第12話【魔法】を学び【スキル】を知るという事は……(2)




 目の前の成功の証である【ステータス】に魅入っていると先生のため息を吐く音が聞こえてきた。

 私はゆっくりと顔を上げる。

 先生は真っ直ぐ私を見ていた。

 私の何かを探るような視線は今まで散々見ていたマッドサイエンティストの観察という視線では無く、私の内側を見透かそうとするなんとも居心地の悪くなる視線だった。

 けどそれも長い時間じゃなかった、と思う。

 何かを感じ取ったのか先生の視線が和らいだのだ。

 今までの実験体的な視線でも無い、けれど人間的な温かみのある視線に一体先生の中で何があったの? と思ってしまう。

 私の心持ちは変わったけど、そんな事知るはずも無い先生の視線の変化についていけない私を放って先生は授業を再開してしまう。

 ……聞いたら藪蛇っぽいから聞けないんですけどね。

 結局私は沈黙を貫いて先生の授業を聞くしかなかった。

 

「この【ステータス】は五歳の誕生の日に行う【魔力属性検査】を行った時から使えるようになる。実際は【魔力操作】をするまでも無い、誰でも使える魔法だ。【ステータス】の表示に関しては人それぞれだが基本は体力・魔力・スキルが表示される」

「え?! 魔力を手に込める必要もないのですか?」

「ない。だが【魔力操作】が出来るようになってからこれをやらせるのが普通だ。必要は無いが魔力を込める事で安定化するからそちらが推奨される。……初心者が最初に行う魔法としての定番だ」

「危険性もありませんものね」

「そういう側面もあるな。四元素を操る魔法は失敗した際暴走する可能性があるからな。危険性の無い魔法としては適当な所と言うわけだ」


 これが「初魔法」と定義してもいいって事だよね?

 色々気づかせてくれた魔法が実は魔法に分類されなかったと言われた凹むもんなぁ。

 よかった。


「取り敢えず自分の【ステータス】を見て現在の状況を把握する事だ」


 先生に促されて私は自分の【ステータス】に目をやった。 


 名:キースダーリエ=ディック=ラーズシュタイン

 称号:「公爵令嬢」「闇の愛し子」

 HP:60/60

 MP:500/500

 スキル:【闇の愛し子】【錬金術】【精霊眼】


 私の【ステータス】は完全ゲーム仕様だった。

 見やすいからいいんだけどさ。


 「HP」は体力で「MP」は魔力だとして「称号」は何だろう?

 確か『ゲーム』では錬金術の【熟練度】を上げていくと「ルーキー」「アマ」「プロ」「マスター」と言う称号が与えられる。

 それを付けると補正が入ったはず。

 けど「闇の愛し子」なんて称号あったっけ?

 しかもスキルにもあるんだけど、これ何だろう?


「(えぇとゲームの中にもあった気がするけど……言葉の通りならそれぞれどれかの神に愛されていて、その属性の魔法や錬金術に補正がかかる、なんて話だったはず)」


 そしてなにより【錬金術】がスキルに記載されている。

 【錬金術】が改めて記載するスキルの一つって事もちょっと驚きなんだけど。

 魔法が記載されてないのは私が魔法の才が無いって事も考えられるけど魔法っぽいモノを使った時点でそれはないんじゃないかと思う。

 って事は魔法は記載される程特別な【スキル】じゃないって事だよね?

 こうやって【錬金術】は特質の一つだと示されるとなんとも言えない気持ちになる。

 私自身が錬金術を思い切り出来るのは良いことなんだけど、これ一つに色々なモノが左右されちゃんだよね。

 そう考えると少し怖いも気もする。


「(だからと言って私が錬金術を学ばないなんてありえないんだけどね)」


 自分勝手だとは思うけど、折角使えると分かったのだ、思う存分学び極めたい。

 それが素直な私の気持ちだった。

 

 最後に【スキル】の最後にある【精霊眼】

 やっぱりこの【スキル】を習得していたらしい。

 お父様も【ステータス】表示があるから「後で分かる」なんて言い方したんだろうなぁ。

 実際明記されてれば嫌でも分かるもんね。

 

