第52話 井戸の中の怪奇現象

二十一 怪奇現象・鉈の回収


「何!鉈の回収?それは何時行なったのか?」


答「日付は忘れたましが、最初は事件から3年程過ぎた夏の午前3時過ぎと記憶しています。

当日鶏の鳴き声と犬の遠吠えのみ聞こえ静かな朝でした。

前日馬車に堆肥を積み、梯子と懐中電灯、強力な磁石金棒等を準備して井戸に向かいました。


井戸に着き水中に梯子を降ろし、懐中電灯のあかりで作業に掛かかったが?その電灯が故障で灯らず、いきなり暗闇の作業となりました。しかし今は恐怖心もすて、冷や汗を流し何とか鉈を回収せねばと梯子を一段毎、踏みしめ、水面近く迄降りて行きました。


井戸の中は異様な空気が充満しており、作業は全て手探りの状態です。金棒で井戸底を突付いて音を探知、其処へロープに結んだ磁石を沈め、鉈の回収が出来ると考え実行したものの色々な金属が多く、その度に取り除く連続です。今度こそ手応えありと重さで、探し求めている鉈だろうと思って慎重に手元に引き寄せ、その品物を片手で取り上げようとした瞬間、水面に得体の知れない手先が現れ、その鉈を持ち去り同時に水面が波打ちました。このような異様な現象が起こり、さらに梯子はガタガタと揺れ動き始めました。瞬時悪寒と恐怖に襲われパニック状態に陥り外に出るのがやっとの状態でした。それはそれは恐い思いをしました」


「ほう、そんな事があったのか?それは犯罪者が抱く妄想だろう?あれだけの異常な犯罪を犯しているのだから仕方ないな。その後はどうした?」


「今度は7年後、再び決行しました。日暮れの早い晩秋で、人の居ない夕方7時頃だったと覚えています。道具は前と殆ど同じ、新しい懐中電灯を携行したが、井戸の中では今回もまた使用できず。ふたたび薄暗い中で手探りの作業とりました。

井戸の中の空気は以前と同じ、異様な寒さを感じ水面は穏やかだったが、回収作業にかかると水面が大きく波打ちました。どこに居たのか大きな蛇が現れ、梯子に取り付き私の動きに動揺せず梯子を登り始めました。私は蛇の恐さとは別に言葉で言い表せぬ恐ろしい雰囲気に包まれ、外に出ようと焦りました。

井戸の中は以前同様、異様な音が聞えて、またもや梯子が揺れ動き、慌てて外に出るのが精一杯でした。つまり今回も何も出来ず帰りました。もうあの恐ろしい井戸に二度と近付く事は出来ません。本当に恐い思いをしました!」


「そうか、二度もそんな恐い目に遭ったのか。それもこれも、お前が悪事を隠し通すからだ!これで『荒木、富永』両人の複雑な殺人事件に付きすべて自供したのだな?これ以外に何か有るか?」


「いえ、ありません。全て白状しました。白状した今はスッキリした気分です」


「そうか、その言葉は本当だろうな。もし今後不審な点があればさらに厳しく取り調べるぞ!覚悟しておけ!良いな!」


答「わかりました」


このようにして厳しい取り調べの結果、渋谷熊吉は荒木・富永2名の殺人の様子と死体遺棄の様子を詳しく語ったことにより改めて殺人罪として逮捕されたのである。


次はもう一人の殺人事件、佐川候補生殺人事件の取り調べである。

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