003 春、13歳の誤算


 想定より早くレベルカンストしちゃったのでダンジョンに不法侵入しますッ!!!!!



「くそ、人間関係ドブに捨てることで得られる時間の多さを見誤っていた……!」


 13歳の春、冒険者学園入学まで後2年ほどになった時期。俺はついに上限レベルであるレベル50に至ってしまった。

 これ以上の経験値はレベル上限を開放するまで稼いでも稼いでも潜在的に蓄積されるだけであり、表面上はなんの変化も起こらない。視界の端に見える必要経験値の表記が「――」と言う具合に棒線で非表示になっている事態にもはや頭がおかしくなりそうでしょうがない。


 よって俺は予定を繰り上げて、学園入学者かつ指定授業を履修した人間でなければ入場を許可されない学園ダンジョン第一層……別名チュートリアルダンジョンへの侵入を決意したのだ。

 当然、現状では学園関係者ではない為に不法侵入になってしまうがレベリングを継続するためには致し方がないだろう。話して通じるとは思えないし、通じてしまったら警備体制に問題があると言わざるを得ない。



 というわけで思い立ったが吉日、決意したその日の内に俺は冒険者学園へと足を踏み入れダンジョンへと不法侵入に成功した。



 見学者ってことで正々堂々と侵入して退出手続き済ませた後、校舎の外壁から空き部屋に入り込んでダンボール被ってお昼寝してたらあら不思議。

 後は宿直の警備員さんの巡回ルートに気をつけて移動、本来ならばクリア後に行ける抜け道を通ってしまえば学園ダンジョン内部にご到着だ。

 ゲーム時代はシステム的に通行不可になっていたとしても、この世界では物理的に存在する道なので気にせず通る事ができてしまう。いやぁ良い時代になったものだ、今後もちょくちょく利用しよう。


 抜け道はダンジョン第二層に直通しているので、適当に魔物を斬り殺しつつ上へと向かう。

 一年ほど前に「もう教えられることは無さそうだわな」と言われてボーナスおじさんから貰った古臭い剣は結構な業物だったらしく、そこらで売られている数打ちよりも遥かに良い性能を発揮している。

 それ以降、ボーナスおじさんは姿を見せなくなってしまった事からきっとこの剣を渡されることがイベント終了条件だったのだろう。

 イベントが終了したとしてもきっと世界の何処かでボーナスおじさんは生きているはずだろうから、元気にしてくれていると嬉しい。剣を貰った後も普通にまた来ると考えていたから普通に「じゃあまた今度ね!」と言ってしまっていたから、今度出会った時にはしっかりとお礼を言いたいところである。


 そんなことを考えていたら第一層、ボス部屋の裏に到達。


「バックスタブはお前が死ぬまで許される!!」

「ガ!? グギャァ!!!」


 静かに扉を開いてフロアボスのゴブリンリーダーを背後から襲撃、適当にめった刺しにして始末する。

 倒した後に視界に写る「+1300」の数字にニヤリとしながらも、必要経験値の項目に書かれた数字が一切変動しない事実にゲンナリする。レベル上限は悪い文明、破壊しなければならぬ……っ!


「たーしか、ここらへんだよなー」


 ボス部屋の壁をペタペタ触ると僅かな凸凹がある。実は高レベルの登攀スキルを発揮することでこの凸凹をとっかかりにボス部屋天井裏へと向かうことが出来る。

 天井裏には「星の種」と呼ばれるレベル上限を「+10」することが出来る貴重なアイテムが存在しており、それを入手することが今回の俺の目的だ。


 だがここで一つ問題がある。俺は登攀スキルを持っていないのだ。


 登攀スキルは物語中盤以降に取得できるようになるスキルであり、その上で「クライミングセット」というアイテムを装備した上で幾つかの山を登りきらなければスキルレベルが上昇しない。

 加えてここにある「星の種」の入手に使う以外に、これと言った使いみちのないスキルなので、周回プレイを何度かやり続けることでやっと必要水準に達するような不遇というか……無価値というか……まぁ、そんなスキルだ。


 なので登攀スキルを所有していない今の俺では壁を登ることが出来ない。そして壁を登れなければ天井裏に続く入り口に到達できない……なので別の手段を取ることにする。


「えーっと、彼処が入り口だから距離的に……あそこらへんか」


 ダンジョンへの抜け道を覚えているだろうか? ゲームの時とは違い、この世界はフラグや条件を満たしていなくても物理的に存在すればそれに干渉することはできるのだ。

 そして物理的に干渉できるならば登攀スキルなんて言う面倒くさい物を手に入れなくてもなんとでもなる。


 ここで取り出したるは学園の科学室から拝借してきたドクロマークの小瓶と、そこら辺の土、そしてスライムの体液に片栗粉と接着剤。

 知ってるかいジョニー? これらを金属ボウルの中でコネコネ混ぜまぜすると、なんとも奇妙なことに吸着爆弾が出来ちまうんだ! マジかよミゲル!? もう不法侵入どころじゃねぇな! 安心してくれレベリングの為だからこれはしょうがないことなんだ。よし理論武装完了。


「それじゃあ張り切って~~~ソイヤッ!!」


 ぽいっと投げて、ペタっとくっつき。チュドンと弾ける即席爆弾。

 開いた穴から落下してきたのは魔法で防腐処理を施された宝箱。鍵穴を無視して壊れかけた側面を剣でぶち抜けば、そこにあるのは「星の種」。


「うっひひひひ、ついに手に入れたぜ~」


 おっと、即席爆弾の残骸回収してさっさとトンズラしなければ。「星の種」を使って悦に入るのは自宅に帰ってからだ。帰るまでが不法侵入ということを忘れてはいけないぞ俺。

 というわけでぱぱっと後片付けをして、その間に再度生まれ落ちたゴブリンリーダーをしばいて帰路へつく。帰り道は警備員さんたちが何かと慌ただしかったので簡単に警備の目を潜り抜けることが出来た。

 監視カメラという技術がないこの世界で簡単に持ち場を離れないほうが良いと思うけど、今回は俺に都合が良いので余計なことは口にしないようにしておこう。


 そんなこんなで俺の13歳春のダンジョン探索は無事成功に終わり、「星の種」を使用してレベル上限を開放することに成功したのであった。


「あぁ~、蓄積された経験値でレベルが上がるぅぅぅ!! ウヒョォォォ!!」

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