第24話「歪な未来を切り裂いて」
究極の回避率。
極限の命中率。
奇跡にさえ思える高度な機動を実現する力、それが
だが、スルギトウヤは知っていた。あらゆる世界の全てで、初めてDUSTER能力の有用性を見出したからこそ、理解していたのだ。
DUSTER能力は、絶対ではない。
そしてそれは、常に可能性へ作用するため……100%に限りなく近付いてゆくが、決して100%にはならないのだ。
『ハッハッハ! やった、やったぞぉ! そうだ、私はDUSTER能力者を
今、
その中で、腕組み佇む機体が
トウヤの乗る【
だが、統矢の闘志はまだ
そして、彼にはまだ……愛を注いでくれる少女がもう一人いたのだ。
『統矢さんっ、一度離脱して合体をっ! 援護しますっ』
「駄目だ、れんふぁっ! デカい【
頭上で【樹雷皇】からグラビティ・アンカーが発射された。有線制御された巨大な
だが、トウヤの【氷焔】はマント状に戻していたゾディアック・レイザーを解き放つ。黄道十二星座の
あっという間に、無敵の誘導兵器はグラビティ・アンカーを切り刻む。
それは鉄壁の防御にして最大の攻撃……不遜な王の如き【氷焔】の唯一の武器だ。
『きゃああああっ! と、統矢、さ、んんんっ!』
『れんふぁ! 我が一族にして、りんなの
『わから、ないよ……しりたくもないよっ! ひいおじいちゃんは絶対、わたしが止めるっ!』
『小娘がでしゃばる幕じゃ、ないと言っている!』
【樹雷皇】の巨体が、無数の光に包まれた。
それは、高速で無軌道に飛び交うゾディアック・レイザーだ。
れんふぁの悲鳴を飲み込み、無敵の巨大兵器が破壊されていった。それをただ、統矢は
だが、声なき言葉を確かに受け取っていた。
これは、この無謀に思える一瞬は、
彼女が命を
「……そうか、【樹雷皇】はデカいからな……倒すには、十二基全ての……ならっ!」
今、トウヤの【氷焔】を守るものはなにもない。
全てを受け止め防御することで、確率論を廃した絶対の守りが一時的に解除されている。十二基全てのゾディアック・レイザーが【樹雷皇】に向いていた。
僅か数秒にも満たぬ、宝石のような時間だった。
その一瞬に、統矢は全てを賭けた。
永遠に思える
「スルギトウヤッ! もう一人の、全く別の俺! ――いまっ、ケリをつけてやるっ!」
死力を振り絞るように、愛機が震えて光を背負った。
そのまま片腕で【グラスヒール】を振り上げ、
だが、無情にも【氷焔】が片手を伸べてかざした。
クルリと
それでも統矢は、愛機に最後の一撃を引き絞らせるだけだった。
そして……奇跡が運命を分かつ。
『なっ、馬鹿な! そんなことが……ありえんっ!』
そう、ありえない状況が生み出されていた。
統矢が決して
だが、奇跡の女神は片翼を失って尚……愛する少年に全てを注ぐ。
殺到してくるゾディアック・レイザーは、全てが突き刺さっていた。
そして、そのどれもが統矢の【氷蓮】には届いていなかったのである。
『チユキイイイイイイイッ! 貴様、貴様はあ! どこまでこの私にっ!』
『グラビティ・ケイジ、出力全開っ! ――統矢さんっ!』
大破した【樹雷皇】からまだ、小さな重力場が届けられていた。それは、【氷蓮】のグラビティ・エクステンダーにではなく……繊細なコントロールと驚異の演算によって、人を
統矢の目の前で、全てのゾディアック・レイザーを受け止める姿があった。
それは……
「今だ……今っ、この瞬間なんだよっ! そうだろ、千雪っ! れんふぁあ!」
血を吐くような絶叫と共に、そのまま統矢は【氷蓮】を押し込んでゆく。
目の前に立ちはだかる、
