第21話「それでも、未来に――」
その瞳が
すぐに背後で、【
そしてスルギトウヤの【
『ハハハッ! ラスカ・ランシング! どうした、無様だなあ? まるで虫けらのようだ!』
『なによ、グラビティ・ケイジが厚過ぎて……でも、もう一度肉薄すればっ!』
『無理だなあ! この【氷焔】に……私が敢えて再び乗った、この屈辱の【氷蓮】を前に! お前は
相変わらずまだ、【氷焔】は両腕を組んで直立不動だ。
その周囲を
圧倒的な防御力は、【樹雷皇】や【ディープスノー】のそれとは桁違いだ。
そして、不気味な高笑いと共にトウヤがゆっくり機体を押し出す。
瞬間、統矢は絶叫に声を
「ラスカッ! 避けろ! お前なら見切れる、回避するんだ!」
だが、通信回線の向こうで響いた返事は悲鳴だった。
望遠でカメラをズームして、統矢は自分の予感が的中する恐怖に震えた。
全身を覆っていたマント状の装甲、あれは全てがグラビティ・ケイジ展開用の重力制御ユニットだ。その数、12基……そして、それぞれが全て独立して稼働する、鉄壁の防御にして絶対の刃なのだ。
腕組み
それは全てが異なる角度で鋭角的にターンを繰り返し、ラスカを死角から鋭く切り裂いた。原理は恐らく、【樹雷皇】のマーカー・スレイブランチャーと同じだ。だが、そのコントロール技術は向こうが上……
『キャッ! なによもう、アンタ……絶対にブッ殺す! 殺し殺してやるんだから!』
『どこまで吠えていられるかな、哀れなメス犬が。フハハッ、12基のゾディアック・レイザーによる連続波状攻撃! そらそら、踊れ! 避け続けろ! 直撃すれば死ぬぞ!』
『うっさいわね! ――後ろ? 駄目、
統矢さえも間に合わぬ先で、ラスカの命が
激戦をくぐり抜けてきた改型四号機が、飛び交う悪意の嵐に飲み込まれていった。
だが、その時……宇宙の闇より尚も黒い、深淵より蘇りし亡霊が吼え荒ぶ。
乱れ飛ぶ
そこには、全身に包帯のように巻かれたスキンテープを棚引かせる、
頼れる隊長にして部長、
『よぉ、スルギトウヤ……あっちの俺はどうだ? ああ、聞かなくてもわかるぜ』
『くっ、五百雀辰馬! お前もまた、こちらの世界とは異なる未来を――』
『それは、俺の未来じゃねえ。お前の世界は、俺たちの未来になんざ、繋がってねえんだよ!』
そうだ、辰馬の叫ぶ通りだ。
スルギトウヤが監察軍に破れ、禁断のリレイド・リレイズ・システムに手を出したのは……こことは異なる世界線、全く違う地球の未来だ。
関連性はあっても、純然たる異世界、平行世界での出来事なのだ。
だから、今は統矢もはっきりと断言することができる。
同じ名前で、同じ人を失い亡くした……だが、そこから二人は全く別の道を選んだのである。そして、道を踏み外したもう一人の自分は、この世界にとって侵略者でしかない。
「クッ、辰馬先輩! 今、援護に!」
『統矢っ、天城を守れ! 俺はラスカのフォローで精一杯だ!』
統矢が駆る【氷蓮】が、対ビーム用クロークを
大上段から斬りかかる統矢だったが、グラビティ・ケイジが展開されて弾かれる。
確かに、圧倒的な防御力……攻防一体な上に、守りは鉄壁だ。
【樹雷皇】の主砲でも、撃ち抜けるかどうかというレベルである。
そして、相変わらず【氷焔】は余裕の構えで、ファイティングポーズを見せない。
そんな中、激しく削り合う流星と流星とが、目の前を高速で飛び抜けてゆく。
「千雪! レイルも! クソッ、天城に張り付かれたか!」
レイル・スルールのメタトロンは、既に天城の
だが、その追撃を
アップデートされた現在のメタトロン・ヴィリーズ
それは、グラビティ・ケイジを纏って無手の格闘術を使う千雪とは、限りなく相性が悪い。しかも、メタトロンは増加装甲で火力も機動力もパワーアップしているのだ。
そして、恐れていた事態が遂にその時を迎える。
『いけない! 天城が被弾しました。辰馬さんっ!』
『
