第32話 鬼畜 三村軍曹(二)
今さら私が、「犯人は三村軍曹だ」と云っても、教育隊長始め、基幹要員の方々がこの意見に耳を貸す人は先ずいないでしょう。
上官達は互いに強い信頼感で結ばれており、疑いは全て新兵に向けられていたのです。
しかるに今回は目をつぶったが、場合に依れば先程の考えを捨て、直接上司に具申する考えでそれとなく様子を見ると共に、この不正な取り調べに対して腹が立ち、微力ながら私なりに捜査を試みる事にしました。
後日、日頃から三村軍曹と意気投合している中島伍長にそれと無く近付き、正月三ヶ日の内、一日だけ外出の許可が出るで3名の同僚と外出する予定を伝えました。
私は中島伍長に、私たちは姫路城を見学後、「どこかいい飲み屋で一杯飲みたいのでいい酒場を教えて欲しい」と雑談を交えて聞いてみた。
中島伍長は笑いながら、
「そうだな、色々酒場もあるが。酒を飲むなら野里にある『滝見屋』が良いかな?サービスがいいぞ!嘘だと思うなら「中島が云った!いや三村軍曹の紹介で来た」と云って見ろ。間違いなく安くして呉れるよ、ハハハ」
「ありがとうございます」
「おまえたち候補生達も今は二等兵だけど、後2ヶ月余りで俺達を飛び越し、上官になられるので今の内にゴマを擦っておかないとな。その折は宜しく頼みますよ」
と述べていたので、私はこの時とばかり三村軍曹の人柄等を聞いてみた。
中島伍長は、「三村軍曹は命からがら、支那大陸戦線から転属して内地の部隊に帰ってきたが、本人曰く『命が有るうちにしたい事をせよ』と云うのが彼の口癖で噂通り金使いが荒く、どこか気が合うので、軍曹と今迄付き合って来た」
と素直に語った。
「そうですか」
「しかし最近、軍曹の激しい気性と異常な浪費癖を知ったから今後の付き合いはもう懲り懲りだな」
とも漏らした。
この言葉で今回被害に遭った当人は、何時もと同様に派手な遊びを続けている事を知りました。
年末を控え、気分的にも忙しい日々、どの作戦地域からの手柄話や嬉しい情報もなく上司の訓示は何時もどおり言葉も重く、話の最後は必ず『悪いデマに惑わされる事なく各自信念を持って、この難局を乗り切ろう』と鼓舞していた。
今更、私はどうでもよかった。
願わくは一日でも早くこの教育隊からの解放である。
今迄、私がこの世に生を受け人間社会で培って来た事や大学で学んだ事は何んであったのかと自問自答しました。
日々上層部からの誠らしい情報を聞かされ、それを基礎に訓練行程に組み入れての指導は、素人の私達にも矛盾点が多いと感じていても不平も言わず訓練に励んでいたのだが日本の将来を考えると一喜一憂する不安定な日々でした。
今も数十機編隊の「B29爆撃機」での空襲を受け燃え続ける姫路市広畑工業地滞辺りを見て、この軍隊教育が今の我国に役立つ教えなのかと色々と疑問を抱かずにはいられぬ毎日でした。
私の信念は、日本の将来の事より、身近な内務班で起きた金銭盗難事件の犯人探しに心は動き、過去に犯人扱いにされた苦い体験と苦しみを想い出していました。
待ちに待った正月を迎え、形ばかりのお酒と鰹節が出て、つかの間ではありますが祝日気分を味わいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます