第百四十六回 模型屋は、想い出の模型屋。


 ――ここで足が止まった、僕と可奈かな。で、今更ながらだけど、


梨花りか、何だか女の子っぽくなったね」と、本当に今更だけど、


「僕は、元々が女の子」と、答える。……そうではないと、僕の直感は告げる。可奈の言った意味は、僕がおめかししている? うまく言えないのだけど、そうそうスカートを履く機会が増えている。いつもみたいに半ズボンとかではない。もちろん長ズボンもだけど。……「可愛くなったね」と、言ってくれた。『めんこい』という意味にも通ずる。



 さて、何処で足が止まったかと言うと、『模型屋』というお店。気付けば『五番町』という場所に足を踏み入れていた。それも無意識に、二人揃って。――なぜ『無意識に』という言葉が付くのかといったら、ここから、喫茶店の海里は極めて近い。でもでも、それは、今は気まずい。中では千佳ちかと千佳のお母さんが、一世一代のお話をしている。もはや貸し切り状態と言っても過言ではない。相手はあの、キム・ウメダさんだからだ。


 ――思い出してみよう。


 今、目の当たりにいる可奈もそうだけど、今は目の当たりにいないキムさんも『千佳の命の恩人』だ。……本当にそうなのだ。傷口は一生のうちには消えるのだが、もう少し発見が遅れていたら、また、もう少し救急車に乗るのが遅かったとしたら、サーッと凍りつく……千佳はもういなかっただろう。もう会うことも叶わなかっただろう。


 だから、信じてあげたい。


 千佳の今後の未来。きっと明るい未来となることを……。そして今、僕と可奈がいる場所は、店内ではなく店外。要するに店の外。で、お決まりの、ガラスケースの役目を果たしながらも、メニュー一覧の役目のような展示物……それは、プラモデル。少し前に開催した『バンプラコンクール』――千里とこの間のコンクールよりも小規模。だけど『第三十八回五番町バンプラコンクール』と、銘打っている立派なコンクール。三十八回……といえば、バンプラが社会現象にまで及んだ当時から、このお店はあった。……ということなのだ。――すると、僕と可奈の目の当たり。一体何があるというのか、あったのか?



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