第79話・失敗を重ねても問題は解決せず
今日も今日とて失敗作……まさにこれぞ廃棄物!
いやまぁ産業じゃないから産廃ではないけど。
目の前にある真っ黒な物体をじっと見つめるけど、魔法じゃあるまいし、当然見てるだけでそれが変わる事は無い。
この世界では魔法ありますけどね? 私も魔法使えますけどね?
錬金レベルでも上がればこの廃棄物でも何かに利用できるのかもしれないけど、私じゃ此処から元に戻すだの、別のモノに変化させるだのは力量的に無理。
結局後で処分するために一か所にまとめておく事しか出来ない。
「山となる廃棄物。見ていると心が痛くなる」
それだけ材料を無駄にしているって事だもんね、これ。
自力で【採取】もしてない身分で材料を使ってるくせに結果がこれって……。
ん? 身分的にはふんぞり返って材料を使用人とかに取りに行かせるのが正解かな?
いやいや、錬金術師が自力で材料を集めないでどうするんだって話だよね。
というか錬金術のスキルを持っている人間は大抵研究者気質な気がする。
だからまぁ、幾ら身分があっても研究のために【採取】に出るくらいしそうな気がする。
反面、引きこもってもいいなら永遠に引きこもりそうな気もするけど。
それとも本なんて見たら一秒で寝る! って人でも錬金術のスキルもってるもんなのかな?
正直、それって宝の持ち腐れな気がする。
だって錬金術って基本的に研究職っぽいし、先人の知識を身に付けつつ新たな道を模索するって感じだから。
本から知識を得る行為を無駄と思う人にはなれないだろうし、そんな人に錬金術のスキルがあったら……むしろどうやって活用するのか見てみたい気がする。
「(そんな人今後会えるとも思えないけど)」
仮に学園に行ける歳になったとしても、学園内で出会えるとは思えない。
錬金科は研究者気質の人間の集まりらしいし。
ただ、宝の持ち腐れは批判も買うとは思う。
だってそのスキルに焦がれる人間はどうしたっているんだから。
「(ま、そう言う意味では私の持っている【精霊眼】とか、其処までじゃなくても色々なスキルも同じ扱いなのかもしれないけど)」
それらは持っているだけで一種の“才能”とも言える。
身に着けたスキルも生まれ持ったスキルも等しく与えられた“才能”って事で自分がさして興味のないスキルだろうと磨く事を忘れない、ってのが一番角が立たないんじゃないかな?
思いもよらない所で役に立つかもしれないし。
今の所私にとって必要のないスキルは習得してないけどね。
現実逃避的にどうでも良い事を考えなら見て居ても廃棄物は減らないし、何か別のモノに変化する事も無い。
むしろ見て居るだけで現実を突きつけられている気分になる。
これだけの量を作り出してしまう事を考えれば頭が痛い問題である。
しかも、これどうにかしようとすればどうにか出来るかもしれない事が原因でなってる訳だし。
「分量は適量。魔力も上々。疲労も無し。それでも失敗するんだから、本当に【錬金術】は繊細なモンだよねぇ」
「他人事か。ってか、其処まで状況が整ってんのに失敗するもんなのか?」
「実際失敗しているからこうなっているのでは?」
「……それもそーだな」
「そこ納得しないで」
後ろから聞こえる黒いのとリアの会話に思わず突っ込んでしまう。
此処は工房の中。
現在私の他にはリアと黒いのがいたりいます。
リアは私のお世話で黒いのは何時ものお昼寝か別の理由か分かんないけど、何時も通りいつの間にか居たりする。
こんな光景も最近見慣れたものになっている。
……それだけ黒いのがこの家に馴染んできているって事なんだろうけどね。
「実際問題、心持ち一つで此処まで結果が変わるもんなんだな」
「まぁね。とは言え、私も此処まで影響されるとは思ってなかったけど」
私はあれから自分に合った武器を【錬成】している。
気持ちの問題は重要だし、どうにかしないといけないんだけど、それは取りあえず置いといて私のレベルで武器が【錬成】できるのか試したのだ。
結果としては、汎用性の高い初心者用の武器は結構あっさり成功した。
ナイフとかは失敗しない程度の力量はあるみたいだし、初心者用の武器ならば一応問題はないレベルだった。
私が普段使っているのは短剣とレイピア風の細見の剣、後中距離用にボーガンとかを修練している。
長距離は魔法って事になるから、その内「杖」も自作する必要がありそうだけど、あれこそもっとレベルを上げないと手に馴染むモノを作り出す事は出来ない。
という事で私は当面メイン武器になりそうな「剣」を作り出す事に焦点を絞った。
ナイフとかは隠し武器と言うか、持っていれば便利だけどメインにする事は無い武器だしね。
ちなみに錬成したナイフは数本リアに渡しました。
いや、私が押し付けたんんじゃなくてリアが欲しがったからだからね?
