第129話・次、彼女と会う時俺はどんな言葉をかけるべきだろうか?(2)
それからも小さな分岐点があり俺は取りあえず問題ない道をえらべていると思う。
座学だけではなく実技として剣を学ぶこともできたしな。
おかげで母上の息がかかっていない知人もつくることができた。
友人は……これからだ。
母上とは年々きょりがあいている気がするが、母上の考え方が変わらない限り歩みよることは無理だろう。
そんな俺の大きな二つ目の分岐点はきっとあの時「庭に出る」という行動にでたことだと思ってる。
年ごろの子供を集めた大規模なパーティーは名目は俺のしゅさいだったが、実際は母上の采配だった。
これに関しては年がこうりょされ問題はない。
が、俺はあまりパーティーの参加に乗り気ではなかった。
母上のさいはいということは母上の望みの招待客であふれていることだろう。
彼女も当然参加しているはずだし、俺に取り立てられたいと人があふれかえるのが開始前から分かっていた。
現時点で俺が次期国王だと言われていることは事実であり、その才覚がありながら兄上はあっさりとその地位を手放したのだからほぼ決まりと思われているのだろう。
兄上が継承権まで手放していないのは単に俺と兄上以外王族の子供がいないためだ。
王妃としての母上の強固な後押しもあって次期国王はほぼ俺ということになっている。
おかげで次期国王の側近の地位がほしいやつや父上や母上にすりよりたいやつらが俺の周りには大勢はりついているのが常だった。
正直に言えば彼女が一番強烈なせいで公式の場に出ることはあまり好きではなかった。
だから俺は彼女をまき庭に出たのだ。
そこで出会ったのがキースダーリエ嬢だった。
自身の使い魔と何やら話しているキースダーリエ嬢はどこか疲れている気がした。
だから声を掛けたのだが、まさかこれが交流する切っ掛けになるとは思ってもみなかった。
俺は彼女の言動にふりまわされて自身の常識が揺らいでいることに気づくことが出来た。
ある意味で母上のおもわくにはまっていたのかもしれない。
いや、母上のひごにより増長した彼女が暴走しただけかもしれないが。
キースダーリエ嬢によってようやく自身の色々なモノがゆらいでいることにきづくことが出来た。
その時のキースダーリエ嬢の対応が面白かったというのも俺がキースダーリエ嬢と交流をもとうと思った理由の一つだった。
キースダーリエ嬢もその兄のアールホルン殿も面白い人だった。
俺や兄上がいる王族というモノに対してかじょうな反応をすることもなく、むしろキースダーリエ嬢なんかは俺たちには近づきたくはないというたいどが見えるほどだ。
そういった対応は新鮮だった。
二人の親である宰相は俺や兄上を必要とならないかぎり「普通の子供」として接する。
公私は分けているが俺たちをなんのためらいもなく子供扱いしてくる人間は少ない。
父上のことが怖いのか今以上の地位がほしいのか、理由はそれぞれだが、俺等に擦り寄ってくる存在は多い。
多分俺が性質の悪いイタズラをしかけても大半のやつは笑って終わりか、場合によっては俺等をたたえるていどのことはしそうだ。
俺や兄上が帝王学を学んでいなかったらとんだ悪ガキになるだろうに、本当の意味で俺等を思ってないのが丸わかりだな、呆れるしかない。
特に母上の取り巻きに多いのは笑えば良いのか悲しめばよいのか迷うところだな。
対等に近い関係は俺にとってもめずらしいと言える。
さらにキースダーリエ嬢は兄上と同じ【闇の愛し子】なのだ。
母上、というよりも母上の父君、俺にとっては祖父にあたる人間が【闇の女神】をひどくうとんでいて、それがうつり今【闇の愛し子】である兄上に対しての風当たりがきつかった。
創造神である【闇の女神】を軽んじるなんて俺にとっては考えられないが、あれでいて祖父殿は影響力が強いらしく王城は【闇の女神】を軽んじるふうちょうになりつつある。
多分、母上がなんら反論することなく祖父殿の言葉に従っているために広がりをくいとめることがむずかしいのではないかと思う。
なぜか母上はなんの疑問も反論することなく祖父殿の言う事に従っている。
心からしたっているようには俺には思えないが、きょぜつする姿もみたことがない。
俺から見ても祖父殿はすばらしい人とはとても思えないので余計に母上がしたがう理由がいまいちわからなかった。
だが母上が全てを肯定することはなくとも否定しないことで軽んじる空気が助長されたのは事実だった。
今の王城では【闇の愛し子】である兄上はもちろんのことキースダーリエ嬢も決してすごしやすい場所とは言えなかった。
キースダーリエ嬢は王城の空気に気づいていた。
それでも俺等との交流を途絶えさせることはなかったのは少しは俺たちを好んでくれているからだと思いたい。
思わずそんなことを考えてしまうていどにはキースダーリエ嬢は俺たちときょりを取ろうとしていたからな。
正直に言ってキースダーリエ嬢は変わったやつだった。
貴族としての教育を受けているのは事実だろう。
それを忠実に守ることも出来るようだ。
だが自分の中にある信念? プライド? そういったモノをつらぬくためならばあっさりとそう言った貴族がよしとしていることをほうきする。
王族が見ていようがその言動にブレがない。
心に素直に生きている、というよりもゆずれないモノのためならば我が身をそこなうことすら良しとする気質と言えばいいのか。
俺も王族にしては自由に生きていると思われているが、キースダーリエ嬢は俺以上に自由だと思う。
これがおさないがゆえに見逃さているのならば、彼女もいつか貴族女性らしくなってしまうということなんだろうか?
