第150話・気づかないうちにフラグ建設?(2)




 自分の好きな事に没頭できる時間というのはあっという間に過ぎてしまうモノで。

 私は今、楽譜を眼で追いながら楽器を奏でている。

 何度も繰り返し練習している曲だ。

 技巧的には多少の余裕が出来ているので周囲に気を配る事も出来なくはない。


「(それが良き事かどうかは別の問題なんだけどね)」


 チラっと楽譜から目を逸らすと、難しい顔の礼儀作法含めた、所謂淑女教育の先生と微妙な顔のクロイツが視界に映る。


「(先生はともかく、クロイツの表情は何となく納得がいかないんですが!)」


 錬金術や魔法、護身術も含めた戦闘技術の講師はシュティン先生とトーネ先生が担っている。

 他の淑女たるに必要なモノは目の前の妙齢の女性講師が担っているのだ。

 厳格であり、ある一定の貴族には不人気の言われる先生だが、何度も言うけれど私は別に疎んではいない。

 知識の豊富さと経験による出来る所と出来ない所のシビアな線引きは見習わないといけない所だろうとも思ってる。


「(基本的に無表情だから怖がる子供もいそうだけど……どう考えても恐れるべきはシュティン先生の方でしょうに。先生としての評価はどうしてシュティン先生の方が高いんだか)」


 あの人嫌いのシュティン先生は殆ど家庭教師はしていない。

 とは言え、学園の講義を時たま受け持ったり、過去にピンチヒッターとして教える事もあったそうだ。

 だからこそ世間の評価の違い、などと言う事が出来るのだが。

 シュティン先生はマッドサイエンティストの気がある溢れる知的好奇心をあます事なく満たすために手段を選ばないタイプの人種だ。

 友人というストッパーが居なければ今頃何処かに引きこもりとんでもない研究結果を生み出していたか、悪名が世に轟いていた可能性すらある。

 厳格だが、決して受け持った生徒を潰さない女性講師とシュティン先生だとしたら、どう考えても女性講師であるあの人に師事を受けたいと思うんだけどねぇ。


「(やっぱり顔、なのかねぇ?)」


 ある点では何とも分かりやすい世の中である。――『前』もそうだったから、今更だけど。

 と、言う事でシュティン先生に師事を受けている時点で目の前の女性講師なんてただ表情が出にくい人でしかないのである。


「(とはいえ、それは私がたいした叱責も受けず、挫折もせずにここまでこれた御蔭ってのもあるかもしれないけど)」


 『わたし』としての知識と【わたくし】の経験値は馬鹿に出来ない。

 御蔭で私は今まで激しいダメだしを受けた事は無い。

 お行儀のよい優等生だったのだ……そう“だった”のだ。

 そう、だから、これが私にとって初めて感じたの挫折感だった。


「…………」


 一曲が弾き終わり沈黙が部屋を包む。

 厳しい顔で私を見据える先生を無表情で受け止める私。

 欠伸なんぞしているクロイツがこの部屋の中で異質だった。


「……技術は認めましょう。よく練習なさっております」

「有難うございます」

「ですが、貴女の場合、他に問題が御座いますね。……こればかりは私にどうにか出来る問題ではありませんが」

「はい。それも重々承知しております」

「貴女がもし音楽を生業にしたいと思っているならば、私は無理だと言わざるを得ません」


 貴族の子女が音楽を生業にする、と言う事は宮廷楽師になるしか道はほぼ無い。

 家と縁を切り一平民として音楽家となる道はあるが、そこまで大胆な行動に出来る人間はほぼ居ないだろう。

 貴族としての生活を投げ捨ててまで音楽に命をかけるほどの熱量を持つ人間なんてそうそういやしないのだから。


「ですが、幸いにも貴女は宮廷楽師を輩出する御家柄では御座いませんし、その道を望んでもいません。ですから一応合格としておきましょう」

「……ご指導して頂き有難うございます」

「此方こそ力不足で申し訳ございません」

「そんなっ! 先生が悪いわけではございませんから」


 そう、私がギリギリ合格という酷い有様なのは言ってしまえば私自身のせいだ。

 とは言え、分かってても今すぐどうにか出来るモノでもないんだけど。


「(あー前の時といい、今回といい“心”ってのは本当に厄介だ)」


 しかも前回は『前の倫理観』を力業とはいえ、抑え込むという方法で取り敢えず克服する事が出来たからまだマシだ。

 今回はどうすれば良いか考えても解決の糸口すら思いつかない。

 

