第5話☆Eternal love
そっと、彼女の手を握る。
不安そうに彼女は握り返してくれる。
あの事故があってから、始めて二人で外を歩いている。もし、あの事故がなかったら、俺達はどうなっていたんだろう。
先月、交通事故にあって彼女は顔に大怪我をした。そのせいで彼女の綺麗だった瞳は光を失ってしまった。
俺はそれからずっと、後悔していた。どうして、あの時、家まで送っていかなかったんだろう、って。
仮に、家まで送っていたとしても俺に何か出来たとは思えない。でも、それでも、どうして側にいてやれなかったんだろう。どうして光を失ったのが彼女で、俺じゃないんだろう、そう考えてしまう。
だから、俺は何度も、何度も彼女に謝った。けれど、その度に彼女は言うんだ。
「あれは不幸な事故なの。貴方のせいじゃない。だから、気にしないで。お願い」
けれど、その言葉は俺に向けられていても、顔は俺とは少しずれた方を向いていた。
それがたまらなく辛くて、たまに逃げ出したくなる時もあった。それでも、俺は彼女から逃げ出さずに、向き合っていた。苦しくて、涙がこぼれ落ちた日も、せめて声だけは自然にして、彼女が笑ってくれるように、そう願いながら。
そんな彼女との散歩と言う名の外出。言い出したのは彼女だった。外の空気が吸いたい、何かあっても俺が助けてくれるって信じてる、そう言って……。
でも、外へ出た瞬間に無理をしているのが俺には分かった。分からないように必死に隠していたけれど、表情は強張り、足は震えていた。
俺はやっぱり止めよう、そう言いかけた。けれど、それを遮るように彼女は一歩、自分から進み始めた。だから、俺は彼女を支えながら、普段の倍以上の時間をかけて、近所の公園までやって来た。
ベンチに二人して座ると、彼女は空を見上げ、呟いた。
「月が、綺麗ですね」
俺も空を見上げる。けれども、月なんて全く見えない。
確かに、今日は満月の日だ。でも、天気は曇りで月は完全に雲に隠れてしまっていた。
こんなところでも現実を突きつけられてしまい、俺は静かに泣いてしまった。けれど、彼女の幸せそうな表情を見て、俺は……
「そう、だね。綺麗だね。これからも、何年経ってもまた、二人で見ようね」
「……うん。末永く、お願いします」
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