天城の甲板が真っ二つに割れ、その先で【氷焔】が跳躍する。
「外したっ! けど、天城から引き剥がせた……れんふぁ! グラビティ・バスター・カノン、射出!」
『は、はいっ!』
「それと、脱出を! もう【樹雷皇】は持たない!」
『でも、まだこの子』
「そいつがもういらない時代が、すぐそこに! 手の届くところに見えてるんだ! れんふぁ!」
無敵を誇った【樹雷皇】が、ゆっくりと爆発の中に崩壊してゆく。
だが、その中を二機のパンツァー・モータロイドが
最後に垂直発射型セルのウェポンハンガーから、一条の光が彗星となって飛び出す。そして、それを最後に【樹雷皇】は動力部を爆発させて白炎に消えた。
れんふぁは脱出したと思うし、そう信じている。
そして統矢は、必死で【氷焔】に食らいついて加速を続けた。
振り向くトウヤの焦りが、全てのゾディアック・レイザーを集めてグラビティ・ケイジを展開させる。しかし、統矢は迷わず【グラスヒール】の
「
目の前に今、無敵の障壁が広がっている。そこに鞘を叩きつけ、強引に密着させて弓へと変形させた。そのうえで光の
白く染まる世界の中で、そのまま統矢は流星となって翔ぶ。
『フ、フハ……フハハハハッ! 破れんよ! その程度の攻撃で!』
「まだだっ!」
初撃、肉薄の距離からのビームも通らない。
だが、二の矢が飛来する。
先程射出されたグラビティ・バスター・カノンが、射撃形態へと変形しながら飛んできた。それはまさに矢のように、真っ直ぐ【氷焔】を包む重力場に突き刺さる。
弓の形を維持できず、オーバーロードで鞘が砕ける。
その時にはもう、統矢は一撃必殺の砲身に【グラスヒール】を装填していた。
さらなる密着の距離、零距離を超えた先へと全てが解き放たれた。
『だっ、だだ、大丈夫だ! この鉄壁の守りが抜かれることは――』
「おおおっ、二度で駄目ならっ! 三度目の正直、
フルパワーで射撃を続け、重力線を放ちながら【氷蓮】が
ならば、届くまで次を放つ。
『ふう、
「……いや、見えた。見えて、来たっ! お前の負けだ、スルギトウヤ!」
『なにっ!?』
「避けようとせず、自分で動かず、逃げもしない。防御だけを選び続ける時点で、お前は可能性を捨ててるんだ。俺は、違う……駄目でも挑む、また戦う! その
グラビティ・バスター・カノンが負荷に耐えきれず、爆発した。
迷わず統矢は、グラビティ・バスター・カノンの中で待つ【グラスヒール】を掴む。
そのまま、必死で守りを固める【氷焔】へと刃を押し込んだ。
二度の零距離射撃を重ねた上で、零分子結晶の一太刀を機体ごとぶつける。
その時、発生する力場自体に耐えきれず、数基のゾディアック・レイザーが爆発した。
『なっ……貴様ああああああっ――!』
「もう終わりだ。終わらせるんだよ、ここで……そうだよな、千雪」
【氷焔】の右胸に、深々と【グラスヒール】が突き刺さった。極限の戦闘がもたらす緊張感の中でも、統矢は冷静にコクピットを外していた。DUSTER能力がもたらす圧倒的な情報量を、意思と思考で読み切っていたのだ。
だが、深々と貫かれながらも【氷焔】が手を伸ばす。
同時に、統矢もまた愛機に最後の攻撃を命じて
『貴様ぁ、私はりんなの
「そういうのっ、聞き飽きてんだよっ! お前はここで終わるんだ!」
【氷蓮】と【氷焔】、二機が同時に手を伸ばした。その先に、【グラスヒール】の光がある。両機は同時に、巨剣の
真空の宇宙が、一つに重なる二つの銃声で震えて、そして沈黙で全てを包み込むのだった。
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