「(何より問題なのは、この件に関しては克服しようという意欲が異常に低い事なんだよね)」


 無理に克服しなくても良いんじゃない? とか。

 克服できなくても誰も困らないしなぁ、とか。

 そんな気持ちが胸中を占めるのだ。


「楽器に関しては今回で一旦終了致しましょう。ですが、楽器などは直ぐに指が動かなくモノです。練習は欠かさず行って下さい」

「わかりました。本当にご指導していただき有難うございました。今後ともよろしくお願い致します」


 深々と礼をする私に先生は珍しく苦笑して部屋を去っていった。

 残された私は溜息を付くと楽器――ヴァイオリン――を構えた。


 現実逃避的に説明すると、この世界のモノの名称は何処かで見た事があるモノが多い。

 私が今持っているのもヴァイオリンという名前だし、もう一つ嗜みとして習っているのはピアノと言う。

 楽器から離れて言えば野菜なんかは『人参』じゃなくて「キャロット」と呼ばれていたりする。

 つまり『日本語』じゃなくて『英語』で付けられた名称と言えば良いモノが多いのだ。

 此処で和名が出てきたら驚くし、英語なら分かるモノが多いから問題ないけど。

 帝国はともかく、他の小島なんかでは他の名前かもしれないけど、まぁ其処まで広げて調べる必要はないだろう。


 ツラツラとどうでも良い事を振り払うと私はヴァイオリンを構えると再び楽譜と向き合う。

 一度だけ目を閉じ、深呼吸、ゆっくり目を開けるとゆっくり弦を引いた。

 そこからはさっきと同じだ。

 子供でも比較的弾く事が可能な曲の音が部屋一杯に広がる。

 楽譜に目を通しながら、自分が出している音が先程と違う事に内心苦笑するしかない。


「(本当に。まさか、こんな癖まで『引き継ぐ』とは思わなかったよ)」


 『前』でも散々揶揄われた、そうして結局最期まで直らなかった癖。

 それを「わたし」もばっちり引き継いでいた。――世界が異なる同一人物なのだから当たり前と当たり前なのかもしれないけど。

 思う所あれど最後の一音も丁寧に終わらせると再び部屋が沈黙に包まれる。


「オマエさぁ。ある意味器用だよなぁ」


 沈黙をぶった切ったのは今回の唯一の観客であったクロイツだった。

 非常に微妙な顔をしている彼に私も苦笑でもって返す。

 と、言うよりも他にどうしようもないのだ。

 これもある意味無意識でやっている事なのだから。


「そう言われてもねぇ。仕方ないじゃない。――信頼できる人の前でしか音に何の感情も乗らないなんて、直そうと思って直るモノじゃないだから」


 『前世』から引き継いだ私の妙な癖。

 それは信頼できる人(辛うじて信用出来る人)の前以外だと機械が弾いたようにしかならないというモノである。

 

 何を言っているんだと言われそうだけど、実際演奏すると違いが如実に出てしまうのだ。

 技術的な問題じゃない。

 他人の前で弾くとなると楽譜通り、音の強弱やアクセント、色々な注意点を気を付けながら弾いたとしても、何故か無機質な印象を拭えない。

 『前の時』機械に歌を歌わせるソフトがあったけど、あれみたくなるのだ。

 しかも私のおかしな所は、これが常じゃないって事だった。

 信頼する人、最低でも信用する人しかいない場では私の楽器は「音楽」を奏でる。

 弾いている本人ですら違いが分かる。

 ここまであからさまだと逆に業とだと思われそうだけど、全部無意識の産物な所がある意味救えない。


「(『わたし』も友達に散々揶揄われたんだよなぁ、この癖)」


 『前』の時、私が親友や悪友達と出逢ったのは高校生以降だったもんだから、それまで私は只管音楽に向かない娘として扱われていた。

 仕方無いですよね、機械が弾いているみたいに無機質な音しか出せないんだから。――その事に関しては『わたし』も諦めてたし、特に思う所があったわけじゃない、と思っている。


