第17話 ド・ストライク

 とある星に数多くの神々が居座っておりました。

 大地をつくり、空気をつくり、生物をつくり。

 その星は、その世界は、神々にとって、ただのゲーム盤でしかありませんでした。

 ボードゲーム、と言うと、双六やルーレットなどがありますが、このゲームは、〝運〟のゲームなのです。

 運。言うなれば、未来に起こることを予測し、賭けをします。それがこのゲームの基本的な遊び方です。

 賭けるものは色々ありました。

 例えば、神界で使えるチップや自分が大切にしている物や自身の命、などなど。

 まあ、何でもいいのです。

 何でもよかったのです。

 ただ、そのゲームをする口実が神々には欲しかった。それだけなのです。

 ずっと見ていたかった。ゲーム、という形ではなく、見守る神として見ていたかった。

 けれど、他の神に笑われると誰もが思ったのでしょう。結果、皆、ボードゲームをしている風を装いながら、見守ることしかできなくなったのです。

 ときどき、生物が危機に遭遇した場合や目を付けていた生物が死んでしまうような場合に、皆、本当は口にだして、「危ない!」や「頑張って!」などと言いたいのですが、他の神がいるところではそれが出来ず、見えないように拳を握りしめ、心の中で応援したり。

 お手洗いに行きたいけれど、気になるからと見続けている間、すごく我慢して見ていたり。

 夢中になりすぎて、同じ体勢のまま一日が過ぎていったり。

 そんな日が幾日も幾日もあったのです。

 なくては困る。

 神々は、口では言いませんでしたが、誰もがそう思っていました。

 そして、とある日。

 いいや、とある必然、と言った方が近いのでしょうか。

 神々は、ある一人の少女に目が釘つけになったのです。

 メイド服を身に付け、両手にガントレットを装着したその姿。

 彼女の名を──


 ──メイドリスと言いました。 




◇◇◇




 鳴度薫子は、ベッドの上で目を覚ました。

 リアルで2日(ゲーム内で二週間)、ゲーム内でログインしっぱなしで食事も摂らず、水分も摂らず、ベッドの上で過ごすという日々を送っていた。

 ゲーム内にいたのだから、ベッドの上で過ごす、というのは少し違うが、似たようなものだ。

 さて、この春から薫子は高校一年生なわけだが、そんな彼女は、ゲームのことで頭をフル回転させていた。もう、学校のことなど忘れてはいるまいか?

 そんなことはない・・・・・・多分。

 

 薫子は、久し振りのご飯と水分を摂ることにした。

 とは言え、食料はほとんどない。この家に来たときに途中で買った非常食があるだけで、あとは何もなかった。

 時計を見れば、十二時少し前。

 餓死するほどの飢えはないが、流石に食べなければならない。

 仕方がない、と外で食べることにした薫子は、、財布とスマホを持って、外へ出た。

 眩しい、と彼女は一言呟くと、


「・・・・・・なーんで私は、メイド服でいるのでしょうーかねー」


 自分の行動が理解できない、と言った。

 まあ、最終的には、まあいいか、と納得(?)したのだが。


 彼女が住むことになった家は、住宅街にある。

 まわりは家だらけだが、この家は目立つ。何しろ、敷地と家がでかいから。

 これでも小さいほうなのだ。

 薫子はもう諦めていた。

 家が大きいとなんかいいよねっ! みたいなテンションで諦めた。ブレーキは踏まずにアクセル全快!!! と元気なのさっ! 


 ──閑話休題


 とりあえず、駅に行ってみることにした。

 今は春休み。駅には人がうじょうじょ。

 蟻だな。蟻ですね。蟻の大群。

 ・・・・・・ごめんなさい、蟻は嫌いなのです。

 彼女は蟻さんに勝てなかった──っ!!

 テッテレー!

 蟻じゃねえよ。黒くねえし。じゃがいもにしておけ。

 ・・・・・・今日のお夕食は、ポテトサラダを作りましょうか。

 うおおおおっ!? 目の前の大量のじゃがいもを使う気なのか!? 嘘だと言ってくれ!!


 ──閑話休題


 薫子は、駅前にある喫茶店に入ることにした。

 春休みだから人がたくさんいるかと思ったが、誰もおらず、薫子の貸しきり状態になった。

 外装、内装が煉瓦になっていて、暖炉まである。

 マスターは、白髪のご老人だった。昔はイケメンだったのであろう──おば様方が口々にイケメンねぇと言っている。

 薫子は、珈琲とサンドウィッチを注文した。

 もともと小食なので、一週間食べていなくてもサンドウィッチ五切れくらいでいいのだ。五切れは流石に多いか。まあ、何にせよ、小食が過ぎるとは思うが、健康的に見ると、至って健康。母親に食べなさすぎだと言われていたが、だからと言ってそれが改善されるわけではなく、やはり今も小食のまま。

