第3話 サイドスキル
ミルに連れられ各部屋の案内をされて、オレの部屋になるらしい扉の前に着いた。
「こちらが今日からクロト様のお部屋になります」
中に入ってみてみると、この屋敷の印象通り、置いてある物はシンプルなものの豪華な部屋だった。俺が第3でねぐらにしてた所に比べると天と地との差である。
「必要なものは基本揃ってはいるとは思いますが、何か足りないものがあればご遠慮なくお申し付けください。」
「ああ、わかった」
「まだ何かございましたら、今後はお部屋にあります、思念石でお願いいたします」
ミルが窓際にある物を指す。そこには結晶のような、ひし形の石が台の上で浮いていた。
「あー……これか、この石に魔力を込めた奴と通信ができる奴だよな」
「はい、屋敷全ての石とリンクしているので、魔力をこちらに込めて頂ければすぐご利用頂けます」
「わかった、と言いたいところだが、俺には魔力がないから使えん」
「今日はそれほど魔力をお使いになられたのですか?」
驚いた顔でこちらを見るミル。まぁその反応が普通だよな
「違う、本当に元からないんだ、てっきりさっきの書斎で聞いてたと思ったんだがな」
「大変失礼いたしました、そこまではわかりませんでした」
日常で使われている物は、さっきの思念石もそうだが、魔力を使う。あっちの暮らしではこんな便利な道具使うことはなかったからな……。
「魔力がない事を不思議に思わないのか?」
「確かに大変珍しいですが、クロト様はクロト様ですからね」
「そうか……しかし、どうしたもんか」
「では何かございましたら、私のお部屋にお越しください、勿論近くにいるメイドに声をかけてもらっても構いませんよ」
「いいのか? 手間かけるな」
「いいえ、私はクロト様の担当メイドにもなりましたから構いませんよ」
「お? そうなのか」
「はい。他のメイドですと色々と不都合もあるでしょうからね、私が適任という訳です」
区画や今話した魔力の事もあるだろうし、俺にとっても都合がいい。いずれ広まる事だろうが、毎度変な反応されるのも面倒だしな。
「ではシロナ様もいらっしゃると思いますので後ほど」
そう言うとミルは軽く会釈をし部屋を出た。
「さて……どうしたもんか」
ベッドに倒れこむ。
今日だけで環境が著しく変わった。第3区画に何か置いてきて困る物なんて何もないし、戻る理由もないが、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
「……というか、あいつ何しにあんな所に一人で来てたんだよ」
第3等級魔法使いとはいえ、あそこに一人で来るのは無謀と言わざるを得ない。
魔法使いとは言え不意打ちされれば終わりだ。3等級3人くらいでやっと少しは探索できるくらいだろう、さらに奥まで進むなら2等級も欲しい。そんな中を一人で、しかも忘れてたとは言え、媒体もなしに来るなど自殺志願者と同じだ。
そんな危険な場所に一人で来るとは只ならぬ事情があるに違いないが……ま、説明すると言ってたので待つしかないか。
「と言っても、聞いてどうこうできる事じゃないと思うがな」
そんなことを考えていると、ドアのノック音と共に、シロナの声が聞こえた。俺はベッドから起き上がる。
「クロト、入るわよ」
「待て、今全裸だ」
「そう、入るわね」
そう言うと、私服に着替えたシロナが部屋に入ってくる。会ったときには無かった黒い宝石のネックレスをつけている。
「お前本当に全裸だったらどうするんだよ」
「さっきミルとすれ違ったばかりだし、それは考えにくいわよ。それにクロトの冗談も少しだけどわかってきたわ」
「こんどありのままの姿を見せてやるからな??」
「やめなさいよ!?」
度胸あるんだか、ないんだか。
「座るわよ」
シロナはそのまま部屋にある机に腰を掛ける。
「その……今日はありがとう」
「どうした改まって、偶然助けただけだよ」
「それもあるけど、騎士の事もよ」
「ああ……流石にそこまで俺も予想してなかったから驚いたが」
「結構あっさり承諾してくれたのね」
「別に、上の区画に行く機会があれば、余程の奴じゃなければ誰だって行きたいだろうし、ましてや騎士ということなら住み込みの可能性もあったからな、礼も貰えるし打算的な考えだよ。後は俺の直感だ」
「直感って、適当なのね」
「いいや? 俺の直感は馬鹿にならないんだぜ? まぁそれはいいとして、逆にお前も助けてもらったとは言え、簡単に連れてくるなんて甘いんじゃねぇか?」
