035 レベルバカは蘇る

 なんやかんやで『冥府』で過ごして半年間。

 ついにレベルも上限の80へと至り、『星の種』が入手できない『冥府』にいる理由が無くなってしまった。


 追加ダウンロードコンテンツなんだからさー、買った人への感謝として「星の種」の10や20や100や200くらい置いてくれてもいいのにさー。

 などとアホなことを言っても現実は変わらないので大人しく現世への帰還をする事にした。


「クソ、精神力さえ保てば一日中狩り続けられる『冥界』は最高のレベリングステージだったのに……!」

「それで『塔』の魔物一人で狩り尽くして他の人々に抗議活動されたじゃないか」

「足りない分は増やしてやったじゃん?」

「そのせいで今日まで『塔』への出入りを禁止されたのは完全に自業自得ですよね」


 中枢機関少し弄っただけで溢れるほどのスタンピードが発生したことに関しては割と反省している。

 ただ俺はレベリングがしたかっただけなんですアヌビス神様……!


 そんな言い訳を檜垣に切って捨てられ、アイリスに正論で叩きのめされ、今ではアヌビス神も俺への扱いが何だか雑になり始めてる。

 今日だって最後のご挨拶に言った時に、檜垣とアイリスには激励の言葉を伝えていたのに俺に対しては「ほどほどにな、さらばだ」の一言で終わりだったもん。


「あんな騒動起こしておいてそれだけで済むのは大分温厚ですって……」


 アイリスが呆れながらそう言う。

 いやね、俺もわかるんですよ。自業自得ではあると理解してるんですよ?

 でもさ、もっとこう、何かあったろ?


「無い。さぁ、行くぞ」

「今日もバッサリ言ってくるねぇ? 何か良いことあった?」

「蘇れること以上の朗報は無いだろうに」

「そう言われるとそうだな」


 俺は至極一般的な感覚を取り戻しながら、檜垣と共にアイリスの先導に続いて『塔』の最上階へと向かっていく。


 現世には『塔』の最上階に存在する『死神の渡船』に乗ることで蘇ることが出来る。

 渡船に乗るにはアヌビス神から通行手形を貰う必要があり、このアイテムがシナリオクリアの証明だ。


 渡船は極々普通の木造船。

 しかしその大きさは帆船よろしく大きなもので、海賊映画とかに出てくるサイズと言えば何となく伝わってくれるのでは無いかと思う。


「渡船と言うから小舟程度かと思っていたが……かなり立派じゃないか。これなら荷物の心配は要らなそうだな」

「クソ野郎との戦いのために貰った装備に、集めてもらった『種』。他にも錬金素材にアクセサリー類。結構な大荷物になって心配だったが大丈夫だな」

「まぁ、一番の心配だったのはアイリスさん何だが……」


 檜垣の言葉に合わせて、俺達は二人で先に船へと乗り込むアイリスを見る。

 その背後には生活用品や家具を乗せた荷車があり、その量はもはや完全に引っ越しをする人間のソレだ。

 俺の背丈を超えるほどに積まれた荷車を鼻歌交じりに引いていくアイリスはその細腕に見合わぬ膂力を有しているらしい。


「お二人共どうしたんですか~? 早く行きますよ~?」


 甲板から楽しげに手を振るアイリスは俺たちに同行して現世へと移住することになった。


 この半年間でメンタルは大分回復してきたものの、心の奥深くに刻まれたトラウマからは中々に抜け出せず、頻度は減ったものの『熱意』を求めて俺や檜垣に触れ合いに来るのは止まらなかった。

 そこでアヌビス神と色々話し合った結果、どうしても事件を想起させる『塔』が存在する『冥府』から、現世へと環境を変えて生活させてみようと言うことになった。


 そこで彼女を託されたのが俺と檜垣だ。

 俺たちはその人選に何度も「止めておけ、考え直せ」と二人で抗議したのだが、最終的にはアイリスの「二人と一緒なら行きます」という鶴の一声に押し切られてしまった。


「いきなり年上の娘を託されてどうすりゃいいんだよ」

「もうなるようにしかならないだろう。住居と仕事は何とかなるそうだから、後は普通の人付き合いしていれば……あっ」

「なんだよ」

「……す、すまない。私はそういうつもりじゃ!」

「なんで謝るんだよ!? アイリスの様子見ぐらい俺にだって出来るわ!!!」


 おいこら、申し訳なさそうに目を逸らして船に乗り込むな! おい! 待て!!

 何やら俺が人付き合いも出来ないダメ人間だと思ってるみたいだがアイリスに指摘されてからしっかり磨いて来たんやぞ!!

 今では見知らぬ人から話しかけられたら笑って会話を打ち切るくらいの対人スキルは備わってんだよ!! 何だよその顔!? 文句でもあるのか、えぇ!?


 俺は文句を言いながら檜垣を追いかけ船に乗り込んだ。

 アイリスの「出発!」と言う掛け声と共に動き出した船は宙を舞い、現世へと飛び立つ。


 やがて船は光りに包まれ視界が白く染まっていく。

 俺はその直前まで船長室に籠城した檜垣を引きずり出して認識を正そうとしたのだが、それは失敗に終わったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る