 ゆっくりとサンドウィッチを噛みしめ、珈琲を飲む薫子をマスターは、じっと見ていた。

 なぜ、あの娘は、メイド服を着ているのか、と。

 案の定、そう思っていた。




◇◇◇




 イベントの告知が来た。

 明後日からイベントが開催されるらしい。

 ログインすると、そんな情報が目に言った。

 ウィンドウを開くと、イベントの詳細より先に自身のステータスを確認した。

 レベルは74。内部時間で二週間しか経っていたいにもかかわらず、既に70超え。

 トップランカーのレベルが100を少し超えたくらいらしいので、そうとうバグっている。


「って、【魔の力】がレベル102なんですけど」


 通常、スキルはレベル10でカンストする。しかし、【魔の力】はカンストせず、百超えというよくわからない数字を出していた。

 この意味不明なスキル、本当になんなのだろうか。


「そもそも、レベル上がるの早すぎだと思うのですが」


 他のスキルは、カンストしているものもあれば、レベル1のままのものからカンスト手前まである。

 初期のスキルや最初の段階で手に入れたスキルは既にカンストしている。

 剣や槍を使わない彼女には、攻撃スキルと言えば、打撃や投げ技、回避など体術系のスキル、魔法が大半を占め、他は、料理や刺繍、お掃除、と言ったメイドのようなスキルがあった。

 その中で一つ、彼女が面白いなと思ったスキルがあった。


 【ドジっ娘】


 果たしてそれは、スキルなのか。


(ドジっ娘と言うと、お盆に飲み物乗せてくるときに躓いてひっくり返したり、マヨネーズを破裂させて(それドジっ娘か?)白濁まみれになったりする──)


 使ったことがないので、レベルは1のままだ。

 なぜ、これがあるのかは定かではない。

 スキルの獲得にはいくつか方法がある。


 一つは、ある行動をずっとしているとそのスキルが獲得できるパターン。

 二つ、ポイントを消費してアクティベートして獲得する。

 三つ、魔物を倒したときのレアドロップで獲得。

 四つ、スキルが封じ込められたスクロールを買い、獲得。

 五つ、クエストの報酬で獲得。

 六つ、イベント報酬で獲得。


 これが主な方法だ。

 〝主な〟という表現にしたのは、他に獲得する方法があるのではないかと考えられているからだ。 運営は、とりあえずこの六つを提示したが、それだけだとは限らない、と言っていた。実際はまだ他にあると考えるプレイヤーは多い。

 さて、この【ドジっ娘】というスキル。

 ドジなことをした覚えはないし、魔物からのドロップでもないし、買ったわけでもポイントでゲットしたわけでも、報酬で貰ったわけでもない。突如、スキル欄に現れた。

 



────────────────────────


スキル【ドジっ娘】


 効果/自身が立っている地面の摩擦力を30パーセント無くし、滑りやすくする。また、ドジっ娘になりきると、全ステータス+500上げる(AI判定)。


────────────────────────




「よし、売ろう」


 結果、売れなかった。何故か、売却、譲渡不可能スキルだったからだ。

 なんなんだまじ、なんなんだまじ、といつもの口調を崩し、ウィンドウに表示されている【ドジっ娘】という文字を人差し指で連打する。

 まあ、使わなきゃいいだけなんだけど。

 メイドリスは、このスキルを永遠に使わないことを誓った。


「っと、そういえば、お二人のお姿が見えませんね・・・・・・」


 お二人というのは、エリシアとジャンヌのことだ。今はジャンヌではなく、ルレアという名前に改名した。いや、改名とは少し違うか。彼女は一度、死んでいるのだから。

 ジャンヌが魔女として処刑されたことは、メイドリスの耳にすぐに入った。というか、その場で見ていた。ジャンヌが見ていてほしいと頼んだからだ。

 その日ジルは地元へ戻っていていなく、ちょうどよかった。

 これは、ジルには聞かせられない作戦だったからだ。

 作戦、ではない。

 ただ、ジャンヌの村の気持ち悪いおっさんがジャンヌを処刑する事実を使って、ジャンヌをこの世から消すというものだったからだ。

 エリシアは魔法の研究をたくさんしていて、その中に転生魔法があった。しかし、転生できる確率は1パーセントにも満たないバカみたいな数字だったが。

 メイドリスは反対した。身を隠したいなら他に方法はあると。

 ジャンヌは、それを押切り、転生魔法を使ってほしいと頼んだ。

 なぜ、彼女がそこまでしてジャンヌという存在を消したいのか。

 国にとらわれているだけでは、本物の英雄にはなれないと思ったからだ。

 転生魔法は、成功した。願いが叶ったのか、運がよかったのか、1パーセントにも満たないというデータが間違っていたのかはわからないが、現在、ジャンヌは容姿を変えて確かにここに存在している。

 それから数日経った今、エリシアとジャンヌはメイドリスのパーティーメンバーとなった。

 そう言えば、とメイドリスは思った。

 ゲームをはじめてから一度もプレイヤーと話してない気がする、と。

 事実、見かけはするが、誰とも話していないし、ゲームだというのにフレンド登録すらしていない。

 

