021 素直、ではある。

 『警護活動録』は臨時警護役としてアイリスさんの手伝いをしながら、『冥府』のトラブルを解決していくという設定のミニゲームだ。


 内容としては制限時間ありの鬼ごっこ。

 冥府を歩いているとランダムで発生するトラブルに応じた対象を捕まえるというものであり、例えば「犯罪」なら「犯人」を、「行方不明」なら「行方不明者(ペット含む)」を、『冥府』の中から探し出して捕まえる……と言った具合だ。

 対象はプレイヤーに見つかるとエリア外に向かって逃げて行き、それまでの間に接触することができれば成功。捕まえられなければ失敗となる。

 そして最終的なスコアによって、それに対応した微々たる量のポイントと、アイリスからのプレイヤーに対する好感度を得ることが出来る。


 ちなみに彼女の好感度は『冥府』におけるストーリーに影響し、最終的に現世に蘇る主人公に付いて来てくれるかどうかの判定に使用される。

 アイリスさんは元々追加コンテンツのキャラクターなので本編には影響を与えず、メインシナリオのイベントにおいても殆ど喋る事はない。

 現世に同行してきた場合の特典といえば、クリスマスやバレンタインデーイベントの追加や一部サブシナリオの解放、冒険者ギルドにおけるクエスト数の増加程度だ。


 で、このミニゲーム。実は結構面倒くさい。


 まず『冥府』というマップエリアがそこそこ広いので対象を追いかけて捕まえるのに時間がかかる。

 加えてトラブルはランダムで発生するので犯人が逃走中に行方不明者のトラブルが発生して……と事態が重なっていく。

 まぁこの程度ならば普通のミニゲームの難易度の範囲と言えるだろう。


 問題はプレイヤー以外にもNPCであるアイリスにも指示を出して動かしてやらなければならないという点だ。


 最初に言った通りこのミニゲームは「臨時警護役としてアイリスの手伝いをしている」という内容だ。

 そのため、お助けキャラクターとしてマップにはアイリスも参加することになる。

 彼女は指示を出すことでマップ内を移動させることができ、彼女の知覚範囲に追うべき対象が入ると自動的に追いかけてくれるのだ。


「(ただ、アイリスの知覚範囲が「広すぎて」あっちこっちに移動して誰も捕まえられずに右往左往するとかよくあるんだよなぁ)」


 アイリスの知覚範囲はその魔眼の設定もあってか非常に広く、視界が通ってない建物の先だろうと、設定された知覚範囲に対象が入れば認識して追いかけだす。

 ただ原作ゲームでは対象に優先順位を付けたりすることができなかったので、対象Aを追いかけ回している間に対象Bが知覚範囲に入ってしまうと、対象Aの追跡を打ち切って対象Bを追いかけ始めるという事態が多発するのだ。


 しかも制限時間が短くなればなるほど、スコアが伸びれば伸びるほどにトラブルの発生率は上がっていくので後半になればなるほど彼女はポンコツ化していく。

 そのためにもプレイヤーのこまめな指示が必要なのだが、自分も対象を追いかけつつ逃げる相手のルートを予測して指示を出して変な方向に行くなら修正して……を繰り返すことになるのだ。


「(ハイスコアを目指すには彼女の協力がないと絶対にハードル超えられない作りになってるし。ミニゲームとしても酷くは無いんだが只々面倒臭いんだよなぁ)」


 加えて一度ハイスコアを出してしまえば以後ずっとアイリスさんの好感度に補正がかかり続けるようになるため、ゲーム自体の面倒臭さも相まって俺は余りこのミニゲームをやり込むことはしなかった。

 一人称視点でプレイできるVR版プレイヤーには映画のような逃走劇・部下への指示出しを擬似体験できるという点で好まれていたが、やはり繰り返すとなると『面倒くさい』という評価は一定数存在していた覚えがある。


「それでは『冥府』の平和を守るため! そして地域の皆様と関わり、桜井さんの人間性を向上させるために、頑張りましょー!」

「お、おー?」

「おー」


 何やら元気な声を上げるアイリスさんに合わせて小さく腕を上げつつも、俺は速攻で彼女たちと別れてサボる算段を立てる。


 アイリスさんは俺と檜垣の関係を改善してくれた恩人ではあるが、そもそも原作ストーリーに関わるつもりが無いので好感度を高める必要性を感じないのだ。

 そりゃまぁ彼女は俺を思って世話を焼いてくれているのはわかるのだが、このミニゲームはレベリングに繋がらないし、そうでないとすればやる気も湧き上がらないのが本音だ。


「(だからといって蔑ろにするのも失礼だしなぁ……付き合いつつも適度にサボるか)」


 そう判断した所で視界の端に「処世術+1」という表示が現れる。

 なるほど、状況に対する判断も行動と見なされるのか。これは良い発見をした、世間との折り合いというのはこうして付けていくのだなー。


「じゃあ人の手を借りずに自分の力で頑張ってみようと思います!」

「何だか妙にやる気満々ですね桜井さん」

「そりゃもう! アイリスさんにはお世話になったし、やる気の沸かない時間の浪費も空元気出して頑張りますとも!」

「素直さというのは普通は美点だが、桜井は尽く真反対の方向に発揮されているな」

「様子からしてわざとじゃない辺りが質が悪いですよね桜井さん」


 さーて地理の関係で半分くらいの対象が逃げる上で通る事になる路地裏にでも陣取って素振りしつつ、そこそこの評価を獲得するぞー!!

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