空の鏡

大葉奈 京庫

第1話

 平成という元号を意識しだしたのは私が小学校に入学する直前の頃だ。


 東京にも桜の蕾が目立ちはじめた春先に、丁度私たち家族は都内のアパートから千葉へ引っ越す準備をしていた。両親は母が専業主婦、父は会社勤めでもゲーム開発に従事するプログラマーの変人で、偏った音楽的嗜好や収集癖のある痩せ過ぎの男。美人で良妻賢母の母が何故そんな父に魅かれたのかは謎だが、共有できる話題も多少はあったようだ。

 

 珈琲を飲んでいる父がビデオテープの再生ボタンを押した時、テレビ画面には昭和天皇の崩御を伝えるニュースが映っていた。小雨の降る皇居の広大な庭園に老若男女を問わず多くの国民が参集している。とても厳粛な雰囲気だ。幼かった私はその光景に衝撃を受けた。特に印象的だったのは、赤い頬をした純情そうな中学生の少女が涙を流しながらインタビューを受けている姿である。

「昭和の終わりってこんな感じだったのか。もうあれから随分と経つもんなあ。しかしこの厳粛さって、民主主義的な雰囲気とはかなり違う。まるでソ連の書記長の葬儀の印象と瓜二つじゃないか」

 

 あの時、母は荷造りの最中で父の言葉は何も耳に入ってはいなかったようだ。そして無意識に三階の窓へすっと目を向けたのは私だけだった。幼い私は目を丸くして驚いた。晴天の爽やかな青い空の端から端を、小さな円盤が銀色に光りながら個性的な曲線を描き、あっという間に姿を消してしまったからだ。

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