「いや、寂しいとかじゃないですよ?」


 誰に言い訳しているのかわからないが、彼女は時々独り言が出る。

 さて、メイドリスはログアウトしたあと、このゲームの説明書を読んでいた。

 どうやら、このゲームは、リアルと同じようにひとつの世界として成り立っているらしい。つまり、今までのゲームとは違い、NPCは自己で判断して行動するため、同じセリフを何回も繰り返す、なんてことがないらしい。クエストは、システムでクリア期間が決まっているのではなく、そのときの状況で変わる。同じクエストはないし、もちろん死んだ人は蘇生魔法でもない限り生き返らない。きちんと時間が存在するのだ。

 いつ国が滅んでもおかしくない、ということにもなる。

 とすれば、イベントなんて無理ではないかと思うが、しかしそこは何とかするのが運営なのだ。

 イベントは、神様が楽しむために行っている現象、ということで理解している。

 ウィンドウ(メニュー)も存在するし、そこは意識操作している。(意識操作というと、ここが現実だと聞こえてしまうが。)


「そろそろ、プレイヤーと交流を持った方がいいですね・・・・・・」


 プレイヤーと交流していないと、本当に異世界にいるかのような感覚になる。

 それに、パーティーも組めないし、情報も手に入らない。

 

「ああ、お嬢様とメイド長とも会わなくてはなりませんね」


 リアルで2日、ゲーム内で二週間もプレイしたのだ。そろそろ合流せねばならないとメイドリスは思った。

 いや、そろそろというか、はじめてすぐに合流してもよかったと思うのだが。

 既にメイドリスは、このゲーム内で最強クラスになっているだろう。

 まあ、メイドリスよりも更に強いプレイヤーも存在するにはするのだが、織羽と彩花より強くなっているのは確かだった。

 

「ふぅ。お二人が戻ってくるまでステータス確認とアイテム整理でもしてますか」


────────────────────────


 【魔銃・メイドガン】 [レア度:SS]

 <特定条件達成により解放>

 <特定条件達成により解放>

 STR+1000

 スキル/『命中』『照準補助』『貫通』


────────────────────────


 まず始めにこれだ。

 一回も使っていない忘れ去られていた銃だ。

 

「特定条件とはなんでしょうかね」


 特定条件と書かれてはいるが、その詳細はどこにも書かれておらず、何をすればいいのかがわからない。

 特定条件と言えば、メイドリスが戦闘時に着るメイド服(街中でメイド服を着ていると目立つため戦闘時のみにした)。メイド服にも特定条件があった。


────────────────────────


【神格霊装・メイド服】 [レア度:SS]

 <特定条件達成により解放>

 <特定条件達成により解放>

 STR+1100

 DEF+500

 INT+500

 AGI+500

 DEX+500

 LUC+500

 スキル/『障壁』『異常状態解除』『反射』『カウンター』『飛行』『自己修復』


────────────────────────


「ごめん。本当にナニコレワカンナイ」


 後半片言になったのは、仕方がない。規格外な性能を持つメイド服がメイドリスの手元にあるのだから。


「しかし、本当に特定条件ってなに?」


 ログアウトした際にネットとかでも調べてみたけど、そんな情報はなかった。運営は多分、この情報を流していないし、プレイヤーも流すとは限らない。

 武装して強くなるのはメイドリスはあまり好きではないが、今のメイドリスにとってあってもなくてもいいくらいの性能をプラスされる。プラスされるのが規格外だが、とはいえ、そんじょそこらの魔物にはやられはしない。

 別に装備で強くなるのはいいが、それは自分の強さではないと思ってしまうのだ。

 メイドリスは、特定条件の達成を目標にした。解放されるのがいつになるかはわからないが。

 装備品を確認したり、アイテムを確認したりしている内にドア越しに声が二つ聞こえてきた。

 ドアが開くと、入ってきたのは二人の少女。幼女とも言う。

 幼女。

 正に幼女。

 ああ、幼女よ。

 ありがとう。

 メイドリスの頬に涙が伝った。


「きみ、なんで涙なんか流しているんだい? しかも、幼女幼女とぶつぶつ呟きながら」

「メイちゃん、きもちわるーい」

「酷い言われようだ」

「ジャンヌのは、ド・ストライクすぎだ」


 ぐさりときましたわ、ぐさりと、とメイドリスはジャンヌに向かっていった。対してジャンヌは、にへらとはにかんでいた。


「許す」

「許しちゃうんだね、メイドのお姉ちゃん」

「可愛いは正義」

「戻ってきてほしい」

「くんかくんかしていいですか?」

「ふぇ? くんか? なにそれ?」


 ジャンヌは、純粋なのだ。そんな彼女に何を言うというのか。


「髪の毛から脇、胸、二の腕、腰、大事なところ、足までくんかくんか匂い嗅いでペロペロ舐め回していいですかっ!? (ハァハァ)」

「きもちわるーい!!」


 どすっ。

 ジャンヌの鉄拳がメイドリスの鳩尾に入った。くほっ、と鳩尾を押さえて、椅子から転げ落ちて地面に倒れた。


「どっちもド・ストライクだね」

「メディィィィッッック!!!」

「・・・・・・それ、ジャンヌのキャラじゃ、ない・・・・・・ぐふっ」


 ストラ~イク! メイドちゃん、あうと!









 

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メイドオンライン 羽九入 燈 @katuragawa

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