「【ステータス】は基本的に人には話さない。【ステータス】を晒すという事は自分の内面を全て晒す事と同義だと思っておけ」

「分かりました」

「体力や魔力に関してはこれから鍛える事で上限が増える。【スキル】は今後習得していけば増えていく」

「はい」

「……今後に必要だから聞くが【錬金術】は【スキル】として存在するんだな?」

「表示されておりますわ、先生」

「ならば良い。それが存在しなければ錬金術を学ぶ意味は無いからな」


 先生には錬金術を教わるために来て貰っているんだもんね。

 これで「私に【錬金術】の才能が全く無くて何も創れません」なんてなったら笑い話にもならないし。

 ただ【魔力属性検査】の時、私には【錬金術】を使う素養はあると出ていたし、流石にゼロではないと思っていたけど。

 こうしてはっきり表示されると安心する所もあるなぁと思う。

 スキル表示に一喜一憂しすぎと言われそうだけどね。


「一先ず【魔法】について学んで貰うがな。――この世界には【属性】が存在する。【属性】はそれぞれの神に帰属し、与えられた力というのが通説だ。【属性】は【火】【水】【風】【土】の四元素と【光】と【闇】の二元素の計六元素だ。【属性】は【魔法】を発動する時に必要となるモノであり人はそれぞれ得意な【属性】を持って居る。得意な【属性】に分類される【魔法】は少ない【魔力】で発動し、大きな効力を発揮する。これも【魔力属性検査】の際分かる。変わる事もあるがな」

「つまりワタクシの【属性】はあの水晶玉で示された色が示した【属性】なのですね」


 えぇと私は銀色と濃紺と黒だったっけ?

 えー三色って何事?

 三種類得意な【属性】があるって事?

 悩む私に先生はあっさりと答えをくれた。


「お前は【闇】だ。調べるまでも無く一目見ればバレるぞ」

「何故ですの?」


 別に属性を知られようと何があるわけでも無いけど、一目見ただけでバレるってどういう事?


「神々はそれぞれ貴色と呼ばれるモノを纏っている」


 【火】は赤

 【水】は青

 【風】は緑

 【土】は黄色

 【光】は白、金色

 【闇】は黒、銀色、濃紺


 神々はそれぞれこの色を身に纏っているらしい。

 そして神々の貴色と同じ色と纏っている人間はその神の加護を受けていて属性もそれに固定される。

 髪か眸が貴色で、もう片方が同じ系統の色――例えば青の髪に水色の眸など――の人間を【神の恵み子】と呼び。

 髪も眸も同一神の貴色の場合【神の愛し子】と呼ばれるらしい。


「つまりその法則から銀色の髪で濃紺の眸であるお前は【闇の女神】に愛されし【闇の愛し子】となる」

「ああ、【闇の愛し子】ってスキルはそういう事でしたの!」


 私は謎が解けて思わずそんな声を上げてしまった。

 案の定先生に盛大なため息を吐かれてしまったけど、仕方無い。

 ようやく納得出来たんだもん。


「【ステータス】は出来るだけ他言しないように」

「……善処致しますわ」


 ……『地球』では「いいえ」の意味なんですけどね?

 あ、いや、あえて反発する訳じゃ無いよ?

 けどうっかりとか色々な理由でポロっと言いそうな気がするんだよね。

 後、お父様とかお母様とかには言っちゃいそうだし。

 

 そういえば、これって「異世界転生」は称号に無いんだなぁ。

 在りそうなのに。

 そう考えた時、変な感覚になった。

 何と言うか称号が増えたような?

 ……まさか、ね。

 後で確かめてみよう。


「……あれ? 貴色が同一神の場合は【愛し子】と呼ばれるのなら黒髪に黒い眸の先生もなのでは?」

「――確かに私もそうだが。私は黒髪に“灰色”の眸で通しているからな。【愛し子】とは思われていない」

「ああ。そうでしたね。申し訳御座いません。以後口にしないように気をつけますわ」


 そこら辺の話はしてないけど、確かに私が“黒色の眸”だと言った時走った緊迫感を考えれば、何か理由があって隠しているって事なんだと思う。

 なら私にそれを暴く気はない……私も秘密を抱えている身だしね。

 私は誠意を込めて謝罪すると、取り敢えず受け取ってくれたらしい先生を纏う緊張感も少しだけほぐれた気がする。

 

「(気をつけよう)」


 どうやらここら辺は大変デリケートな領域らしい。

 という事で私はさっさと話題転換をする事にする。


「ワタクシが魔法を使う時は闇魔法が得意になると言う事なんですね」

「後は【水】と【風】だな。【光】と【闇】の神々はこの世界を創造せし神であり四元素の神々の親とも言うべき存在だ。だからか【光】と【闇】を得意属性とする人間は他の四元素の属性も問題無く使えるし【光】ならば【火】と【土】、【闇】ならば【水】と【風】の属性を他よりも扱えるようになる」

