第29話 三村軍曹の尋問
「どの様に云われても、金は盗っていません。先週の週番兵に聞いて下さい、母からの手紙を渡された事を知っているので。」
「貴様、軍隊をなめとるのか!」
と同時に取り調べをする三村軍曹の鉄拳が、私の頬に飛んできた。
このような場面が、あちこちで起り取り調べが続いていた。
軍曹の階級にとって我々士官候補生は、後二ヶ月余りで自分たちの上官になるので今の内に痛み付けておけと云わんばかりの態度である。
そこには憎しみと妬みが加わり、文字どおり秩序の無い修羅場と変りつつあった。
特に支那大陸(今の中国)戦闘で武勇をたて金鵄勲章を受章した三村軍曹の取り調べは一段と厳しかった。
隊長が「おい、三村軍曹!そこまでしなくても」と注意しても、「隊長、新兵は甘やかしたら駄目です。このような若者は、責任感が乏しく敵兵を見たら、一番先に戦場から逃げ出し、見境もなく後ろから鉄砲を撃ちまくる臆病者になり、危険極まりない兵隊に育ちます。このような事は、私は大陸戦線で度々経験をしました」
とキツネのような目をさらに吊り上げて反論するので実戦経験の無い隊長以下、基幹要員達は、顔を見合わせ渋々これに従わざるを得なかった。
このような状況下だったので、三村軍曹の思いどおりの取調べが進み、事件発生から、2日後、私を含めて3名の容疑者が、憲兵隊に連行された。
姫路師団は、司令本部を姫路城東側麓に置き、赤レンガ4階建ての重厚な建物で、練兵場は、姫路城の南と北にあり、城北の広い練兵場では常時操馬訓練が行われ、運搬手段で欠かせない馬も600頭前後飼育していたと思います。
主力部隊の野砲連隊は、城北練兵場北側、広峰山麓にあり、一大隊から三大隊迄の105ミリ野砲大隊と155ミリ野砲の四大隊それに高射機関砲部隊の五大隊、工兵大隊、連隊司令部、憲兵、通信、衛生、業務会計隊等から成り、常時8000名前後の兵員が駐屯する大部隊だった。
憲兵隊はこの中にあった。
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