メイドオンライン

羽九入 燈

第一章

第-1話 主人公になれなかった男

 鳴度薫子。

 その名前を聞いて、何を想像するか。

 鳴度。

 めいど。

 メイド。

 特に何の意味もないが、何も、これも、誰も知らない名前を聞いて、そう想像するのは、必然、偶然──はたまた奇跡か。

 日本にはメイドという文化が存在するが、もともと日本にはメイドはいなかった。(発祥は、中世のイギリスだったか──?)

 しかし現在の日本では、もっと細かく言えば、アニメオタク業界内では、メイドは欠かせない存在だ。

 別にメイドに『萌え』などいらないと思うが、日本の文化のメイドは『萌え』なのだそうだ。

 まあ、中世頃のメイド服はフリルの付いたものもあったので、『萌え』という言葉はなかったにしろ、ゴスロリチックな感じだった──ようなことを何かで見た覚えがある。

 閑話休題。

 鳴度薫子。

 メイドの名を持つ彼女は、必然か偶然か、はたまた奇跡か。どう言えばわからないけれど、結果的にメイドになった。

 鳴度家の歴史には、メイドは誰一人いなかったので、名前(名字)はあまり関係ない。

 あまり、というのはつまり、彼女自身、鳴度という名の通り、メイドになりたいと思ったことがあるからだ。

 鳴度であるが故のメイド。

 繋がっていそうで繋がっていない。

 そこには何も関係はなく、関係は少しだけある。

 だからこそのメイド、とも言える。

 だからこそのメイドではない、とも言える。

 何を言っているかわからない。

 ──閑話休題。

 メイドになった経緯について、語る必要はないだろう。いずれ、というかどこかで語られる。

 経緯なんてものはあてにはならない。

 どう運命が転がってもメイドになったかもしれないし、ならなかったかもしれない。

 そこに確実なものはなく、不確実なものだけがある。

 ──いや、確実なものもあるし、不確実なものもある、というべきか。

 なんにせよ、これから語られる物語に、メイドという職業は、付属品のようなものだ。

 メイドだから、側にいる。

 側にいるから、メイドである。

 そういう考えもできるし、できない。

 物語上、何故メイドなのかという突っ込みが必要なだけなのだ。

 だから、私は、こう言おう。

 

「主人公が彼女じゃなかったとしたら、主人公になったであろう僕は、執事という付属品がついたのだろうか」


 

 

 

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