第4話☆Dreaming night
☆
同じビルに入っている別テナントの人に気付けば恋に落ちていた。彼女は笑顔がとても素敵で、その笑顔だけで心が満たされた。幸せになれた。
けれど、所詮は別の店舗。話す機会なんてほとんどなく、顔を合わせても挨拶をする程度の関係。
何とかしてお近づきになりたい、そんな風に毎日思っていた。
◇
同じビルに入っているお店の男性に私は恋をした。
話そうと思ってもそんな時間もなく、挨拶だけで終わってしまう。何とか話す時間作れないかなぁ、なんて毎日のように思っていた。
そして、店の前で呼び込みをしていたら、彼が出てきた。制服姿。だから、帰るわけじゃない。もしかして、彼も?と思っていたら、
「お疲れ様です」
彼がそう言って、私の隣に立った。
☆
呼び込みのために外へ出ると、彼女がいた。挨拶をして隣に立つと、少し緊張した。
折角のチャンス、何とかして話すべきか、なんて考えていたけれど、言葉が頭から出てこない。
それ以前に今は仕事中。給料をもらっているんだから、しっかりと働かないと。そんな言い訳を自分にしながら働いていた。
時折、横目で彼女を見ると、今日は人通りが少ないからか、少し退屈そうにしていた。
◇
彼はすごかった。前を通る人全員に声をかけ、無視されても気にしていない感じだった。しかも、人通りが少ないのに、何人ものお客さんを店に入れていた。
私は彼に話しかけるタイミングを待ちながらただ立っているだけ。単なるバイトなのに、私はそこまで真剣になれない。だから、彼が本当にすごいと思った。
だから、ちょうど人がいなくなったタイミングで彼に話しかけた。
☆
「お客さん、たくさん入れてすごいですね」
突然、彼女から話しかけられた。
「そんなこと、ないですよ。本当、たまたまです」
と、本音半分、謙遜半分で何とか答えた。けれど、俺の心臓はあり得ない程早く脈打っていた。
ほとんど初めての会話。それだけで嬉しかったけれど、それから先、言葉が何も出てこなかった。
微妙な、少なくとも俺にとってはだけれど、沈黙が流れたが、通りかかった人が彼女に話しかけたことで会話は完全に終了した。
初めての会話。たった一言だけでも俺は嬉しかった。
胸の高鳴りを抑えるために深呼吸をして、空を見上げると、そこには月が輝いていた。
◇
「月が綺麗ですね」
話しかけられたお客さんをお店に案内した後、彼が突然言った。
私は彼の言葉と視線に導かれるように空を見上げた。そこには確かに綺麗な月が輝いていた。
けれど、私はそれが言葉通りの意味ではなく、もう1つの意味であってほしい、そう思った。
「あの、それって、たしか夏目漱石が……」
「え?あぁ……そう、ですね……」
彼もこの事を知っているみたいだ。そういう意味なのだろうか?分からず黙っていると、変な沈黙ができてしまった。
彼を見ると、目が合ってしまい、私は思わず、
☆ ◇
「「……好きです」」
そう言った。……え?
☆
今、彼女は何て言った?俺と同じことを言った?
俺の気のせい?幻聴?
いや、違う。彼女は言っていた、と思う。なら、
「その、俺と付き合ってください」
思いきって言ってみた。
◇
突然の彼からの告白。驚きと嬉しさで言葉がすぐに出てこなかった。けれど、彼が一瞬、不安そうな顔をしたので、
「はい、私でよければ」
と、何とか口にできた。
まさか、彼と付き合えるなんて夢みたい。これって、夢じゃないんだよね?
☆
彼女と付き合えるなんて夢のようだった。
本当に嬉しくて、その後のバイトはいつも以上に頑張れた気がする。
そして、バイト上がり。彼女とは家が反対方向だったけれど、終電ギリギリまで二人で話をした。
初めてちゃんと話した彼女は思っていたよりも素敵で、惚れ直してしまった。
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