『やってるでありますよ! でも、特攻兵器の数が……そんな、これじゃあ自分たちは』
絶望的な動揺が広がってゆく。
後方の
そして、メタトロンから一際強い光が放たれる。
右肩に伸びた高出力砲から、苛烈なビームの
『トウヤ様、やりました! 敵艦の動力部に直撃、航行機能を完全に沈黙させました!』
『よくやった、レイル・スルール……フハハハ! ここまでだな! 私の勝ちだ!』
『あとは……トウヤ様の名を騙る反逆者を、処理する。誰一人、生かして帰さない!』
天城の加速が止まった。
そのまま惰性で進む巨艦が、無数の爆発に包まれていった。
動力部は完全に停止し、既に艦の後方ブロックは爆炎に飲み込まれている。絶望が統矢の中で膨らみ、統矢自身をも塗り潰すかに思えた。
だが、意外な声が仲間たちを
それは、本来この場にはいない
『――摺木統矢! そして、フェンリル小隊! 貴様らの力はそんなものか? 気合を入れんか!』
「えっ……
『艦長代理と呼ばんか、馬鹿者が! ……フン、この戦争は我々リレイヤーズが起こしたものだ。私には、その
激震に揺れる天城の
そこには、一人だけ小さな少女が立っている。
それは、間違いなく御堂刹那だった。
先程の衝撃で、艦橋内にもかなりのダメージがあったのだろう。真っ白な海軍の軍服が今、鮮血に汚れていた。それでも刹那は、声を振り絞る。
『――予備電源、投入!
信じられない光景だった。
もはや轟沈間際に見えた天城が、再び艦首にグラビティ・ケイジを集束させてゆく。あっという間に、全てを
あたかもそれは、重力のプロペラとでも言うべき急場しのぎの推進機へ変わった。
その意味を解説する声が、勢いよく天城から飛び出してくる。
『やあ、ボクもいるんだな、これがさ。広げた重力場回転衝角は、それ自体が天城を牽引する、重力で引っ張りながら進むよ。だから統矢、君は君の戦いを続けるんだ。最後まで!』
「その声……その機体に乗ってるの、
銀色のパンツァー・モータロイドが、たった一機で出撃してきた。その全身は、ありとあらゆる火器の過積載で膨れ上がっている。肥大化した動く武器庫は、敢えて呼ぶならばバニシング・プリセット……持てる火力の全てで敵を消滅させる、短期決戦用のセッティングに見える。
その機体は本来刹那用の94式【
早速霧華は、機体が両手に構えたバズーカ砲を連射する。
『くっ、御堂刹那! それに貴様は……裏切り者、御統霧華か!』
『
『下劣な裏切り者らしい言い草だな! それなりに愛してもやれたものを!』
『ボクは、こっちの統矢の方がいい……それに、命を賭けてでもキミを止めたいって、ようやく思えた。チユキみたいに、もっと早く……もっと昔に、止めていれば! キミは!』
初めてトウヤの【氷焔】が余裕の腕組みを解除した。
同時に、ゆっくりとその白い闇は天城の艦橋へと近付く。次から次と撃ちまくって、全火力を叩き付ける霧華の射撃も無効化されていた。
あまりに強力過ぎるグラビティ・ケイジの、突破不能な防御力。
その意味を統矢は直感的に察していた。
「くっ、御堂先生! 逃げてくれ! あんたは死んじゃ駄目だ! あんたは――」
『摺木統矢、私はリレイヤーズだ。死んで楽になどなれんが……それでも、この戦争に散っていった者たちと同じ死を、意義のある死と信じて立ち向かわねばならん!』
「そんな理屈! 指揮官が言っていい話じゃない!」
『さらばだ、摺木統矢。さらばだ、フェンリル小隊……未来に――』
――未来に抗え!
それが刹那の最後の言葉だった。
爆発と共に、艦体の上部が火の海へと変わってゆく。
だが、天城は止まらない。
まだ、重力の翼を広げて回し、自動航行で目標ポイントへと航行していた。
『クッ! 止まらん! こんな老巧化した戦艦一隻が、
統矢の中から、言葉を脱ぎ捨てた怒りが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます