第33話 料亭での聞き取り調査(一)
正月の2日に、私は宇坂、奥谷両候補生共々外出しました。
日の丸と旭日の旗で飾られた姫路駅前通りの賑わいと、雄大で美しい姫路城を見学した後、以前中村伍長から聞いて居た『瀧見屋』へ行き、酒が入ったところで、店の人に三村軍曹の話を持ち出してみた。
すると女将らしい方が、「貴方達新顔ね!三村軍曹を知っているの?」と問い掛けて来た。
「知っています、私達の班長ですから」
「そう、あの人相当お酒が強いわね。それと、こちらの方も」
と小指を伸ばして笑っていた。
またそれを聞いた別の女性が
「あの人、今回お金盗られたそうね?」
と呟くように云っていたので
「なんでその事を貴方達は知っているの?」
と、言いながら私はお猪口を持たせ酒を注いだ。
女性はそれを一気に飲み干し
「知らぬは仏様ばかり、こんな事すぐ分かるわよ」
「じゃあ、三村軍曹は、最近此方に来てないの?勿論期末手当を盗られたのだから」
と私はカマをかけた。
「それが前と同じ!来年になれば南方方面か大陸戦線へ転属だろうと一人合点して、むしろ今迄以
上に来ているわよ。どこかにお金の成る木を持っているのと違うかしら?私もあやかりたいわ。
アハハ、御免ね。私一人で喋って」
返杯する杯に、今一度お酒を注ぐと
「悪いわね。今後この店をひいきにしてね。私、春恵と言います。宜しく御願いします。調子に乗って、色々喋ったけど、今の話は誰にも云わないでね」
密かに私はこの言葉で三村軍曹の犯人説を確認しました。
私達は初めての店であり、多数の上官が出入りしているので、話題を学生生活の話に変え、早目にこの店を引き上げました。
さらにもう一軒三村軍曹が良く行くと云っていた料亭『黒金』にも伺ってみた。
時間は午後3時過ぎでしたが、さすが軍隊の街だけあって、姫路城東側を南北に伸びる播但道路を行き交う軍関係車両の頻繁な動きと、軍人の姿が多く見られました。
街並みは、城下街にふさわしく、本瓦白壁塗りの住宅が姫山公園の緑の樹木に調和して美しい佇まいをしていたのを覚えています。
この幹線道路を一筋東に入ると其処は野里町、名だたる料亭が軒を連ね、正月と云えどもその殆どが営業を行い、各々玄関両側に重みのある門松と、清めの塩が置かれ、軒先には日の丸が寒風に揺れていました。
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