「元々楽器はあまり好きじゃないんだよね。何て言うか、弾くと心の内面をさらけ出しているような? 内心怒って弾けば、音が荒々しく乱暴になって音楽が壊れるし。しかも心の表面じゃなくて、深い所の感情まで拾われそうでさぁ」

「その感覚が良く分かんねーんだよなー、オレには。もしかしてオマエってある意味ではすっげー音楽センスがあるって事なんじゃねーの?」

「どーだか」


 捻くれてる癖に妙に素直な奴だな、とはよく言われた。――あの頃は心を我慢せずにいる事の心地よさを知り始めたばかりの時期だったし、余計あからさまだったってのもあると思うけど。


「本当に妙な癖だよなー。オマエ、妙に顔整ってるせいか、無表情で機械みたいな音だされると、楽器弾く人形みたく見えるぜ?」

「あー。「キースダーリエ」は顔整ってるもんね」

「他人事だな、おい」

「んー。いや、自分の顔だと分かっていても、ねぇ? 時折鏡を見て驚くのは仕方ない事かと」


 私は『わたし』の記憶と【ワタクシ】の記憶が混ざった状態だからこの状態が「わたしだ」だと言う認識はキチンとある。

 ある事はあるんだけど、外見に関してだけは時折凄く、客観的に、他人事のように感じてしまう事があるのだ。


「綺麗な状態を保ったまま成長させないとダメだよね! みたいな考えが一瞬浮かぶのは仕方ないよ。別に乖離している訳じゃないし、時々だからまぁいいかなぁと思ってる」

「……まぁ分からないこともないけどな。“オレ”も余裕があれば考えてただろうからな」

「“フェルシュルグ”も整った顔していたモンね」


 思い切り此方を憎んでいる事とか、最期の嫌味な程の笑みとか気にする事が他にも沢山あるからそういう視点では考えた事は殆どないけど、フェルシュルグの顔立ち自体は整っていた。

 だから彼の心に余裕があれば私みたいな事を考えていても可笑しくないと思う。

 

「ま、意味のないIFって奴だけどね」

「……まーな」


 そこで溜息つかれてもどうしようもないんですけど?


「オマエさ。そのまんまでいーのか?」

「どういう意味?」

「いや、オマエってオジョーサマじゃん。人前でピアノやらヴァイオリンやら弾く機会あるんじゃねーの?」

「あーそういう意味か。んー。どうかな? 確かに貴族教育の必須事項ではあるけど」


 ただ、私の家は代々錬金術師や魔術師を排出してきた御家柄であり、宮廷楽師になった人はいない。

 これでラーズシュタイン家がそういう家だったら、かなりマズイ展開になっていた可能性は否めないけど。


「ラーズシュタイン家の家格を考えれば楽譜が読めて、音楽を見極める耳を持っている事が優先されるんじゃないかな?」


 『ゲーム』ではどうだったかなぁ?

 音楽なんて選択肢は無かった気がするんだけど。


「学園にも音楽の授業なんて無い気がするし。結局、これって教養の範囲だし」

「教養の範囲って。オマエみたいな難ありでも一通り楽器を習わなきゃならねーのかよ。メンドクセェこった」

「難ありって、否定できないけど言い過ぎ。ある程度の教養は無いと貴族とは呼べないからねぇ。才能発掘の側面も無きにしも非ずだと思うし。もし私が難ありじゃなくて才能有りな人だったら、個人的に講師の方をお呼びして個人レッスンになったんじゃないかなぁ?」


 家格によって呼べる本業の方々のランクがありそうだけど……いや、教える側にも選ぶ権利があるから、才能に溢れていれば家格が多少低くとも熱心に教えるかもね。

 最終的に宮廷楽師や何処かの高位の家のお抱え楽師になれば教える側の名声も高まるわけだし。


「そう考えると、この国だと、平民の場合、楽器に触れる機会が殆ど無いから、そういった才能を拾い上げるのは大変だろうけどね」

「妙な言い方すんな? 違う国もあるってことか?」

「あるある。帝国は平民でも宮廷楽師になる道があるらしいよ。音楽や芸術の若手育成に熱心な貴族が多いんだって」


 ディルアマート王国は錬金術や魔術、つまりどちらかと言えば学術の発展が目覚ましい国と言われている。

 一方でアレサンクドリート帝国は音楽を筆頭に芸術などの発展によって花開いた国と言われている。

 少なくとも戦時中を除いて二つの大国の特色ははっきり別れている。

 

