第9話 はじめての友達

「よし、部屋に行こうか。ついてきて」


 女性に連れられ、宿の奥へ行く。少し狭い廊下を抜け、少し広い空間にでる。そのまま進んでいき、とある部屋の前で止まった。


「ここだ。散らかってるけど、いいか?」


 大丈夫ですとこたえると、女性は部屋のドアを開け、中に入った。

 個人的な部屋らしいので、お客が泊まる部屋とは違う。壁紙も貼ってあるし、家具もいろいろある。そもそも部屋の広さが違った。

 真ん中には丸テーブルと椅子が二つ。座りな、と言われたので片方の椅子に座る。

 

「ああ、そうだ。飲み物、紅茶かコーヒーかどっちがいい?」


 紅茶はあるだろうとは思っていたけど、コーヒーもあるんだ。折角だしコーヒーにしよう。そう言うと、ちょっ待っててくれと言って部屋を出ていった。

 数分で彼女は戻ってきた。手には、お盆を持っていた。その上には、カップがある。

 私の目の前にコーヒーの入ったカップを置き、ミルクと砂糖を置いた。だが私は、ブラックで飲む。

 なかなかの美味しさだ。


「それで、なんのお話をするんですか」

「あんた、この世界のこと、なんもわかってないんでしょ」


 ええ、わかっていません。国が何個あるかとかそのくらいしか。


「だから、あたしが教えておこうと思って」

「ありがとうございます。知り合いもこっちにいるんですけど、今は忙しいようだったので聞けなくて」

「知り合いはちゃんといるんだねぇ」


 その言い方だと、私に知り合いがいないと思っていた口振りに聞こえるんですが。


「そういえば、自己紹介してなかったね。あたしは、アシル。平民だから、姓はないよ」


 アシルさんとおっしゃるのね。何歳かわからないけれど、見た目と名前からお母さんとか保母さんとかのイメージが出てくる。胸もでかいし、ぴったりだ。


「じゃ、まずは、飯食べる前に聞いてきたろ、えっと、なんだっけ」


 ──と、変なことを考えていると、アシルさんは話をし始めた。


「この宿の金額は高いのか低いのか、です」

「そうそう、それ。庶民からしたら普通かな。それか、高いか。それは個人で違うんだけどね、まあ、高級な宿じゃないよ」

「今日、お客さんが二人しかいなかったのは・・・・・・?」

「王都って言ってもね、全部が全部、いろんなことが同じ、ってことはなくてね。ここいらに住んでる大半の人が、宿の泊まる金なんか持っていやしないんだよ。まあ、家があるからってのもあるんだけどさ。宿代払うなら、食べ物を買った方がいいのさ」

「ですが、旅人とかが泊まるのでは」


 旅人、もしくは冒険者。そして、プレイヤー。この人たちは、拠点を変えるのがほとんどなので、泊まるはずだ。


「いんや、さっきも言っただろう。王都でもいろんなことが同じじゃないって。王都の中央区の方が、賑やかで、店もたくさんあって、高級な宿とかレストランとか、迷宮区だってそこにあるから、人がたくさん集まるんだよ」

「つまりここは、過疎地ってことですか」

「そこまでじゃないけど、似たようなもんさ」

「入り口であるここら辺って、普通もっと人がいるものなんじゃないんですか」

「これでも人がいる方さ。他のところにいったら、これより人がいなくなる。王都だからね、広くてそうなるのさ」


 大体は理解できた。話を纏めると、王都は都会だけど、その中にも都会があって、その都会が中央区ということになる。人がいないところは、田舎とかそういう感じなのかな。スラム街とかあるのかな。


「あるよ。ちょうどここより反対の方に。行かないほうが得策さね。あそこは、治安が悪すぎて、誘拐やら殺人やら人身売買なんか普通にあるんだ」


 う~ん、ゲームの設定とは思えないな。やってたゲームでそこまでリアル過ぎるのはなかった。

 スラム街かぁ。行ってみたいなぁ。面白そうだし。


「行ってみたいとか思ってるんじゃないかい?」

「げ、なんでわかったんですか」

「なんとなく」


 女の勘ってやつですか。こわいね、女の人って。私も女なんだけど。


「あの、この宿の料理もここらじゃ普通なんですよね」

「この国ではそのくらい。ただ、高級な素材とかシェフとかで高くなるのもあるけど」

「食材でも高いものと安いものもありますもんね」

「あんたの国ではどうなんだ?」

「同じだと思います。私の場合、お店で食べるとなったら、高級レストランとかなのであまりわかりませんが」

「うわっ、貴族様なのかい」

「いえ、私の国には貴族はいません。似たようなものはいますけど、私が仕えていた家がお金持ちだっただけです」

「仕える? あんた、使用人だったのかい」

「まあ、そうですね。少し違うんですけど」

「過去形だったから、リストラとか?」

「いえ、ただの私情によるものです」

「使用人かぁ。どのくらいな給料なんだい」

「私の場合、お嬢様が奮発してくださったので、結構な金額ですよ。確か、1ヶ月五十万くらいだったのではないのでしょうか。お嬢様は勝手に私の口座に振り込むので、正確な金額はわかりませんが」


 それを聞いた女の人は、白目を剝いて椅子から崩れ落ちた。え、なんで?


「・・・・・・ご、五十万・・・・・・」


 そこはどんな神界なんだい、とアシルさんは起き上がりながら、ぶつぶつと言った。もう何を言っているのかわからない。


「五十万と言っても、こっちの世界での五十万とは違うかもしれないので、安いのかもしれません」


 その言葉に、それはどうだろうねぇ、と彼女は言った。まあ確かに、ここら辺の状況を見るに、大金を持っている人なんていないわけだから、金持ちの紅栖乃木家が、そしてお嬢様が私にくれるお給料の方が高いに決まっている。

 私の場合、仕事が仕事だったので、大金をくれたのだろう。彩花さんたちメイドは、どのくらいもらっているのだろう?

 その後も話をいろいろして、話はじめてから二時間したところでお開きとなった。

 最後にフレンド登録をしようと言われたので、出来るのかと不思議に思いつつ、承諾をした。どうやら、この世界の人たちも私たちプレイヤーと同様にステータスウィンドウを扱えるそうだ。こっち用語だと、呪術盤、と言うらしい。

 そして──


<称号≪地球人の友人≫>


 ──ねーね。これってさあ、私が、宇宙人、もしくはそれに類する生物とでも言いたげな称号だな! いや実際、NPCからしてみれば、私は異邦人でこの世界の住人じゃなく、同じ人間ではない。そして、私の種族はエルファーなので、人間とは言えない。けれど、現実世界では人間なので、言い方を変えてほしい。

 

「あ、ということは・・・・・・」


 アシルさんの部屋を出てた私は、ふと思った。

 ・・・・・・私に友達ができたっていうこと?

 今日この日、ゲーム内で初の友人ができました。

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