と言うかリアの戦闘スキルって結構なモノだし、どう考えても現時点では私よりも強い。
それに、多分実践も経験してる感じがする。
リアの過去にはこだわらないけど、その歳で其処まで力量を得たのだとしたら、相当過酷な生を生きて来たんだと思う。
そんなリアが此処で笑えているならば私はとても嬉しいと思う。
――けど、ナイフを持って輝かしい笑顔は辞めよう?
ちょっと怖いからさ。
もっとレベルが上がってマシなモノが出来るようになったらリアの欲しいだけナイフを作ってあげるのもいいかもね。……ただし、あの笑顔は心に刺さるから勘弁してほしいけど。
と、そんな感じでナイフやら誰でも作れる剣をつくりだした所までは良かったんだけど、それ以降が問題だった。
何と言うか、自分専用の武器と強く意識すると、失敗するようになった、と言う表現が一番近いと思う。
誰でも作れる武器ならば問題無いのに、同じモノを「私が使うため」にと意識するとうまく行かない。
魔力の通りが鈍くなったり、意味不明な爆発を起こしたり、結果は様々だけど、最終的には目の前のような廃棄物になってしまう。
じゃあ誰でも作れる武器は出来ないのか? ってなると意識を切り替えるだけで何の問題も無く成功する。
けど、出来上がったモノは私の手に馴染む事は無い。
そこらへんのモノと同じ感覚しか受けない。
まさか心持ち一つで此処まで変わるとは思わなかった。
錬金術は繊細な代物だと改めて実感させられた気分だった。
修練に置いてこの無意識は私に枷をかしている。
けれど実は錬金術においてまで影響を齎していたらしい。
……自分の無意識だから仕方ないけど、結構ムカつくなぁ、この状況。
理性では理解しているのに、本能が勝手に枷を嵌めている。
私はケダモノか? と言いたくなる所業だ。
錬金術を渇望しているのは私なのに、私自身が邪魔しているなんて笑えない。……其処まで分かっていてもどうしようも出来ない所が更に笑えない。
無意識下だろうと完璧にコントロールしてやる! と言いたい所なんだけど、今すぐに、とはいかないのも事実だし。
取り敢えず、手ごたえみたいのはあるから複数回熟すことで出来上がりを気にしなければ私専用の武器も作れそうではある。
到底課題をクリアできる出来栄えじゃないから先生に提出する気は無いけど、身を護るためにもっていてもいいかなってレベルだけどね。
「(こりゃ平行して守護に特化した付加錬金したモノでも持った方が良いかもしれない)」
お兄様に上げたようなモノを一応作っておかないと。
こうなると、自分で【採取】に行きたいと思ってしまう。
廃棄物を作り出している事もだけど、必要な時に自分の必要な分だけ取りに行きたい。
別に何を作っているか、バレても現時点で問題はないけど、一々手を煩わせるのがスッゴイ悪い気がする。
変な所でストレスが溜まりそうだ。
「(そういう意味では私自身も貴族の感性じゃなくて平民の感性よりなのかもしれないなぁ)」
最近ようやく自室の高価な家具に戦かなくなったくらいだし。
……人間って慣れる生き者なんだなぁとシミジミに思ったり?
