第2話

 私は平成元年の生まれ。そんな私がこの年に生まれたことを誇れるのは、理想が現実を壊すようにベルリンの壁が崩壊したことかもしれない。


 小学校から千葉県の佐倉市で暮らした私にとって此処は安住の地になった。マイホームは、印旛沼という湖のような景観の沼の周辺にある。両親がマイホームを買った理由は不動産価格の下落で、多忙な父の働くゲーム業界は、日本経済のバブルが弾けて以降も暫くは好調なようだった。それが証拠に家族は毎月必ず一回は東京ディズニーランドで遊んだ。いつしか私の部屋にはミッキーマウスやミニーマウス、ドナルドダック等の可愛いキャラクターの縫いぐるみが増えていった。自由奔放に育てられた一人っ子の私は学校の他の女子に比べると、勉強もスポーツも平均以下の成績、しかもクラスでも影の薄い地味な存在で、学校生活よりも家族と過ごす時間の方がずっと楽しかった。


「結局、人類が滅亡するっていうノストラダムスの大予言は外れたな。ゲーム・オーバーにはならなかった」

「ええ、世界は終わらなかったわね。良かった、良かった」

 夏休みのある日、父と母はしみじみとそう語った。両親がどうして世界の終わりについて話しだしたのか、私はよく憶えていない。

 私たち三人はディズニーランドのレストランで、アイスクリームを食べながら、次のアトラクションを物色していたが、この時、私は偶然にもレストランの大きな窓の彼方にまたあの空飛ぶ円盤を発見した。まるで私にしか感知できない不可思議な信号を真夏の大空から発しているかのようだ。それは約五年ぶりの再会だった。空飛ぶ円盤はへのへのもへじの顔のような曲線を高速で描いて消えてしまったが、そこにはユーモアがあった。まるで幸せな私の気持ちを映し出したように。

 空を仰いでくすくす笑う私に、父も母も違和感は何も感じなかったようだ。

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