第22話 被害者捜査 荒木巌(一)

一方警察は下記の被害者3名の捜査にすぐに着手した。


1 荒木巌(あらきいわお)博労

2 富永正治(とみながまさはる)大学生

3 佐川清正(さがわきよまさ)陸上軍人


驚くべき結果となった遺体回収の後、警察による被害者の確認検証は、鬼頭氏から聞いた生前の住所を基にすぐに始められた。


水野捜査課長は部下を連れて小野警察署に来ていた。


彼は消息不明となり家族から捜査願いが出ていた「荒木巌」については、小野警察署に保管されている当時の資料を調査した。


結果、戦後間もない昭和21年7月4日午後3時半前後に本人を確認。


同日午後4時52分

「国鉄・加古川線青野ヶ原駅発の列車で明石に行く予定で発ち、加古川駅構内でそれらしき人物を確認したが、これ以後生死不明の状態が続く」とあった。


荒木の妻の桂子から、昭和21年7月15日、小野警察署に捜査願いが提出され、当署は直ちに近隣警察等を通じ捜索を行ったが戦後の事、各警察署も身元不明者の遺体等も多く進展はかどらず一年前後で捜索を打ち切った状態となった。


5年後の昭和26年7月6日

桂子夫人により高岡村役場に死亡届が提出され、受理されていた。


その他に不審な点として当時、荒木が加盟していた播磨地区博労会員の調書より、昭和21年7月4日、一泊二日の予定で、明石にて博労関係者の慰労会が行なわれた際に「毎年この会が楽しみだ」と云って参加していた荒木氏の不参加に一同、何か事情が出来たのだろうと噂をしていたと調書に記入されていた。


参考までに荒木氏の人柄を以下に列記します。


荒木氏は一人娘の久子をとても可愛がり、久子が16-7才の年頃を迎え、美人と噂がたった頃から村の若者を警戒するようになった。


久子が村の青年と立ち話をしていると、その男に暴言を吐いたりある時は木刀を持って追いかけた等の話が伝わり村人から恐い存在に見られていた。


久子が女学校卒業後、友人の紹介である会社に勤める事が内定し、その好意を非常に喜んでいたにもかかわらず娘の就職日が近付くと今迄の態度を変えて「俺の娘を勝手に会社で使うな!お前あの社長からお金を貰っただろう!」と根も葉も無い言いがかりを付けてその紹介者と揉めたとか。


このような事が度々あったので、村人達は事あるごとに荒木を敬遠していた。


荒木は博労会計を久子に任せ、夕方からは知人宅で彼女にお茶とお花の出稽古に通わせていた。


このように荒木の性格は突然豹変し、一般常識に欠ける面も多くあり、「会合等での会話は特に気を使った」と村人は言っていた。


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