「結局、武器創り出す前にテメェ自身の事をどうにかしろって事なんじゃね?」
「ズバッと言うねぇ。簡単に「はい、そうですね」で変える事が出来たら、こんな課題出てないって」
本来ならもう少し後になってから出されるレベルの課題だよ、これ。
自力で【採取】に出る事を許されるレベルを有さない限り、武器は必要にならない。
だから多分、師匠や先生と言った指導する側から「コイツは初心者レベルなら自力である程度【錬成】出来る」って思われないと【採取】には行かせてもらえないし、武器も必要はない。
貴族ならなおの事だ。
だって貴族とは幼い頃はパーティーなど以外は領地から出ないモノなのだから。
出たとしても王都に行く場合か、繋がりのある家に行くときくらいで、護衛もつく。
つまり貴族自身が武器を手に取り振るう事なんて普通は有り得ない……とされている。
まぁ何事にも闇はあるんだから、身を護るために武器をふるい自身を守る術を得なければいけないんだけどね。
誰だって闇から闇へ葬られたくはないでしょ?
先生方が前倒しして克服しろと言わんばかりに課題を出したのは、ここら辺の事情も絡んでいると思う。
ラーズシュタイン家に置いての弱点は「私」だろうから。
ただでさえ弱い私が弱点をもっているなんて格好の的にしかならない。
私が指導する側でも克服させたいと考えると思う。
「(ってな訳で克服しないといけない事は理解しているんだけど、それで克服できたら鬱直前まで行ってないって話なんですけどねぇ)」
本当に無意識ってのは厄介だ。
刷り込まれた『倫理観』が此処まで邪魔するとは思わなかった。
意識で支配出来る部分は支配出来ているからこそ、無意識下の部分が強固に枷をかけてしまっている。
それすらも支配下に置くのは自身の事ながらかなり困難だ。
「(これもある意味で頑固って事なのかな?)」
そんなどうでも良い事まで考えてしまう程度にはお手上げ状態だった。
欠点は自覚しているし時間をかければ克服する事も不可能じゃない、と思う。
ただそんな時間が無いというのが一番の問題な訳で。
地味に焦っている状況だったりする。
「応急処置的に【守護】の付加錬金を施した装具を【錬成】しとくつもりだけど」
「『焼石に水』だな」
「分かってる。けど時間はあんま無いから」
今日だってこれから礼儀作法の講義の時間が入っている。
こればっかりにかまけている訳にもいかないのだ。
焦りが早急な結果を求めて、色々な事が疎かになって失敗する。
失敗するから更に焦る。
完璧に悪循環陥っていた。
何処かで断ち切る事が必要だけど、現状切欠を欠片もつかめていない事が一番の問題なのかもしれない。
「……そういや、最近礼儀作法の時間長くなってね?」
私自身が歯がゆく思っている事に気づいたのか、黒いのが話題を変えて来た。
現状、どうしようもないからその気づかいは素直に嬉しかった。
ただ、実はその話題あんまり外れてないんだよねぇ、残念な事に。
「うん、まぁ仕方ないんだよね。――引き延ばせなくなっちゃったからさぁ」
「何をだ?」
「私のお披露目に近いモノかな? ……身内以外主催のパーティーに参加する事が決まったの」
ついにきたと言えば良いのか、ようやくと言えば良いのか。
今までなんやかんやで出なくても問題無かったけど、そろそろ噂話やらなんやらで私のイメージがおかしな事になっているらしい。
いやまぁ仕方ないけど。
数多流れた噂から私を明確にイメージできたら、それ『千里眼』やら『エスパー』だしね。
【属性検査】の時の出来事から始まった一連の騒動のお陰で私を自分の主催するパーティーに呼びたいと考える貴族は居なかった。
派閥に所属している訳ではない存在があの一連の騒動の事を何処まで知っているかは分からないけど、ラーズシュタインをトップとする派閥がある意味で問題だらけなのは貴族では広く知られている所らしい。
それでもお父様が宰相の地位に居るのはその高い能力故である。
しかも今回の事でお父様は派閥内をある程度選別をかける事が出来た。
ついでに見せしめ的にある程度地位のある一家を没落寸前まで追い込んだ。
