第80話・束の間の休息を王都で
ディルアマート王国
ツェントゥール大陸においてアレサンクドリート帝国と国土を二分する二大大国の片割れである。
小国や自治権を持っている地域は他にも細々と存在はしているし過去にはもっと多くの国が存在し、大陸の覇権を争ったとかそういった記述が歴史書に残っている。
けど、現在はディルアマート王国とアレサンクドリート帝国がそれぞれの領土を治め、戦争などここ最近起こっていない。
まぁ大陸を二分する大国が戦争なんて始めてたら両国共倒れで大陸全体が滅ぶ気がするけどね。
帝国とは普通に交流もあるし、行き来も出来る。
不穏な気配も無いし、今後「大陸を統べる唯一の者となる」なんて妄言を吐く存在が王位につかない限り早々に戦争も起こらないと思う。
後はどっちかの国が腐敗しきりどうにもならなくなった場合、とかね?
どっちにしろ今この大陸は平和と言っていいと思う。
大陸外とも貿易している所、この大陸以外にも陸か島は存在しているようだ。
ただ大陸の外に広がる大海原に航海に出るのは相当リスキーであり一攫千金の夢見人が時折存在するかもしれないって程度だと思う。
結局、殆どの人はこの大陸内で生きて死んでいくって事。
海外旅行気分で大陸の外に出る日が来るのは何時の日か……こないかもしれないね?
あ、ちなみにこの世界は“エーデルフィルド”と呼ばれている。
正直、そんな所を気にするのは私みたいに前世がある人くらいだろうけど。
それか地球みたいに他の惑星の存在を認知している世界か。
この世界はそんな話聞かないし、私みたいに前世の記憶を持つ存在なんて黒いのくらいしかいないから、誰もがこの世界の名を気にしたりはしない。
歴史書の最初に名前が載っているだけで、覚えてない人もいるかもしれないレベルだ。
覚えているなら「よく覚えているなぁ」と言われるレベルの知識はともかくとして。
ディルアマート王国の現国王様にはご子息がお二人いらっしゃる。
長兄は側室で母親は確か御隠れになっているはず。
地位もそんなに高くはなかったとか?
故に王位継承権は長子でありながら弟の次だったはず。
そんな感じで時期国王と噂されている次兄が現正妃様の御子息であり、今回私に招待状を送ったパーティーの主催者なのである。
「名前は確か……ロアベーツィア。ロアベーツィア=ケニーヒ=ディルアマートだったかな?」
「お前、次期国王の名前がうろ覚えって、いいのかよ」
「どうせ殿下とかしか呼ばないからいいんだって」
此処は王都・ラーズシュタイン家の邸宅。
私は黒いのと話しながらまったりとお茶をしていた。
普段お父様は此処を拠点して王城で働いている。
まぁ宰相だから当たり前とは言えば当たり前なんだけど、お父様って結構自分の領地に帰ってきている気がするんだけど。
魔法で行き来しているのか魔道具で行き来しているのか知らないけど、宰相が頻繁に自分の領地に戻っていいもんなのか、結構謎である。
今まで問題は起こって無いからいいと言えば良いのかもしれないけど。
ついでに言えば私がこの年、というか時期? まで領地に居るのも珍しいと言えば珍しい。
普通は【属性検査】を終えると早々に王都に出てくる。
人脈作りの側面もあるし、王都の方が色々なモノを確保しやすいってのもあるしね?
特に貴族令嬢は幼少期から婚姻の相手を決める事もあって結婚までの大半を王都で過ごす人も珍しくはない。
私なんかは王都よりも領地の自分の屋敷の方が好きなんだけど、本来は行き遅れの要因の一つになるって感じであんま好まれないらしい。
まぁ公爵令嬢って肩書だけで引く手あまたかもしれないけど。……仕方ないとはいえ微妙な気分にならなくもない。
「(肩書に惹かれた男と婚姻を結ぶ事に抵抗がない訳じゃないけど……全部ひっくるめて私だから完全に引き離す事も無理だしねぇ)」
よくある「肩書じゃない自分を見てくれた」って現実では有り得ない気がする。
まぁ『親友』は同意してくれたけど、他のそこそこの付き合いの人達には猛反発くらった意見な訳だけど。
いや、物語として面白くないと思った訳じゃないんだけどね。
ただ現実では肩書を完全に引き離して考えるのは難しいと思うんだけど、って話なだけで。
だってさぁ、人はそれぞれ育った環境がある訳で。
その環境ってのは肩書に直結する気がするんだけど。
私で言えば「公爵令嬢」だから今の生活がある訳でしょ?
生活環境によって性格がある程度定義付けられるなら肩書と本人を完全に引き離すって難しくね? と思うんだよねぇ。
お金持ちがお金に目が眩んだんじゃないって理由で相手を好きになった、とかならまだ分からなくもないけど、ね。
そりゃ肩書だけを見て本人を付属しているおまけみたいに考えてる人間は流石に私も勘弁だけど。
……いないと言えないのが悲しい現実です。
私は【検査】の後も領地に留まって其処で教育を受けたけど、それはある意味で仕方ない部分もある。
あれだけの騒動があって寝込んだ事実がある子供をすぐに王都に連れてくるなんて普通ならしない。
そんな事したら権威に執着していると邪推される要因にすらなり得るから。
娘の意志とか健康とか完全無視で自分の家にとって利のある婚姻を結ぼうと強行しているようにしか見えないらしいよ?