厳し言い方だろうが、実際にそうである。俺だからまだよかったが、一時的に助けて後から……なんてざらにあるからである。あそこでは人を信用する方が間抜けなのだ。
「……クロト私の頭撫でたでしょ」
「それだけで信じたのか?」
「違うわ、その時私のサイドスキルを使ったの」
サイドスキルーー第3等級魔法使いから会得する可能性がある。
可能性があるというのも、意識して手に入るという訳ではなく、ある日何かをきっかけに突然覚えていたりするもので、どれだけすごい魔法使いでも持っていない奴もいるし、どれだけ落ちぶれていても、サイドスキルは持っているなんて事もある。
「それで、お前のサイドスキルって何だ?」
「触れた相手の心を、ある程度読める事よ」
「それすげぇじゃねぇか……ん? ある程度……?」
「そう、完全に心を読める訳ではないわ。感情や、どうしたいかとか……色々ね、説明が難しいわ」
「それでも十分恐ろしい能力だけどな、それは俺に言ってよかったのか?」
「必要な事よ、私の騎士になるんでしょ? ん……人には怖がられるから言わないでね」
それはそうだろう、触れただけで感情が悟られてしまうとなれば、友達は勿論、関わり辛い事になる。ましてやそれを利用しようとする者も出てくる筈だ。
「もしかしてそれが原因で騎士が決めれなかったのか?」
「そう……騎士って一緒にいるわけじゃない? だからどうしてもサイドスキルを使って確かめてしまうの。でも、やっぱり駄目だった……勿論沢山いい人もいたわ! 色々悩んでたら学院の入学式も私だけ騎士がいなくて、もう諦めようって思ってた……そんな時よ、クロトに出会ったの」
「俺か?」
「そう、貴方。頭を撫でられた時まだ怖くて、ついサイドスキルを使ってみたんだけど、見えなかったの貴方の心が」
「それであの時見えないって言ってたのか」
「本当に驚いたんだから! 感情が少ないって子も確かに今までいたわ、でもまったく見えないという事はなかったの」
「ミルの占いの事もあって、 あ……こいつだって思ったのよ」
「ミルの占い?」
「そ、よく当たる……と言うより、殆ど予言に近いレベルなのよね、それで第3区画に出会うべき人がいるって、目的は他にもあったのだけれど……それはいいわ」
「それを信じて一人であそこに来たのか」
「第3区画に行く! なんて言ったら止められるに決まってるじゃない」
「しかも媒体なしに」
「あ、あれは単に忘れただけよ! 普段は必ず着けてるんだけど……」
そう言いながら指輪を見せてくる。そこには第3等級魔法使いの証、赤い宝石が埋め込まれていた。
「てっきりそのネックレスが媒体と思ったぞ」
シロナが首から下げている、黒の宝石が特徴のネックレスを見る。
「これは昔からあるお守りみたいなものよ、すごく大切な……これも必ず普段は身に着けているんだけど、さすがに置いてきたわ」
「指輪もな」
「うるさいわね! 話を戻すわよ! それでクロトを騎士にしようって決めたの、心が読めないって事は私としても助かるわ、クロトなら気を使わないで済みそうだし」
「魔法は使えないけどな」
「そこは私も予想外だけど、今日見ただけでもクロトは十分すごいわ、それにまだ全然余裕があるように見えるし……」
「そうか? 心臓ばっくばっくだったぜ? まぁ大体はわかったが、俺は第3区画にいた上に貴族でもないが大丈夫なのか?」
そう、第3等級魔法使い以上であれば、貴族でなかろうと第1区画、学院に入れるが、騎士となると話が変わってくる。
確かに、騎士は貴族でなければいけない。という明確なルールはないが、基本は貴族から騎士が選ばれているのが現状であり、それ以外から騎士にでもなろうものなら、良い標的にされるのがオチだろう。もはや暗黙の了解となっている、
「あんたがそんな事気にするタイプ?」
「いいや全くだな、俺じゃなく家柄の問題として、ってことだよ」
「全く問題ないわね、細かい事はどうにかしてくれるでしょう、シュヴァリエール家はすごいんだから」
「そう言えば、おっさんにも力で見ろとか言ってなかったか?」
「お父様もサイドスキルをお持ちよ」
「親子そろって心読めるんじゃないだろうな!?」
「まさか、違うわ、お父様は意志の力を見ることができるの」
「石の力?? 重さか何かか?」
「意志よ、その人がどれだけ本気か……とかね、応用で嘘も見抜けるみたい」
「親子そろって恐ろしいサイドスキルだな」
「そうね、だからあの時も私がいかに本気かって見抜いたと思うわ、クロトだけはやっぱり見抜けなかったみたいだけど」
「嘘つき放題だぜ」
「頼むから騒動はやめて頂戴」
そんなことはしないけどな。……しないよ??
