第五十回 えっ、何で?


 ――体育館から芸術棟までの道程、屋外に出る。そして熱中症に気を付けなければいけないほど、炎天下になってくるのに、凍り付く、背筋から。呼吸は少々乱れてくる。


 バッタリ! 会ったのだ。

 あの日あの場所のことが忘れられず、ガタガタと震えが止まらない。


 何で、こんな所で会うの?


 と、イレーザーを用いたように白色と化した頭の中で、やっと浮かび上がった言葉にならない言葉。或いは文章という形かもしれないが……それを覆うようにと、


「事件なら、解決したよ。……もう怖がらなくていいんだよ、梨花りかちゃん」

 と、その言葉を聞いた。


 僕と可奈かな、マリさんの前に、その言葉の主、星野ほしの刑事が現れたのだ。


「ホント?」

 と、やっと声になった。ミュートを脱した。


「本当だよ。それに今日は刑事お休み。この子の保護者なんだ」


 よく見ると、星野刑事の傍らに女の子。後方に隠れているのか、顔を半分だけ……とはいかず、三分の一だけ出している。とても、とても警戒しているようにも見える。


 ……面識はないけど、


 見覚えあるある! それは写真の世界だ。

 もしも鏡があるなら、その通りに再現されている。


「大丈夫だよ、怖がらなくても」

 と、声をかけてあげる。僕はもう、ニッコリしているだろう。


 隠れることを止めて、その姿を現した。……で、こちらに近づいてくる。


「……あの、梨花さん、ごめんなさい。僕……私があんなことしたばかりに、貴方に多大なご迷惑をかけてしまって、ホントごめんなさい」と深々……だから、手を握る。


 そして元気溌剌と、


「梨花でいいよ。僕と同じ『ボクッ娘』だね、千佳ちかちゃん」



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