「国を挙げて平民だろうと才あるモノを掬い上げているらしいから。だから有名な画家とか著名な音楽家とかの中には元平民も結構いるって話」

「ふーん。喧しそうな国だな」

「そ、その感想もどうかと思うけど」


 クロイツって時々、ドライと言うか、ズレてるというか……これを男の子の感性と言っていいモノやら。

 言い切っちゃうと彼方此方から文句がでそうだけど。

  

「厳格なディルアマート王国と華やかなアレサンクドリート帝国、って覚えておけばいいよ」

「んな事言われなくても大国が二つしかねーんだから簡単には忘れねーよ。にしても芸術を愛する国へねぇ。オマエ、あっちに産まれなくてよかったな」

「本当にね」


 此処まで誰でも分かりやすく違うと帝国に産まれていたら肩身が狭そうだ。

 しかも教養以上に音楽に触れる機会が多そうだし。


「まーそのツラだと、妙な方面に人気が出そうだけどな。ある意味マニアックな取り巻きが出来てたんじゃねーの?」

「絶対にゴメンですけど!?」


 今の友達がいない現状もかなり寂しいけど、そんなマニアックな人に囲まれるなんて絶対ゴメンなんですけど?!


「あせんな、あせんな。流石にそりゃ冗談だ。ま、欠点の一つや二つあった方が人間らしくていーんじゃね?」

「冗談でも想像したくないんだけど? あと、元々が完璧人間みたいな言い方にも突っ込みたいんだけど?」


 むしろ欠点だらけですけど、私?

 まず性格が褒められたモノじゃないからね。

 外見は気を付けてるけど。……外見が整っているのは外交や社交の面で有利に働くしね。


「オマエって自覚あるのか、無いのかわからん時あるよなー。オマエ、はたからみりゃ完璧人間だってのに。猫かぶりが上手過ぎんだろ」

「人聞きの悪い事を。猫被るのは人としての嗜みです」

「そんな恐ろしい子供は普通いねーよ! ってか人類みな腹黒にしてんじゃねーよ!」

「私もアンタも普通じゃないし、社交辞令って言葉があるんだから、人なんて大なり小なり猫かぶりなんてしてる生き物でしょう?」


 『前世の記憶』がある時点で普通なんてまず最初に諦める事柄でしょうに。


「大体、そこら辺の御貴族サマに欠点が分かる程踏み込ませる気は更々ないしね」

「清々しく言い切ったな、オマエ。なー、オマエさー、友達できねーの、そのせいもあるんじゃねーの?」

「うっ……否定出来ない」


 『前』も「今」も共通して私は人との間に壁を作る事をやめられない。

 線引きはしっかりして、その線の内側に入る人間は徹底的に選別する。

 狭い世界に入れるだけの人間を徹底的に護りぬく。

 それは、きっと人に言えば「やり過ぎだ」と咎められるのだろうけど、もうそれが私の性質なのだと諦めるしかない。

 私の性質に呆れながらも受け入れてくれるか、同類しか親友や悪友になれない……私はそういう人間なのだ。

 とは言え、親友まではいかなくとも友人にはなれるはずなんだけど。


「けどさ。別に懐に入って無いから素を見せてないわけじゃないんだけど?」

「そりゃ分かってる。あのセンセーにもそれなりに素を見せてるのも知っているからな。が、弱みになりそうな欠点は見せてねーだろ?」

「弱みになりそうな欠点、ね。多分色々バレテルと思うけど、確かに自分から見せようとは思わないかも」

「だろ? オマエが言う「友達」ってのが「心の内をさらけ出しても一緒に居られる奴」って条件なら、オマエ当分友達なんてできーねと思うぞ」


 「オマエのオニーサマは環境のせいでダチが出来なかったのかもしんねーけど」と言うクロイツの笑顔は大変腹の立つモノでした。

 言っている事が間違ってないと理解出来てしまう所が更に腹立たしい。

 御蔭で理不尽に怒る事も出来ないし言い返す事も出来ない。

 世界が狭く、線引きと選別が厳しい私が今後貴族社会に置いて気の置けない友人が出来るのだろうか? と疑問はずっと心の内に抱いていたモノだった。

 直接的な指摘が時に品がないと言われる貴族社会に置いて、何も気兼ねする事無く心の内を話せる友人が出来るのか?

