第13話【魔法】を学び【スキル】を知るという事は……(3)
次はどうやら【魔法】についての詳しい説明らしい。
「次は魔法が発動するまでの工程だ」
【魔法】とは魔力を使い【魔法陣】を【構築】する。
この【構築】は【詠唱】によってなされる。
この【詠唱中】に【精霊】が助力してくれる。
ここら辺は【熟練度】が上がれば沢山の【精霊】が助力してくれて少ない魔力で効力の大きな魔法を使う事が出来る。
勿論【詠唱文】は魔法によってそれぞれ違う。
だがようは【魔法陣】を【構築】するための代物なので一言一句正確である必要はないらしい。
其れ等はイメージで補う事が可能であり慣れれば省略出来る部分である。
だからイメージ最優先の【ステータス】などは【詠唱】を必要としなかった。
最後に魔法をこの世界に具現させる【力ある言葉】別名【発動呪文】を発する事で魔法は世界に現象として発動する。
これが魔法が【発動】するまでの工程である。
イメージは魔法を発動させるために重要なファクターらしい。
その魔法に対してのイメージが貧困だと発動しない事もあるし最悪暴走する。
だから【詠唱文】は魔法をイメージするための補助的な代物とも言える。
まぁ【詠唱】すればどんな魔法か分かるもんね。
【魔法陣】になるまでを【構築式】と称する事もある。
【構築式】と呼ばれるモノは魔法が発動するまではいかずともイメージによっては魔法っぽいものは発動する。
未完成の魔法とも言えるかも知れない。
完成した【魔法陣】は発動させた本人しか見えない、基本的には。
発動させた人はその【魔法陣】を覚えさえすれば【詠唱破棄】でも魔法は発動するし究極では【発動呪文】すら言わなくても出来る人間も存在するらしい。
ただし其処まで極めていれば魔術師としては歴史に名を刻むレベルだし「大魔術師」の称号すら与えられる。
……あー、過去の歴史を紐解いても数人しかいないらしいけど。
だからまぁそんな人間は居ないと思ってて良いと思う。
「ワタクシがあのスキルを習得する際のあれが【構築式】であり、その後お父様達が手を加え試したモノが【魔法陣】と言う事ですね? 完成した魔法ではないから【詠唱】も【発動呪文】も必要としなかったという事になったのですか?」
「……お前のあれは【魔法陣】と呼べるレベルだった。それにあれは魔法では無くスキルを習得するために必要な修練の工程に分類されるのだろう。だから【詠唱】も【発動呪文】も必要としなかった。……そうだとしても規格外ではあるが」
「スキルを習得するために必要な修練の工程、とはどういった意味ですか?」
「魔法の説明からは外れるが、魔法についての基礎の説明は終わった所であるし、次はスキルについて説明するか」
【スキル】とは【魔法】とは違う能力の総称である。
此等を産まれた時から習得している場合を先天的スキルと呼び、後に修練の工程と条件を満たす事により習得する場合を後天的スキルと呼ぶ。
ただ此等の分類は便宜上付けただけであり、先天的でしか習得出来ないスキルは今の所存在していないし、ただ論文などを書く際の紙面上の定義の言葉でしかない。
スキルは一度習得してしまえば発動に魔力を殆ど必要としないし、極めれば全く魔力を必要としなくなる。
又最初から魔力を全く必要としないスキルも存在している。
先天的に習得している場合は何も問題は無い。
【魔力属性検査】を経て【ステータス】を見た時に自らのスキルを認識するだけだ。
しかし後天的な場合はそうはいかない。
後天的にスキルを習得する場合“条件”と“修練”を必要とする。
条件は千差万別である。
魔力量の場合もあるし、ある特定の土地でしか習得出来ない場合もあった。
この系統のスキルの条件はこうである、と言った分類すら出来ない状態である。
修練は習得するために必要な工程の事である。
例えば【カマイタチ】というスキルが存在したとする。
このスキルを習得するための条件は「剣を扱える事」だ。
そして修練の工程は「素振りを千回以上行う事」である。
此等を行った時希に【カマイタチ】というスキルを習得する事が出来る。
此処で注意しなければいけないのは、「素振り千回以上」を行えば絶対にスキルが習得出来る訳では無いと言う所だ。
ある人は「千回」丁度で習得出来たが、ある人は「五千回」やっても習得出来ない……なんて事が普通に起こりうる。
結局スキル習得に絶対は存在しないのだ。
「若しかしたら習得に必要な“条件”には細かい定義が存在しているのかもしれないが、今の研究では未だ解明されていない。故に現状ではスキル習得は運任せという事になっている」
「何千回の素振りが空振りかもしれないなんて、悲惨ですわね」
「そうだろうな。だが仕方あるまい。良くある一例だと言われるだけだ」
「……努力だけで無く運も必要とはスキル習得とは過酷ですわね」
「そして、そんな運を勝ち取ったのがお前という事だ。特に【精霊眼】は“条件”も“必要な修練の工程”も解明されていないレアと呼ばれるスキルの一つだ。基本的に先天的なスキル保持者しか見つかっていない」
先生の説明に背筋に冷たいモノが走った気がした。
産まれた時から持ち得た場合以外殆ど見つかっていない【精霊眼】というスキル
あれは酷く使い勝手の良さそうなスキルだった。
【精霊】を目に映し、極める事で相手の魔法を見破る事も可能とするかも知れないスキルは多くの人間が欲しがるだろう……どんな手段をとったとしても。
「そ、れは……」
息が詰まる感覚に襲われる。
私はもしかして楽観的に考えすぎていたのだろうか?
