第6話

「もしかして、あの伯父さん、宇宙人?」

「いや違う。僕らと同じ地球人。だけどずっとずっと遠い昔の人」

 真冬の京都、雪景色の銀閣寺を前にした私たちの会話だった。

 その不思議な伯父さんに勉強を教えて貰ったお蔭で、私たちは望んだ大学に入学できた。彫刻家になりたい彼は芸術系の大学へ、そして薬剤師になりたい私は薬科大学へ。

 

 高校時代、私と彼は都内の図書館で伯父さんから進学の為の指導を受けた。伯父さんから約一時間ほどの説明を受けた後、手渡されたレポートに書かれた問題を解いていくだけだ。私と違って美術の分野を目指す彼には、デッサンや色彩構成の実習が重要だと思われたが、彼曰く伯父さんの話が実習をする上で非常に役に立つということらしい。そして進学を目指す上で一番重宝したのは歴史教育だ。芸術、科学、宗教、政治、どんな分野も歴史の流れを把握しなければ確りと理解できない。当時、印象に残っているのは、伯父さんが静かに窓の外を眺めている姿だ。あの時、伯父さんは空ばかり見ていたように思う。問題を解いていく私たち二人は伯父さんと向き合い座っていた。同じ机に三人が手をついているのに、伯父さんはどこか遠くに、果てしなく遠い場所にいるような感じだった。


 進学後、多摩地区に住む彼と佐倉市に住む私は高校時代よりも自由時間が増えてほぼ毎週会えるようになった。私は伯父さんが何者なのか、深い疑問を持つ暇もなく夢中で勉強していた為、無事に進学してからの京都旅行で、彼の口からその正体を知った。それは納得できる答えだった。あの人は私たちの文明が興る原始以前の遥かな昔に勃興し滅亡した全く別の文明に属する人だったのだ。いったいどんな文明だったのかしら?ひょっとするとこの雪を纏った銀閣寺のように神秘的で厳かな建造物も築いていたのかもしれない。

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