第57話 公表 髑髏との会話検証(一)

全ての調査が終わり犯人たちが自白した事で迷宮入りの二つの事件が解決した。


昭和31年7月22日

姫路市公会堂において、歴史上前代未聞の「髑髏からの聞き取り検証」が行なわれる事となった。


今まで噂になっていた「髑髏との会話」の件が、あらゆる報道機関やマスコミを通じて取り上げられ姫路署ではその都度取材を拒み避けていたが、野井戸殺人事件が解決した今、髑髏と会話したと言う非科学的問題に対して科学的にメスを入れる運びとなり、公表せざるを得なくなったのである。


公表は姫路警察署が主催、姫路市公会堂に於いて、政府関係機関、都道府県警察本部長等・警察要職者、医科学者、学識経験者等多数の方々の参集の基、実施されたのである。


検証に先立ち、来賓方々のご紹介、各代表者の挨拶が行われた後、この事件を担当した姫路警察署長の奥田義孝から挨拶が行なわれた。


「ご参集の皆様、大変お待たせしました。姫路警察暑長の『奥田義孝』でございます。

本日は、ご遺族の皆様を別室にお迎えし、政財界の要職者の方々を始め、報道関係、各警察関係暑員の方々を、当姫路署にお迎えし、姫路、小野、加古川の警察署員の方々を代表致しまして、僭越では御座いますが、私より一言見解を述べさせて頂きます。


今日まで、再三噂になっている『髑髏との会話』に付き、本日医科学両面での検証を、この会場で実施して頂く事となり、事件に関与した各署長様始め、署員の方々同様、私もこの検証を喜び期待致しております。


しかし事件を扱った各警察署長以下、署員一同、今日までの調査は薄氷を踏む思いの毎日でした。


事の起こりは、自衛官の鬼頭勝氏が、井戸に誤って落ち込んだ事から始まり、先日皆様ご承知のとおり、野井戸殺人事件は三件共、難事件でありましたが各署員方々の努力で、全て解決に至りました。改めてご報告申し上げます。


この過程におき髑髏との会話云々聞かされたが、私達も皆様と同様、近代社会の中で生きる者として、今は物体になっているこの髑髏が口をきき、生身の人間と会話が出来るとは、夢々思ってもなく又、考えても居ません。然るに、この事件に関連した返事は、都度歯切れの悪い対応になり、関係皆様にご迷惑をお掛けしました事をこの場をかりてお詫びを申しあげます。


日夜我が国の公共秩序の維持と防犯に務め、国民の生命と財産を守り、近代科学に基づく犯罪の捜査活動、交通取締り等、我が国の警察官としての誇りと自負を抱き職務を務めて来ましたが、本事件に関しましては過去に事例が無く、署員一同、警察官の使命以外に卓越した諸々の事柄も多く職務遂行上日夜悩んだ事も多々ありました。

当事件に携わった関係者一同、社会人としての知識と行動等は皆平常と心得ているものの、この意に反し捜査活動において、現代科学でも理解出来ない事実を自衛官の方々共々、当該警察官も体験をしました。


あの『井戸』の中で会話したと言う、自衛官の話どおりの遺体が其処に有り、今日、迷宮入りかと思われた三件の行方不明事件は、殺人事件であって、後日容疑者を逮捕、この容疑者の供述書と、鬼頭氏が聞き覚えた話の内容が殆んど一致していたことは事実です。


本日はこの不可解な疑問解明の為、その道の方々のお力で、この謎を解明して頂く事を強く望み、署員一同期待しております。何卒宜しく御願いを申し上げ、簡単で御座いますが挨拶に代えさせて頂きます」


次に進行係の技官高島氏が紹介された。


「私は、本日の検証で、進行係を務めさせて頂く科学技術庁の高嶋雅夫でご座います。

本検証は人類史上、例を見ない始めての体験で、是から行なわれる検証に身が引き締まる感を抱いていますが、精一杯、検証実験の進行を務める積りでいますので宜しく御願い申しあげます。尚、検証に入ります前に注意事項をお伝え致します。


検証中は、静粛にして、カメラの撮影、録音等はご遠慮下さい。これらの諸事項は当方の専門家が収録しますから、後刻必要な方々はご請求ください。以上ご協力を御願い申し上げ、今から検証を行なわせて頂きます」


進行係が、私を紹介すると一斉にフラッシュが光り、会場はどよめきが続いていた。

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