第0話 あるプレイヤーの末路
「ジル! どこにいる!?」
男が大声を出して呼んだ。走っているため、息が荒く、汗が流れている。時々後ろを振り返る──その姿は、誰かに追われているように見えた。
辺りは木々で埋め尽くされている。『ノエルの森』と名付けられたこの森には、ノエルと呼ばれる魔物が巣くっていた。ノエルとは、人間の成れの果て、と呼ばれているが、その実態は未だ不明であった。
「────っ、 ぐあっ」
どこかで声が聞こえた。男の声だ。その声に男は、走るのをやめた。その声は、男が探していたジルいう人のものだったからだ。
「どこだ!」
男の呼び声は、ジルには届かない。何故ならば──ジルは既に息絶えているからだ。
そうとも知らず、また走り出しながら、ジルを呼び続けた。
どれくらい走ったのだろうか。一部木が生えていない場所に出た。まだ昼前の時間。天気は晴れで、太陽光が森に空いた穴から差し込んでいる。
そこの丁度真ん中で止まった男は、ぐるりとまわりわ見渡した。と、男はあることに気がついた。
(この森には、ノエルが棲み着いていたはずだが……入ってから一度も見ていないような気がするな)
その通りであった。この森でノエルに会わないことなどあり得ないことであり、もしかしたら、死んでいたかもしれないのだ。しかし、ノエルがいない。これは、異常であった。
(冒険者ギルドに報告するか……たがしかし、俺には無理だ)
男は、盗賊だ。プレイヤーから盗むのはなく、NPCから盗むのが主な仕事。そのため、男には多額の賞金が掛けられていた。だから、男にはどうしようもなかった。
(まあ、いい。今は、ジルを探すのと自分の命が大事だ)
男はプレイヤーなので、死んでも蘇生される。しかし、所持金の五割とアイテム(一つとは限らない)を落とすため、そう易々と死んではたまったものではない。
「っち」
男は小さく舌打ちした。あることを思い出しだ。PKされたプレイヤーは、このゲーム内に復帰できるのは、現実世界で一日。ゲーム内で三日だということを。そんなことになったら、三日分金がもらえない、と男は思った。早くここから出よう。そう考えたとき、
ざくり
音ではない。体がそう判断した。見ると、どうやら左肩にナイフが刺さったようだった。しかも、丁寧に毒まで塗っていた。
男は、左上にあるHPバーとMPバーの下に毒があることを示す絵があることを確認すると、がくんっ! と両膝をついた。毒が体をまわったのだ。速効性の毒。これを付与されると、一分以内に死ぬ。毒の効果では、最上位のものであった。
男のHPがぐんぐんと削れていく。それをどこかで眺めている首謀者を絶対に突き止めてやる、と男は意気込みながら──ポリゴンとなり絶滅した。
男がいたところに、ゴールド色をしたお金とアイテムが三つ落ちたが、すぐに消えた。男を殺したやつのものになったためにそいつのインベントリに入ったのだ。こうして、この森は、静かになった。
この世界は、ゲームだ。ただ、そう思っているのは、プレイヤーだけ。この世界の住人〝地球人〟は、ここが本物の世界だと思っている。そして、彼らから見れば、プレイヤーは〝異邦人〟だ。そういう設定だが、人工知能AIである彼らは、自分たちで考えたと思っている。
ゲーム稼動開始から〝地球人〟は、ここがゲームだと受け入れた人もいれば、そうではない人もいる。
だが結局のところ、そんなことはどうでもいいのだ。〝地球人〟〝異邦人〟この区別ができていれば、問題がないのだ。
〝異邦人〟が来てからもこの世界は、前と同じ──とまでいかなくとも、悪くはなかった。──ただ、プレイヤーがNPCである〝地球人〟を殺さない限り。
先ほどのように、〝地球人〟専門の盗賊やNPCKILLNKプレイヤーがいる。そこが特に変わったことだろう。
さてさて。第二陣がプレイ開始してからゲーム内で既に四日が経っていた。
この世界に来たプレイヤーは、どんな反応をするのか。
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