034 苦労の原因

 『冥府』でレベリングして三ヶ月。

 今更ながらステータスの話をしよう。


 ステータスとはキャラクターの強さを数値化したものだ。

 レベルの数値もそうだし、体力や魔力、攻撃力に防御力などゲームを遊ぶ上で必要な能力を視覚化して数値として表したもの……それがステータス。

 ステータスは強さの指標であり、俺が常々話している「レベル幾つのキャラの強さは原作の中盤クラスだ」という判断の根拠としても機能している。


 では俺のステータスはというと、実のところよくわからない。


 意識すると「大体これくらいだな~」という感覚で感じ取ることはできるのだが、それを他者に示せるほど正確な数値として表すことが出来ない。

 自身のレベルや取得してるスキルのレベル等はハッキリわかる辺り、俺自身がそこまでステータスに興味を示してないからなのかもしれないが現状そうなっているのだから仕方がない。


 そしてその「なんとなく」な感覚に従って判断するならば、俺のステータスは同じレベルの原作メインキャラに比べて劣っていると言えるだろう。


 前に俺のレベルの上限が50だった話を覚えているだろうか?

 今でこそ『星の種』を使ってレベル上限を増強しているが、50というのは原作メインキャラと比べると貧弱にも程があるのだ。


 では原作メインキャラのレベル上限が幾つかと言うと、その数値は何と俺の倍もある「100」だ。

 モブの俺が50と考えると潜在能力の時点で2倍の差が存在するという無情な現実が横たわっている。

 ちなみに檜垣もメインキャラなので彼女のレベル上限も100だ。


 その時点で薄々察し始めている人も居るだろうが、レベルの差は才覚の差。

 それに合わせてか、俺のステータスも同じレベル帯の原作キャラと比べると一段どころか三段くらい劣っているのだ。


 その差は感覚にして3、つまり俺がレベル100の時のステータスは原作メインキャラの70レベルに相当する。

 装備品も含めてこの状態なのだから、裸一貫で比べたらその差はもっと広がるだろう。


「(今の俺のレベルが75。原作キャラと比べたら約50レベル相当のステータスってことだよなこれ……そりゃバビとの戦い苦労するわけだわ……)」


 学園入学当初のレベルは57だったが、そのステータスは40相当。

 入学当初の時期の檜垣のレベルは30ほどだったはずなので、確かに地力は上回っていたけれど、思っていた程の差は無かったらしい。


 ステータスの差は後々響いてくるものだ。出来るものならばその差はなるべく埋めておきたい。


「というわけで副賞はトート先生に人体改造でもしてもらおうかと思ったのだけれど、流石にダメらしい」

「言ってることは意味不明ですがその躊躇のなさは改めるべきです、このおバカっ!」

「いてっ」


 どうにかトート先生とアヌビス神を説得するための助力を得られないかとアイリスに相談してみたのだが、この調子では力を借りることは無理っぽいな。

 アイリスに棒でポコポコ怒られながらも、助けを求めるように視線を檜垣に向けてみる。

 彼女は俺の視線に気がつくと口にしていたジュースをテーブルに置くとジトっとした目を返してくる。


「お前はどうしてすぐ倫理観の向こう側に思考が行くんだ?」

「だって今すぐにでも強くなりたいんだもん」

「『強さ』は一朝一夕で身に付くものじゃないと語っていた口でお前……」


 それはスキルの話でステータスの話ではない、そこを履き違えないで頂きたい。

 スキルの取得もレベルアップも努力で何とかなるものだが、ステータスの上昇値ばかりはプレイヤー側で解決できる問題ではないのだ。


「んで、人体改造がダメとなると正当な手段を取るしか無い」

「最初からそうして下さい」

「そこで必要になるのが『種』と呼ばれるアイテムだ」

「『種』……あぁ、食せば人体の限界を超えられると言われる魔宝石のことか。だがあれはかなり貴重なもので、1個見つけるのも一苦労するものだろう?」


 檜垣の言う通り、使用することでステータスを永続的に増強することが出来るアイテムである『種』シリーズは原作においても入手方法や数が限られている。

 あまりにも大量に入手できてしまうとゲームのバランスを崩壊させてしまうので、至極当然の措置と言えるだろう。


「というわけでアヌビス神に副賞の見返りとして今は『種』を探してもらってる最中。今の所幾つか見つかったけど、二人も見かけたら使わずに取っておいてくれ」

「譲って欲しい、とかではなくてですか?」

「結構な貴重品だしな。そりゃ、くれるなら嬉しいけれど自分に使いたいのが人情だろう?」

「そうだな。私も力を高めるチャンスがあれば自分に使いたい」

「流石人の武器を強奪した人は言うことが違いますね!!」

「おい、その話は手打ちにしただろうが!」


 おっと、煽れるチャンスだったので反射的に対人ゲーマーとしての自動煽りスキルが発動してしまった。失敬失敬、謝っておこう。


「ごめんねアオちゃん!!」


 アイリスから奪い取った棒でぶん殴られた。痛い。


 兎にも角にも話を戻して、『種』は欲しいが現世に戻る上で確かめておきたい事があるので使わずに持っていて欲しいというのが俺としての希望だ。

 上手く行けば強くなるための手間が省けるし、何事もなければただそれだけだ。

 ノーリスク・ハイリターンな話であるなら、やっておいて損は無いだろう。


 俺は一先ず二人の了承を得てこの話を打ち切った。

 『冥界』での滞在期間バカンスも折り返しなのだから、そろそろ帰還を意識しなければな。


「フ……フヒ……フヒヒ」

「また何か悪いこと考えてるだろうお前」

「え? いや、何も考えてないよ?」

「桜井さんがその笑い方をしている時はろくでもない事を考えてる時です」

「そんな馬鹿な。俺の言葉を信じてくれ、きっと皆が幸せになれるぞ」


 だから二人して同時にため息吐くの止めてくれる?

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