「……もしかしてワタクシが視た光の色は属性の示す貴色なのですか?」

「ああ。お前付きのメイドとお前の父親や私では光の色が違ったはずだ」

「違いましたわ。リアは基本的に一色でしたがお父様と先生の周囲は色彩豊かな光が飛び交っておりました」

「その光は意志無き【精霊】と呼ばれる魔力の塊だ」

「【精霊】!?」


 驚く私を余所に先生は今度【精霊】について淡々と説明していく。

 ……先生って多分教職に向きませんね。

 教え方が下手と言うわけでは無く、この人嫌いの雰囲気と興味を持っているか居ないかでの態度が違いすぎる所が教師は出来ないと思う。

 こんな教師が学校に居たら遠巻きにされてそう……あーでも先生イケメンだし女生徒には騒がれるかもしれないけど。


 そこらへんはともかく、この世界の【精霊】は基本的に意志を持っていないらしい。

 簡単な好き嫌いはあるかもしれないけど基本的に魔法を使う際に助力するだけの魔力の塊に近い。

 どうやら此の世界には精霊王みたいな人の遙か高みに存在する高次元の存在は居ないらしい。

 そう言えばゲームでの錬金科の最終試験の最高点確実な錬金は【賢者の石】を創造する事だったんだけど、その材料を持って居るのは【精霊王】じゃなくて【聖獣】だったんだよなぁ。

 この世界での【聖獣】は神々に仕え、神々からこの地を守るために使わされた聖なる御使いだったし。

 違う次元に住まう【精霊】の概念はこの世界にはなさそう。

 だから【精霊】は属性を孕んだ魔力の塊で人が魔力を使う時に助力する存在って定義っぽい。

 人に対しての好き嫌い程度の意志はあるかもしれないけど、これに関しては考察しようがないなぁ。

 

「(この世界には【精霊】の言葉を聞いて助力を願い使う【精霊魔法】って分野はないって事かな)」


 魔法は外部からや内部からの魔力のみで行うと考えてよさそう。


「――【精霊】はその人間の持つ属性に惹かれると言われている。だから属性の貴色を持つ【精霊】が人間の周囲を舞うのだろうな」

「つまり【精霊眼】とはそう言った【精霊】を視るスキルと言う事なのですね」

「……ああ、そうなる。だがそれはあくまで基本だ。お前もそのスキルの【熟練度】を上げれば分かるが【精霊眼】は色々なモノを見通すスキルだ。極める方向によっては人の心すら見える代物となるはずだ」

「先生? どうして其処まで説明して頂けるのですか? ……先生は自らが【精霊眼】を持つ事をあまり好んでいないようにお見受けしましたが?」


 ある意味で【精霊眼】を嫌っているようにすら見えたのに。

 まさか自分もその【スキル】を習得していると認めただけでは無く、助言まで頂けるなんて思わなかった。

 驚きという心境のまま先生を見やる私に先生は小さくため息を吐いた。

 しかも眉間にしわまで寄っている所、言われたことも心外そう。

 ですが、先生を見て居るとそう思われても仕方無いと思いますけど?


「確かに私は【精霊眼】を公言していないし、するべきでは無いと思っている。好んでいないというのも強ち間違いではない。――だが、だからと言って【精霊眼】を習得している人間に忠告の一つもしない訳にもいくまい。それは私にとってそうなるなどごめんだという人間と同じだと言っているようなものだからな。同じ所に落ちるなんて冗談じゃないと思うが故に私は先程のような忠告じみた事を言う事自体に忌避感は無い。【精霊眼】を習得し、私が習得していると知っている人間なら尚更だ」

「……そうですか。ご忠告痛み入ります」


 どうやら先生には私が想像も付かないような何かがあるみたい。

 けど、それは私が聞くべき事ではないし、聞く気も無かった。

 今、深く突っ込む事は互いにとって“時期じゃない”

 これから先生と交流を深めた時、もしかしたら聞けるかもしれないし、聞けないかもしれない。

 けれど、それを深く突っ込んでまで聞きたいという思いも今の所私には無い。

 ……私達はお互いにまだ色々な事に手探りって所なんだよね。


 だから私はコレで話を終わらせたし、先生も話題を変えた。

 これが今の私と先生の距離感って事になる。

 

「(これから変わる可能性もあると思うけどね?)」








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