現在没落こそしていないけど、前と同様の生活は決して送れないし、同じ所までのしあがる事はそうそうに出来やしない。
実行犯が死に無関係を装ったとしても逃れられる訳がない事に結局気づかなかった。
今、あの家を見る事でラーズシュタイン家の派閥内部は色々騒がしいらしい。
ま、当たり前だよねぇ。
一部にとっては明日の我が身だろうし。
本来の意味でお父様と志を共にしている面々にして見ればようやくすっきりしたって所じゃないかなぁ。
どうしてお父様が此処まで放置して置いたかは分からないけど、今回の事は不幸中の幸いだったようだ。
と言う事で派閥内部は問題ないって言えば問題無いんだけど、外部はそうはいかない。
自称婚約者君が色々広めた事もあってか私の印象はブレブレの上、あまりよくない方向に固まっている。
本人が出てこない以上仕方ないとは言え、私はお兄様から噂を聞いた時爆笑したかったし、自室で一人になった時実際爆笑した。
あ、あの時はいつの間にか黒いのが居て黒いのも爆笑してたっけ……猫の爆笑って珍しいモノを見たよね、本当に。
そんな私にとって笑いの種だった訳だけど、お兄様の前で笑えなかったのは、お兄様とリアが怖かったからだったりする。
うん、何か黒いモノが出ていたよ、二人とも。
お兄様やリアも大概私の事好きですよね……私もお兄様とリアが大好きですが。
とまぁ噂の印象だと悪い方向に固まりつつある私を呼ぼうと考える奇特な人は中々現れなかった。
私もそれを悲観する事無く、むしろ嬉々として時間を他の事に回していた。
多分私に『前世』が無かったら、教育が大分遅れて大変な事になっていたと思うけど、そこはまぁ、私が私だからの今なんだし考えて仕方ない事かな?
「今だから言える事だけど、絡まれたりして面倒だったとはいえ、御蔭で自由に錬金術を勉強出来ていたんだけどねぇ」
「……その程度の認識かよ」
「ん?」
「お前さぁ。ちゃんと覚えてるか? アイツ等の事」
「んー。……マリナートラヒェツェ家のタンゲツェッテでしょ?」
「顔は?」
「かおぉ?」
いきなりの質問に私は面食らう。
当然名前は覚えているよ。
後大体の特徴は。
「茶髪に水色の眸でしょ?」
「そんだけか?」
「えー……顔立ちは整っていたんじゃない?」
詳しくと言われると微妙なんだけど。
特徴掴んでいて、今後会う事があったら本人だと分かれば充分だと思うんだけど。
黒いの、一体何が知りたいのさ?
「……じゃあ“フェルシュルグ”はどうなんだ?」
「黒髪に銀色と金色の眸。顔立ちも整ってたんじゃないの? まぁ表情無くて無機物っぽい印象だったけど。あー後、私を見ている時だけ感情が籠ってた。ただし憎悪とかの負の感情だったけど」
じっくり見る機会も無かったけど、不良系? って言うか現代の教室に一人はいそうな一匹狼系だったと思うけど?
ツラツラとそんな事を言うと黒いのはじっと私を見たかと思うと大きくため息をついた。
人の顔見てため息つかないでよ、失礼だから。
後さっきの質問は一体なんなのさ?
「同情はしねぇが――テメェ、相当偏ってる人間だよな」
「うん。自覚はあるけど?」
「そーかよ。……まぁだからこそテメェは生きて“俺”は死んだのかもしれねぇな」
「ん?」
意味が分からず聞き返すけど、黒いのは首を横に振って其処で話題を打ち切った。
ちょっともやるけど、現時点では話す気は無さそうだし、いっか。
「んで? 何処の物好きに招待されたんだよ」
「聞いたら驚くかもねぇ」
「焦らすな」
いや、本気で。
私も聞いた時驚いたもん。
そして心からゲンナリした。
出来れば参加したくはないくらいには面倒だった。
だって、それは多分“私”にとって鬼門となりうる――
「――第二王子主催のパーティーだからね」
黒いのの驚いた表情は多分、私が聞いた時の表情だったんじゃないかなぁという考えに至ったのは私が王都に向かう馬車に揺られている時だったりする。
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