第八十六回 走る走る! ダッシュダッシュ!


 ――一刻も早く! 一秒でも! そしてこの地、この場所だ。



 踏みしめた場所、及び着いた場所は総合の病院。済生と名乗る病院だ。


 さっき(前回の)の可奈かなのように、血相を変えるのは僕も一緒。可奈はやっと泣き止んで、瑞希みずき先生は落ち着いているけど、顔に出さないだけで、きっと心の中は同じ。僕らのためにそうしてくれていると思うの。……大人の辛い処だ。未来みらいさんもまた車を出してくれた。イメージは『これこそレッドコメッツ三倍速』の称号が似合いそうな乗用車だ。



 とにかくレッド、スポーツカー張りに赤かった。

 そして、あの時の言葉たちはこうだ。


「ミズッチ、俺が車出してやるよ。行くんだろ?」


「もちだよ、未来君」


梨花りかちゃん、可奈ちゃんも、きっと大丈夫だからね」


「うん」


 という感じで、未来さんは海斗かいと部長の言っていた通りの頼りになる兄貴で、尊敬する僕たちの大先輩だ。まるで師走のような心境を、抑えるように包み込んでくれた。


 だから、

 だから、こうして着いたのだ。


 ありがとうございます! と、溢れる思いを胸に秘め、走る! 走ろうとするけど、


「急がば回れだよ、梨花さん」

 と、瑞希先生は言った。……ここは病院の中。病室は五〇三号室、四人部屋。

 起きていた。


 白色の風景、ベッドの上で上半身を起こしていた千佳ちか

 僕は、僕は! 感情の赴くまま、自分でも驚くほどに、


 ――千佳のほっぺたを、思いっ切り叩いた。……痛いほど、引っ叩いていた。



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