第5話 脱出作業
私は陸上自衛隊の装備である「偽装網」を折畳み、それを束めて約2m前後の仮ロープを作ることに成功した。
長さの不足部分は、越しのバンドと小銃のベルトを使い補った。
これを壁面に固定した2本の杭に結び付け、水面上に延長して、この上に立つ事で脱出が可能だと思った。
しかしそのためには、ロープの両端を固定する支柱が必要である。
私は井戸の底にそのような物体があるのかと、足の指先で探ると、幾本もの硬い棒状の物が触れてきたの。
直ちに円匙を鍵型にして掬いあげて見ると、重さ太さから「動物の骨、又は人骨」と推測さらた。
私はその恐怖に併せ、水底に潜る度に聞えてくる「異様な音声」に驚き、精神的に滅入りつつ状態だった。
しかし今は我が身の安全確保が最優先。
この不気味な事柄について、深く考える余裕も無く作業に没頭した。
この時頭に閃いたのは、高校の授業で習った「アルキメデスの法則」である。
水面下に身を沈める事で、支柱に掛る重量負担の軽減を思い出すほど、すでに心は落着きを取り戻していた。
井戸の中は蚊の大群と多くの蛙が棲み付き、作業を止めると、俄かに蛙の合唱が始まる。
まるで私の行動を嘲笑うように煩く聞こえた。
又露出している顔面と腕は、蚊に刺され苦しい作業が続く中、井戸底に潜る度に聞こえる声のようなものに心が動いたのもこの頃であった。
「いったい何の声だろう?ここには人も動物も居ないのに?」
それは途切れる事なく続き、時には小さくボソボソと呟く様に聞こえ、話の内容は意味不明であった。
明らかに人間の会話だったので安堵したものの、この場所を考えると断じて人間ではないと否定もした。
私は「怖いもの見たさ」も手伝い、小銃を水中に沈め銃口を利用して会話が出来るだろうかと思い試みると、数人の話声のような音が聞こえてきた。
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