第2話 鳥

僕は紅葉が色づく季節に生まれた。

だから秋という季節は体に馴染んで好きだ。


来月で30歳になる。

今の僕にとって、《あの人》と暮らした日々は遥か昔のことだ。


なぜならもう、15年は会っていないからだ。

理由は僕が中学生の頃に家を出て行って、それきり連絡もないからだ。


君にこうやって長々と昔話をしている理由は、僕がなぜ、今の僕になったのか、最後に君には知って欲しかったからだ。


だから、君が知りたがっていた事をこの手紙で全て話そうと思う。


まずは2年前の話からしよう。

僕が当時住んでたマンションから飛び降りた理由。


あの頃の僕は家から一歩も出られないほど神経質になっていた。

強迫性障害という病気を高校生の頃診断されてから、上手く自分の病気と向き合って来たつもりだった。

しかし、28歳の夏、僕はついに自分に嫌気がさして死にたいと思った。

毎日、毎日何度も頭の中で指示が出される。


この道を通ると不吉なことが起きる。


ここで3回、回らなくてはならない。


最初のうちはこんな感じのことが多かった。

でも、徐々にひどくなった。


この道を通ると死ぬ。


電車のホームで待っている人を突き落とさなければ自分が死ぬ。


そして、この死ぬ恐怖と毎日戦うことになっていった。

怖かった。

僕は僕自身がなりよりも怖かったんだ。

だから、自由になりたかった。


僕が僕自身に支配されないように。


鳥になろうと思った。

鳥になれるなんて思ってなかった。

でも鳥に憧れていたのは本当だよ。

ほかの生き物にはない物を彼等は持っている。

そう、翼だ。空を自由に飛び回る事の出来る翼が僕にも欲しい。ずっとそう思っていた。


でも、僕には翼は生えてない。

鳥と同じように飛べるわけがない。


それでも、一瞬でもいい。

鳥の気持ちを知りたかった。

自由に空を飛び回る鳥の気持ちを。


君は今この手紙を読んで、やっぱり僕は頭がおかしい。そう思っているんだろうな。


僕もそう思うよ。


でも僕からすると君も十分おかしかった。

次は君と僕が出会った頃の話をしよう。

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