それは少しばかり惜しいと思った。
俺はそんなキースダーリエ嬢が貫いた信念によって自分の身も兄上も救われたのだから。
昼間の王城でのしゅうげき事件。
本来ならあってはいけない事件だった。
俺等がゴエイを連れていないスキを狙われた。
内通者がいることは俺でも分かった。
その内通者が「だれ」であるかもなんとなく分かった
俺はその時キースダーリエ嬢とアールホルン殿を巻き込んでしまったと思いざいあくかんにかられた。
それ以上にこんなことをしでかした相手に強い怒りをかんじてもいた。
それも兄上がとびだし、その後すぐキースダーリエ嬢が結界をとびだしたことで一時的に吹き飛んでしまったが。
俺がいうことではないが二人ともまだ子供と言えるのだ。
俺自身にもあてはまることだが、俺たちの年で人と敵対し命のやりとりをすることは殆ど無い。
王族や貴族となればカチクやマモノなどを見ることすらない人間が多い。
俺の覚悟がまだ甘いモノなのだと突き付けられたのはキースダーリエ嬢と兄上が相手を殺した時だった。
殺す気できている相手をかえりうちにしたことをとがめるつもりはない。
ただ俺は結界内にいれば助けがくると思っていたがために兄上たちがよごさなくとも良い手を俺達のためによごしたことにしょうげきを受けた。
結界の強度に関しては「隠蔽が効いてなきゃ今頃破壊されてるっての」というキースダーリエ嬢の使い魔に言われ、あまり楽観視はできないのだと分かったわけだが。
相手をかくじつに殺していく兄上とキースダーリエ嬢を俺はただ結界内からみていることしかできなかった。
加勢しようと出ようとすればアールホルン殿に止められる。
一度「妹が心配じゃないのか!」と怒鳴ろうとしたがアールホルン殿は俺からみても分かる程真っ青な顔で利き手ではないであろう手をきつく握っていた。
あれでは手にきずがついていることだろう。
だがアールホルン殿もまた飛び出したい気持ちをもち、それを必死にくいとめていることに気づかされた。
心配していないわけがないのだ。
彼が妹を見ている目にはたしかにやさしさがこもっていたのだから。
何より使い魔殿は俺が結界内から出ようとすればかみついてでも止めただろう。
あせる俺を冷ややかな目でみていたから多分間違いないだろう。
「(使い魔らしかぬいあつかんを感じたが【契約】をしている使い魔とは皆、あんな風なのだろうか?)」
結局俺は助けが来るまで結界内で守られていることしか出来なかった。
だがその時キースダーリエ嬢の「強さ」をまのあたりにし、純粋にあこがれも感じた。
同い年のしかも女の子だと分かっているが、それでもあの貫き通した「強さ」は俺にも必要なモノなのではないかと思うのだ。
俺は将来国王になるのだろう。
母上のことを抜きにしても兄上が王になる気持ちが無い以上俺がなる可能性が高い。
王となった俺は様々なことを決断し時には意見を押し通すことが必要となるだろう。
そんな時自らの中にブレない柱のようなモノを持っていなければあっという間に食い散らかされるのではないだろうか?
臣下の礼をとりながら心の中で何を考えているかわからない者など貴族の中には山ほどいる。
そんな奴等を跳ねのける強さが王には必要なのだろう。
貫きすぎればボウクンとなるためにさじ加減は必要なんだろうが。
俺はそんな貫き通したキースダーリエ嬢の「強さ」が貴族というモノよって消えてしまうことを惜しいと思う。
……キースダーリエ嬢ならば大人になったとしてもそういったところは変わらない気もするんだがな。
出来れば変わらない強さを持つキースダーリエ嬢との交流を途絶えさせたくはない、そう思った。
婚姻関係などは望まない。
だが友人関係は続いてほしい。
これは俺のワガママだ。
キースダーリエ嬢たちも少しでもこの交流が惜しいのだと思って欲しかった。
これも俺のワガママでしかない。
王族として言ってしまえばキースダーリエ嬢たちの意志を無視するために口に出しては言えないこと、だがな。
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