もしも……もしも、私が気軽に【精霊眼】を習得したなんて吹聴したら?
私からどんな手段を使っても“修練の工程”を聞き出そうとする人間が現れても可笑しくは無い。
そんな人間が暴力的な方法をとらないなんて保証は無いし、私が試した方法を試して習得出来ないから、と諦めるのだろうか?
「(きっとそんな人は諦めない。だって既に公爵家の人間に強制的に情報を引き出すなんて罪を犯しているのだから)」
罪を犯してまで習得しようとしたのに、結果として習得出来ませんでした、で納得するはずがない。
何をしたとしても習得出来るように足掻くだろう……私という存在を使い潰し、結果としてそのために私が死に至ろうとも……諦めないと分かってしまった。
その時、私にはもはや抵抗する術が無い。
まだ魔法の一つも使えない無力な子供でしかない私が出来る事なんてもはや無い。
……その先の未来にあるのは使い捨ての末の“死”だけだ。
明らかに顔色が変わったんだと思う。
先生が「ようやく実感したか」と少しだけ呆れた顔をしていた。
何時ものように「仕方無い」と言えなかった。
だってこれは本当に直ぐに気づいて自衛しなければいけない事だったのだから。
きっとスキルはこう言った危険性を孕んだモノが多いのだろう。
だから誰も【ステータス】を公言しない。
自分の身が危ないから。
その時私はもっと悲惨な未来が頭をよぎり、今度こそ頭が真っ白になった。
「(待って。本当に危険なのは自分自身の身だけ? だって私に言う事を聞かせるために何をするか分からないような人間もいるかもしれないのに。もしそんな人間が私の周囲を人質にとろうと画策したら?)」
私は其処に思い当たり、血の気が引く音が聞こえた。
私のミスで私の大切な人が傷つき血を流す。
そんなの絶対に嫌だ。
それじゃあ何にも……『あの時』と何も変わらない。
折角錬金術を学べるのに。
守る力を身につける事が出来るのに。
守りたい大切な人達を『わたし』の手で守る事が出来るのに!
