第4話 夜間訓練(二)
しかし訓練とは有り難いもので、「パニックに陥った時は現状把握」の言葉を実践したら幾分落ち着きを取り戻してきたようである。
とにかく今は重い装備を解き、身体を軽くする事に集中することだ。
私は幾度となく水底に潜り、靴と被服を脱ぐ事に努めた。
この作業中、前回昇任試験の時に試験担当官が出した『口答試験の解答』が閃き対応する事にした。
「問題!君達が『分隊長』で分隊員の指揮をとり、川向こうの敵情を探れと『斥候任務』を受けたとする。
その川幅は50m、水深2m、如何にして敵に察知されず渡河するか応えよ」
受験者は総員70名、5名単位の『団体面接』で受験者の解答は以下の様であった。
『被服を膨らませ浮輪にする』
『流木を使い、筏を作る』
『石を抱え、川底を歩く』
『夜陰にまぎれ行動する』
『流木の下に潜り渡河する』
この様にさまざまな解答が出たが、全て『試験官』の意図するところでなく、痺れをきらした試験官は受験生に尋ねた。
「カービン銃の銃身の長さは幾らか?」
すると受験者の一人が
「38cmです」
と答えると試験官は
「遊底(小銃の部品の名称)を開放し銃口を口にすれば、2m位の水深ならシュノケールとして使えるだろうこれが答だ!いいか覚えておけ!」
私はこの言葉を思い出し遊底を開き、銃口を口に当て不安定ながらも呼吸を確保することができた。
そして次の考えを試みた。
先ず安定した呼吸の確保である。
それには、水面に顔を出すに足りるだけの足場作りが必要である。
方法は「背嚢とズボンを利用すること」を思い出した。
背嚢から偽装網及び下着類を取り出し、壁からすくった土を入れる。
ズボンも裾を縛って土を入れ土嚢を作る。
この二点が浮かび円匙(小型スコップ)で壁面の土を削り取り、土嚢作りに没頭した。
30分程、悪戦苦闘した結果土嚢が完成したので、これを積み重ねる事で足元が安定した。
この土嚢の上に立ち上がり水面上に顔が出せる状態となり気分的に落ち着いたので、次に井戸からの脱出方法について考えた。
即座に思い付いたのは、井戸内部に伸びている草木の根ッ子の利用はどうかと考えたものの、真っ暗な井戸の中、それらしき場所を銃剣でつつき調べたが全て頼れる物も無い状態であった。
いろいろ考えた末、下記の案が浮かんできた。
1 「円匙」を使い、井戸壁を斜上に堀り進み出口を作る。
2 「偽装網」をロープ状にして両端を固定、この上に立ち上がり這出る。
3 「壁面」数か所に足場の穴を掘り、これを利用して出る。
4 「偽装網」の端に重りを付け、外に放り投げ樹木にからめ這い出る。
私はこの作業工程で確実性が高いと考えられるのは「2案」と思い下記の方法で着手した。
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