戦争と座敷童子

音澤 煙管

黙祷……




小柄で背中の曲がったじいちゃんは、ぼくが遊びに来ると戦時中での幼い頃の体験をよく話す。ぼくは、高度経済成長期後の世代だから未知の話に耳を貸す。


東京の近郊で生まれ育ったじいちゃんが、戦争が始まってから全国で一斉に学童疎開という集団で田舎へ子供たちが避難した先で生活をしたという。

今住んでいる場所へ疎開して来たらしい、

訪れた田舎では優しく受け入れられて右も左も田んぼや山ばかりの場所での暮らしは慣れるまで時間がかかったとか。

避難場所は、山奥の分校と呼ばれる生徒数も少なかった平屋造りの小さな学校で、その前の運動場がとても広かったから始めは陽が暮れるまではしゃいで走り回っていたらしい。 隣には大きめの工場のような建物があって、大人が忙しなく往き来していたのを記憶していたとか。

食べる物も、この頃はお米は高級品でひえやアワ、キビなどで、あってもさつま芋がご馳走の生活を暫くしていた。腹ペコの時は、畑の土や畦道に生えている雑草を食べて凌いでいたらしい。食べられる雑草も近所の人に教えてもらい何十種類と形や匂いと名前を覚えていった。

疎開して来て数ヶ月後にある転機が訪れた、

この田舎へ空襲に遭ったのだ。


雑魚寝状態の皆んなが寝静まった時、

"ウ〜〜〜〜……"と空襲警報のサイレンが山にこだまする。皆んな一斉に飛び起き外へ出て空を見上げる。

じいちゃんは、自分が生まれ育った南の方向を直ぐに眺めた。山の形がはっきり見えて炎の色が町の上空を染めていた。

この時のじいちゃんは口を開けて見ているだけしかできなかったのがとても悔しかったらしい。


「こんな田舎には、お前たちの狙うものなど無いよッ!出て行けーッ!」


と、じいちゃんに良くしてくれた近所のおばちゃんが警報が鳴る中、空に向かって叫んでいたのをよく覚えているらしい。


避難場所だった、廃校の校舎も狙われていると大人が言い、裏山に作った防空壕へ順番に誘導してくれた、じいちゃんは慌てて裸足で夢中で走ったらしい。


「こっちだッ!早く早くッ転ぶなよ!」


その時空から轟音が聞こえてきた瞬間、


"ヒューーーン……ドーーーンッ

バキバキッゴロゴロゴローッ"


じいちゃんが防空壕へ入る寸前だったその時、隣の工場に砲弾が落ちた。

どうやらこの工場では、プロペラ機のプロペラを専門に造っていたらしい。

調べられていて、それで砲弾を浴びたんだという。これだけでは、終わらずまた轟音が近づいて来ると、


"ヒューーーン……ドーーーンッ

バキバキッゴロゴロゴローッバキバキッ"


工場がやられてから数秒後に、じいちゃんが避難していた分校にも砲弾が落ちた。

防空壕に砲弾を浴びた校舎の破片が火の粉と一緒に飛んでくる。まだ、防空壕へ向かっている子どもも居たし、校舎で順番を待っている子どもが残っていた。再び轟音が聞こえその音を最後に工場や校舎が燃える音だけがパチパチと聞こえてやがて建物全てが焼け落ちたと言う。

じいちゃんたち子どもは、防空壕へ蹲り大人たちは子どもを助けようと火の手が上がっている炎へ近づくが手も足も出なかったようだった。

この日の夜は、その後時間を忘れるくらい夜が長く感じてあまり寝られなかったのを覚えていたようだ。


炎が上空を写し、火が治るのと同じくらいに夜が明け明るくなっていった。

それと同時に防空壕から出て、大人たちと助かった子どもたち十数人だけ歩いて山を越えて隣の村へ避難したらしい。

その場所へ行き、民家へしばらく住ませてもらったらしいが数日後に終戦の日を迎えたようだった、校舎ではやはり犠牲になった子どもと大人が居て、その後片付けをして更地にした後慰霊碑を立てたらしい。

その近くにじいちゃんが、この土地に住んで交通機関も整備され、近くにローカル線が通った頃、成人して地元の人たちの協力で民宿の営業を始めたと言う、それが今いるこの旅館だ。建物の裏には防空壕の跡もまだある。


夏の出来事だったし、ぼくらも夏休みにしかここへお邪魔しないのでよく聞かされていた話だった。


お盆に合わせて犠牲なった子どもたちへの慰霊祭が行われる。その頃にこの旅館へ泊まった人の噂では、丁度慰霊祭がある日の夜に、奇怪な現象が旅館ではあるらしい。

悪意なものではなく、棚の物が落ちたりお客さんのかかっていた布団が捲られたりするそうだ。きっとこの現象は、当時犠牲になった子どもたちが慰霊祭とその日にここへ集まってくれた人へのお礼と悪戯なんだろう……

と、じいちゃんはいつも話してくれた。


慰霊祭は、出席してお線香をあげ手を合わせてお祈りをした。これからは戦争が永久に無い時代であって欲しいと思った……。




終わり



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