいいか?」
「でも私に実害は無かったし、世の中多様性と
「風紀委員である私の前で賄賂とはいい度胸だな」
取り出した金を没収する檜垣に抗議するエセル。
俺はそれを横目で見つつ頭を抱える天内と、俺が顔を向ける度に困ったように苦笑する赤野へと向き直る。
「まぁなんだ。世話係に関しては俺も予想外だったし、あんまり気にすんなって」
「もう大分手遅れだよ」
「あ、あは、あはは……」
授業の後に俺は教師と熱い握手を交わし、俺の座席の事やこれからの学園生活に関して相談をした。
その際に俺が話しかけた時に大声を出したせいで、周囲に完全に俺の知り合いだと認知された天内は教師の手により俺の世話係として任命されたのだ。
世話係とは言うが実際には遅れて学生生活を始める俺に配慮して、あの温泉教師が話しかけやすいように大義名分を与えてくれたに過ぎない。
それを理解してるかどうかは知らないが、なんだかんだで面倒を見てくれそうな雰囲気を出してるのできっとコイツら根は善良なんだなと思う。
「とりあえず、学園の案内はする。何かあれば言ってもらって構わないけど、ほどほどにしてくれ」
「隼人はこう言ってるけど気軽に声かけてもらって大丈夫だからね? えーっと、桜井くん?」
「呼び捨てでも何でも呼びやすいのでいいぞ」
「じゃあやっぱり桜井くんで」
赤野は笑顔でそう言ってくるものの、微妙な距離感を感じる。教室での出来事がまだ尾を引いているのだろう。
素振りも授業も本質は同じで自分を鍛える行為であるというのに、君たち目に見えてるものに囚われすぎじゃない?
経験値が見える力を手に入れて僕と一緒にレベル上げしようよ!
「こんな奴だから目を離すと何を起こすかわからないからな。気をつけてくれ」
「ところで世話係の時給は幾らなの?」
檜垣の言葉に反応して金を取ろうとする我らが銭ゲバエルフ。
とりあえず基本時給300ゴールドで、名前呼びで「+20」、旦那様で「+50」、ご主人様「+100」辺りでどうだろうか?
「…………ご主」
「エセルちゃん?」
「トール! トールね! はい、時給320ゴールドよ!」
「その理性に免じて330くれてやろう」
「わーい! やったー!」
赤野の声に魂を売る手を止め、エセルは僅かに切り売りするに留まった。
そして流石に悪ノリが過ぎたのか赤野から冷たい視線が向けられる。
いやぁ、エセルの反応が面白くてつい財布の紐が緩んでしまうのだ。許して欲しい。
「とりあえず飯を食い終わったら学園内を案内する。午後のダンジョン探索までには戻るから、エセルと玲花は準備しておいてくれ」
「え、隼人。私達もついていかなくて大丈夫?」
「男子更衣室とかも案内しなきゃだしな。女子を引き連れていくのは周りにも迷惑かなって」
「なるほどね。そういうことならこの時給は先払いってことにしておいてあげるわトール。私と神様とかに感謝しなさい」
「私は風紀委員としての仕事があるから天内君に桜井を任せることになるが……何かあれば近くの風紀委員を頼ってくれ。全員、こいつの顔は覚えているし専用の対処法も頭に叩き込んである」
「対策マニュアルが組まれてるとか何したんだよお前……」
不法侵入に窃盗、器物損壊辺りを年単位で少々……。
でも檜垣に殺されかけた辺りで顧問の人直々に彼女の起こした不祥事と相殺したと説明を受けたので、書類上は清廉潔白だ。
それはそうと報復に走ったり、死んだりと色々あったが今では懐かしく感じるものである。
ともあれ、そこから普通に昼食を取った俺は女子たちと分かれて天内と共に学内をうろつき回る事になった。
通る場所、通る場所。結構人が多いので歩法の練習をしながらの移動は難しいし、案内役の天内が距離を取り始めるので断腸の思いで普通に歩く。
「くそ、まさか移動方法を制限されるなんて思わなかったぜ……!」
「それは制限されて然るべき歩行だろ」
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