第百四十五回 実際は、濃厚なキスの後で。


 ――恋に場所なんか関係ない。性別をも超える愛。時や場所さえも選ばないの。


 百合は堂々と、百合百合しく……って、


「ちょっと、何てことするの?」と、走ったせいなのか、息切れもしながらの可奈かなの言葉は、周囲の目から逃げるように、または避けるようにと、舞い込んだ路地裏。


 ……薄暗い場所。

 だからこその言葉。その言葉を、これから僕は言う。


「この間の御返しだよ」と、その一言を。……『仕返し』ではなく『御返し』

 言い間違い? いやいや、決して間違いではなくて、感謝の意味を込める。



梨花りか、その顔は反則よ。キスだけでは済まなくなっちゃうよ」


「じゃあ、どうなるの?」

 と、マジで興味津々な僕。固唾を飲み、ゴクリッと生唾も飲む。……あらら? 緊張しすぎなのか、言葉も文面もチト可笑しい。恥ずかしいことしかイメージできず、それさえも、ボンッ! と、効果音が文字で現れそうな、素晴らしき赤面ぶりであろう。


「……わかんない」と、可奈。

 プシューッと、空気が抜けそうなイメージだ。可奈だけではなく僕も同感だ。


「取り敢えず行こう。歩いてみたら、わかると思うから」

 とは言ったものの、何の根拠もないのは百も承知でも、「うん」と、可奈は返事した。



 ――第一歩は、路地裏を出ることろから。


 手を差し出す藤岡ふじおか可奈、……目と目が合う。可奈の瞳に僕が映る。それはまた、僕の瞳には可奈が映っていることを物語った。その手を握る。そっとソフトに握る。その末には足を動かす。二人三脚並のペースでの行進。大通りに出ると、混雑するには程遠い人の群れが、すれ違う。空は灰色よりも明るくて、黒が十パー、白が九十パーもあった。



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