 そこまではいかなくともお互い利益を与える事が出来る程度の友人でさえ私の現状を考えると厳しいのじゃないだろうか?


「(積極的に社交に出て人となりを確定させるって手も無くは無いけど、現状、殿下達とのこともあって最良の手とは言いづらい気もするんだよねぇ)」


 出なければ噂の悪女伝説が加速して、出れば殿下達の親しい友人、果ては婚約者候補として認識される。

 どっちもお断りしたい所である。


「はぁぁぁ」


 盛大にため息をつきヴァイオリンをケースに収める。

 実はまだヴァイオリンを手に持ってました。

 単にしまう機会を逃しただけの話だけど。


「全般的に否定できないのが心底腹立たしいわ。貴族に生まれた宿命か、元々の性格のせいか……どんな理由にしろ『前』みたいな友人を得る事は諦めた方がよさそうね」

「オレ的にはむしろ性格的にあんまりかわんねーくせによく、そこまで親しい『ダチ』が出来たモンだと思うんだけどな」

「随分な言いざまね。否定出来ない所でもあるけど。けどさぁ、問題無かったんだよねぇ――類友だったし」

「もしかしてもとは思ったが、やっぱりそーきたか。『オマエ』の類友ねぇ。おっそろしいこった」

「失敬な。『皆』普通だったよ。普段はね」


 自分の意にそぐわない事が起これば、傍から見てとんでもない方法で解決したり、自分の望む方向に方向転換させる強引さを持っていた親友達だったけど、別に年がら年中奇行祭りだったわけじゃない。

 反社会勢力に憧れるわけもなく、アウトローを『はいはい、十年後の黒歴史』とか言っちゃうような可愛くない集団だったけど、知人程度の付き合いの人からみれば『わたし達』は優等生の集団だった。――皆、多少こだわりが強いだけで優秀だと思われていたんだから。


「(何だかんだで優秀だと多少の奇行もお目こぼしがあるんだよねぇ)――自分からもめごとを起こす事も無く、無駄に大人に反抗するような子供でも無かった。……ね? 優等生の集団でしょう?」

「裏を知らなきゃそれですむかもしんねーけどよー。それって擬態の上手い類友の集まりだったってわけだろ? 『前』の時知り合いじゃなくてほんとーに良かったぜ」

「うーん。それはどうだろうね?」


 フェルシュルグとクロイツという形でしか付き合いはないけど、何となく案外あっさり適応しそうな気もするけど。

 私のそんな心境が分かったのだろう、クロイツに呆れられてしまった。


「あーのーなー。それこそ『オレ』は普通の奴だったっての」

「うーん。まぁ直感みたいなモノだから『本人』がそういうならそうなのかもしれないけどさ。……ま、アンタの言っている事が嘘か本当が知る日は永遠に来ないんだけどね」

「『オマエ達』が本当に普通だったのかもな」


 苦笑する私に溜息をつくクロイツ。

 今は「私達」しかいないからこんな話も出来るし、多分これは贅沢な事なのだと分かってはいる。

 醸し出される気軽さと雰囲気は『前』の記憶を話す事が出来るからこその連帯感が作り出したモノなのだろう。

 水無月灯さんが欲しかったモノはもしかしたら、こんなありきたりの時間だったのかもしれない。

 それを知る機会もまた、永久に来ないけれど。


「話は戻すけど、結局友人なんて縁と相性なんだから、どうしようもないと思ってるよ? 時々無性に悲しいだけで」

「割り切ってるようで割り切ってない気がすんだが。ま、オマエの性格じゃ当分無理だから諦めろや」

「あのねぇ。そこは慰める所だと思うんだけど!?」


 全く、使い魔にあるまじきドライな反応ですこと。……それでこそクロイツ、なんだけどね。

 私は内心変わらない事に少しの安堵を抱きつつケースとクロイツを抱えると練習室を後にした。






 別にフラグを立てているつもりは全くなかったんだけど、どうやらこの会話はフラグと化し、後日無事回収される事となるのであった。

 どの話がフラグとなり回収されたのか……それは今後のお楽しみと言う事で。

 ――そうでも言っとかないとやってられないだけなんだけどね。 



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