「とりあえず、話したかったのはこれだけよ」
「なるほど、魔法使い様も大変なんだな」
「魔法使えない奴の方が、人生大変そうに見えるけど? 家にある魔法具使えるの?」
「使えないな、メイドがそこ辺りも世話してくれるみたいだぜ」
「念のためミルの部屋近くにしておいて正解ね」
「といっても毎度聞きに行くのは面倒だな」
「そうね……いいわ、だったら今から騎士の儀を行いましょう」
「騎士の儀?」
「そう、契約みたいなものね、ついてきて」
そう言うとシロナは椅子から立ちあがり、部屋を出ていく、俺も後をついていく。
階段を下り、渡り廊下を抜け教会のような建物に入る。中は深い縦長の構造になっており、支柱が並び、奥に祭壇。そしてステンドグラスによって、神秘的な光を放っている。
「綺麗だな」
「あら、クロトもお世辞が上手いのね」
「……そういう事にしといてやろう」
「?? いいわ、始めましょう」
シロナは右腕を伸ばし、俺の方へと向ける
「跪いて、私の手を取って」
「ああ」
俺は跪きシロナの手を取る、そこには細く白い指に、魔術媒体の赤い宝石が埋め込まれた指輪もあった。
一呼吸置くと準備が整ったのか、シロナが詠唱を始める。
「ー我を導きし魔力(マナ)よ、我を護り我と共に歩む騎士を今ここに認めよー」
俺とシロナの周りを、ステンドグラスの輝きとはまた違った不思議な光が包み始める。
「ーシロナ・シュヴァリエールがクロトに命じる! コントラクト・ナイト!- 」
シロナがそう叫ぶと辺り一帯がまばゆい光に包まれる。
一時の静寂の後、少しづつ光は小さくなっていき、やがて元に戻っていく。
「どう? 何か変わったことはある?」
「変わったこと……?」
自分の身体の見渡すが、特に変わったところはなく、魔力を感じることもなかった。
「特にはないな」
「そんな……どこかに騎士の証が現れる筈なんだけれど……」
そう言われ隅々まで体をチェックするが、はやり何もなかった。
「魔力がないからかしら、それとも名前が違うとか‥…そんな訳がないし、おそらく魔力が原因ね」
「契約して何か他にできる事でも増えるのか?」
「そうね、主には思念石がなくても、念じるだけで騎士とその魔法使いは会話ができるわ、他にもあるけれど説明はまた後日ね」
「なるほど、それは便利だが……残念だったな」
「流石に騎士とすぐ連絡が取れないのは困るわね……後で専用の魔石と思念石を込めた物を届けるわ、そうしたら魔石の魔力がある限り、私にのみだけど、念じれば会話ができるわ」
「わかった、だが契約は大丈夫なのか?」
「前例がないからどうしようもないわね、必ず騎士の証が見えるところにある訳でもないし、このまま通すわ」
「そうか、すまんな」
「貴方のせいじゃないわ……ともかく、これからよろしくね、騎士クロト!」
「おう、ドジなお嬢様」
こうして正式に? 俺は騎士になったわけだが……。
今の俺で何ができるかわからないが、あの区画から出れたのもこいつのおかげだし、ちょっとはやる気を出すか。
学院ってのも初めてだが、退屈はしなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます