第56話 三村義人 自白

十八 容疑者取調べ(その2)










「どうだ、三村!ここに出て来る二人とは?おい!お前と佐川さんだろうが?現時点で仔細は分からないが、私利私欲の為、尊い人の命を奪うなんて?お前は今迄何を考えて生きてきたのか?又遺族の方々の心境を考えた事は無いのか!


「そんな・・・し、知りません」


「三村!良く聞けよ!この手紙をもとに台地を調査した結果、投書どおり今は二ヶ所の井戸が埋戻されているが当時、あの周辺に三ヶ所の井戸があった事を確認したのだ!それに、佐川氏の捜索活動において病院周辺の捜策責任者となり、地理に不慣れな新兵を選び巧い事芝居を打ったな?この悪党め!是でも知らないと言張るのか!何か云いたい事があるのなら云ってみよ?」


「・・・」


この様な厳しい取り調べが数時間続き、井度から回収した遺体と原型を留めない古びた武器類の写真を見せられ三村は顔色を変えた。


以後、柔軟な態度に変り涙を浮かべ、以前記したした方法で佐川候補生を殺害した事を認めた。


「済みません。私が『佐川候補生』を殺しました」


「やっと白状したか。詳しく話してみろ」


「私も常識もあり善悪もわかる人間でしたが『赤紙』(召集令状)一枚で大陸戦線に参加させられました。国益の為、理由なき他民族と戦い、また任務遂行の為、多勢の敵を撃ち殺し、接近戦闘では銃剣で刺殺又は撲殺してきました。我が身と友軍を守る為の殺人行為に対しての罪悪感が完全に麻痺した状態の日々でした」


「それが犯行の理由になるか!」


「しかし皆さん考えて下さい。大陸と云えば周囲は、すべて敵兵です。長期間の戦闘に対して充分な、食料・医薬品・弾薬等の物資が送り届けられれば良いが、物資輸送部隊への攻撃被害等で物資が滞ると、一部最前線の戦闘部隊は生きる為、現地で略奪に等しい調達が行われました。又現地住民との無差別殺傷の修羅場に進み…強姦強奪等の口封じの為、老若男女問わず虐殺、証拠隠滅のため遺体の焼却、これが最前線の姿です」


「聞きしにまさる悲惨な状況だったことは理解するが、本件の情状酌量にはならんぞ」


「わかっています。私の心理状態を説明してるだけです。大半の部隊がこの様な状態におかれ、理性を失い人命の軽視が日常になりました。つまり非常識な命令でも動く『非人間』に変わり、殺人鬼となったのです。しかし私も被害者で何時戦場へ転属命令が来るかと不安な日々を送り、自己本位に生きる性格に変わり、楽しみの無い悲しい日々でした。『佐川候補』とご遺族の方々に、心よりお悔やみを申しあげます。今迄罪を隠し、本当に申し訳ありませんでした」  


参考迄に

回収された印鑑は、佐川が在学中に、捺印した書類の印章と照合した結果、同一印鑑と認定された。


これにより被害者は、佐川清正本人である事が立証されたのである。



また、以前三村が所属していた他の部隊の軍人関係者等に聞き取り調査を実施したところ、これと同じような事件が他の部隊でも発生しており、今でも迷宮入の状態である事が判明したのでこれらの件に付いても、今後徹底した捜査が行なわれる事になった。

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