その上派閥内部であれだけのイザコザがあったもんだから、私が領地に引きこもっても実はさほど注視されない。
ただ噂が先行してえらい事になってはいるけど。
家に対する良くない噂が立つ事はないから問題ないと言えば問題ない。
私に対する色々な噂はこれから払拭していく予定らしいし。
今回はその第一歩かな?
「ただ、私が社交界に顔だしても噂は払拭されないと思うんだけどねぇ」
「余計酷くなるかもな」
「否定できないけど、煩いよ黒にゃんこ」
「黒豹だっての!」
「現状、何処をどう見てもにゃんこじゃん」
「仕方ねぇだろ。ナリが小さいのは魔力の消費を抑えているのもあんだからよ」
不満ですと全面に押し出している黒いのに私は肩を竦めた。
現在ギブアンドテイク的に最低限の魔力を提供する代わりに何か頼み事をする事が出来る、程度の契約ともいえない契約を結んでいる私と黒いの。
だからか黒いのは魔法やらスキルやらを咄嗟に使う事は出来ない。
いや、出来ない訳じゃないけど、あまりに魔力消費が酷いと強制的に休眠状態、つまり眠りについてしまうか、最悪消滅してしまう。
自己防衛的にもスキルとかを使ったりはしないようにしている。
ここらへんは正式な【契約】を結んでいる訳じゃないから出ている弊害みたいなモノだった。
あと、スキルや魔法に関してだけど“フェルシュルグ時代”のスキルを使用する事は出来ると黒いのは言っている。
実際魔力を提供して試してみた事があるからそれは事実だ。
スキルは問題無く発動したし、きっと魔法も使う事が出来ると思う。
まぁ黒いのは魔法を修練した事が無いから現時点では使えないんだけどね。
「勉強してみる?」って聞いたんだけど「敵になるかもしれねぇ存在に強くなる方法をすすめんじゃねーよ」と怒られてしまった。
『前』の時には敵に塩を送るって言葉があった気がするんだけどねぇ。
使い方微妙に違うけど。
ってな感じで現在も黒いのは魔法を使えない。
後、普段咄嗟にスキルを使うような非常事態が起こってもいいように省エネモードになってる。
つまり今の子猫姿はその結果って事なのである。
けどまぁ産まれたばっかりだし、ある意味自然の摂理に沿った姿なんじゃないかと思うけどね?
「……考えてみればアンタも不思議な産まれ方よねぇ。多分普通の使い魔の誕生の仕方とは違いみたいだし」
黒いのがラーズシュタイン家に来てから、一応黒いのみたいな状況で誕生する魔獣がいるのか文献を調べてみた。
結果、少なくとも私の探す事の出来る範囲には同じ例を見つける事は出来なかった。
これ以上は錬金術師としてせめて一人前になるか、シュティン先生にそれとなく聞いてみるか、学園に入るまでまって学園の図書館で探してみるか。
どれもこれもすぐに行動に出る事が出来る方法ではない事は確かだった。
お父様の所有している文献を漁るって方法も無くもないけど、私が見て危険な事になる文献は手に取るどころか認識する事も出来ないだろう。
それに、そういった上級スキルが必要となるレベルか、最悪禁書レベルでしか前例がないのなら、それはそれで問題あると思わざるを得ない。
黒いのという存在はどんだけ稀有で、それゆえに狙われるか分からないと言う事になってしまう。
この世界には意に沿わない言動を取らせるスキルなどが存在しない訳じゃないのだから。
「(お父様が何も言ってこない所、そういった危険生物ではないと思うんだけどね)」
お父様はそういった意味では真っ当な……どちらかと言えば親馬鹿タイプな親だから間違っていないだろうと思う。
結局、黒いのに関しては何も分かってない状態である。
そうして黒いの本人も分かっていないと何とも悲しいオチ付きでもあったりする。
「妙なモンが核になってるみてーだしな」
「妙なモノって。“フェルシュルグ”がもってたモノでしょーが」
「……まぁそうなんだがな」
何とも歯切れの悪い言葉を不思議に思いつつ、話題を変える。
所詮、世間話の域を出ないのだ、この話題は。
何時か、黒いのが私と【契約】をしたら、知る事が出来るかもしれない。
それでも無理だったり、契約しなかったりとかで一生知る事は無いかもしれない。
どっちにしろ、分かるのは黒いのがココにいるって事だけだ。
そして私にとってはそれで充分だったりする。
必要となれば調べるし、考える。
けれど、現時点では黒いのと私は契約している訳でもないし、こうして特に裏も無く普通に世間話をしている。
それ以上の何が必要なのだと言うのか?
「(必要ないんだよねぇ……私的には)」
これ以上は何かあったら考えれば良い。
ある意味で楽観的な結論を出しつつ私は黒いのとの世間話に意識を戻して行くのであった。
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