体内で魔力が循環し、収まりきらない分が体から放出される。
手を見ると薄く魔力が覆っているのが見える。
私の意識に呼応して魔力が敵を探そうとしているのかもしれない。
あくまで仮定の話だと冷静な部分が言っている。
けれど、仮定の話だとしてもダメだった。
私は私が大切な人間が傷つく事を極端に嫌う……恐れると言っても良い。
厳しいまでの線引きだってそんな大切な人達を守るためだ。
だって多くの人間を守る術は私には無いのだから。
だから大切に思った少数の人間を守るために他を切り捨てる方法を私は取った。
その結果が傍から見れば残酷とも言える線引きされた無関心さだったのだから。
そんな悪質とも言える性質はこの世界にも持ち越されている。
私は私の大切な人達を守るためなら何だって出来る……オカシイと言われようとも。
だって何かあった時に態々選択していたら何もかも遅いのだから。
魔力が熱いのに頭は妙にクリアだ。
今なら何でも出来そうなのに、何かをすれば終わりだとも感じる。
まるで本能と理性が戦っているようだと思った。
本能にやや傾いたと思った時、目の端に何かの気配を感じた。
「キースダーリエ!!」
「……せ、んせい?」
必死な声と叩き付けられるような魔力に私は無理矢理現実に引き戻される。
顔を上げると先生が今まで見た事もないような必死な顔で私を見下ろしていた。
「正気に戻ったな? ならばその纏っている魔力を解き放って外気に放出しろ。同時に魔力を引き出すのを止めろ。暴走する気か?!」
私は考える事もせずただ先生の言われた通りに魔力を動かす。
纏っている魔力を緩やかに体外に放出し、外気に溶け込ませていく。
しばらくこの離れの中の魔力値は高いかもしれないけど、問題は無いはずだ。
それとほぼ同時に魔力を引き出す事もやめる。
数分後には全く変わらない状態の私が居た。
「どれだけ規格外なんだ、お前は。まさか習ってもいない【身体強化】をするとは。しかも魔力が暴走しかけていた。……今は冷静だな?」
「――我を失う程ではありませんわ」
「なんとも頼りない言葉だが、仕方あるまい。……一体何を考えていた? どうしてお前は魔力を暴走させようとしていた……いや、違うな。お前は何を排除しようとした?」
先生の質問が痛かった。
再び先程と同じ恐怖が蘇ってくる。
だが今度は我を失う事は無かった。
それでも頭が真っ白になりそうだったけど。
自らの愚かさに吐き気がしそうだ。
「――ワタクシは愚かな事に今気づいたのです。ワタクシが口にした事はワタクシの身は勿論の事、ワタクシの大切な人達すらも傷つけかねないのだと。その事に先生に言われるまで考えもしなかったのです。気づく機会はあったのに。……ワタクシのせいで皆が傷ついてしまったら、ワタクシは「分かった。もう話さなくていい」――先生?」
再び自らの思考に囚われそうになった私を先生が止めた。
どうやら又魔力を放出しそうなっていたらしい。
もしかしたら先生は今【精霊眼】を使い私の魔力を見て居るのかも知れない。
……やっぱり【精霊眼】の汎用性は高いんだと思う。
習得が難しく汎用性が高いスキル……それは希少性が高いと言う事に他ならない。
それだけ危険なスキルの一つである【精霊眼】
それを私は持っているのだと強く自覚しなければいけない。
自身の身だけでは無く周囲の人間の身を危険に晒さないためにも。
「誰かに言われたのでは無く、自らその事に気づく事が出来た時点で及第点だ。まだ明らかな失敗をした訳では無い。……分かるな? 「まだ何も起ってはいない」その意味が?」
「……ワタクシがきちんと自衛すればまだ誰も傷つかないのですね? ワタクシの大切な人達をワタクシのせいで失うような事は起こらないのですね?」
「そうだ」
先生に肯定してもらい私は少しだけ安心する事が出来た。
だって短い時間しか接していないとは言え先生は気休めなどを言う人には見えないから。
私が取り返しの付かないミスを犯そうとした時、どんな方法を使っても止めてくれるだろうから。
それは決して私の身を心配してという訳では無く、身にかかる火の粉を振り払うからという事と先生の大切な人間であるお父様とお母様が私のミスで被害に遭いかねないからだろう。
私を止める事はお父様達を危険から守る事に繋がるから。
だから先生は私を止めてくれると安堵する事が出来る。
先生はある意味で私と同類だと思う。
大切な人以外はどうでも良い。
それが例え大切な人達の血縁者だとしても。
線引きをし、大切な人とそれ以外の間に越えられない壁がある。
私ほど破綻しているかどうかは分からないけど。
けれど先生は確実に「選び切り捨てる事の出来る」人間だと思う。
そんな先生の性質は今の私には有り難いモノだった。
先生は私の内側まで見透かすような鋭い視線を私に向けてきた。
「身に染みたようだな。最後にもう一度だけ言っておく。みだりに【ステータス】を他人に明かすな。そしてスキルは普通公言しない……分かったな」
真っ直ぐ私を見据える先生。
その視線に混じる「これ以上愚かならば切り捨てる」と言う感情。
けれど私ももう一度同じ過ちを犯す事はしない。
……『あんな恐怖』は二度とごめんなのだから。
「はい」
色々な感情を込めて私はしっかりと頷くのだった。
強くなろう。
私の大切な人達をこの手で守れるように。
『同じ過ち』は犯さない。
……あんな身を引き裂かれるような痛みを感じるなんて二度とごめんだから。
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