第20話「凍れる炎が暗く燃える」
それは奇妙なパンツァー・モータロイドだった。
忘れる
首から下を、まるでマントのような鋼の装甲ですっぽりと覆った姿。
まるで、
「なっ……あ、あれは! 【
そう、今も【
首しか見えていなくても、その独特なツインアイの頭部は【氷蓮】である。
そして、その機体から
『クハハハッ! 驚いているようだな、こちらの世界の私よ……弱く無様な摺木統矢よ!』
それは、この戦いの元凶にして中心。
統矢たちの地球を、地獄の戦火に叩き落とした張本人の声だ。
それが今、白き【氷蓮】を駆って最前線へと現れたのだ。
「スルギトウヤッ! もう一人の俺! そこを動くなっ、今すぐ――」
『統矢さんっ、熱くならないで。次の次元転移反応、まだまだ敵が来るよっ』
「くっ……悪い、れんふぁ! 大丈夫だ、
統矢は
スルギトウヤという男の存在は、それほどまでに許しがたいのだ。
子供の頃の自分で、その姿を何度も繰り返してきたリレイヤーズ……その目的は、こちら側の地球で
『フッ、驚いているようだな……もう一人の私よ。そう、これは【氷蓮】……否っ、生まれ変わった屈辱の復讐機、【
「【氷焔】、だって!?」
『そうだ……我が
「知ったことかっ! そこを動くな! 必ず決着をつけて――ッ、しまった!」
新たな次元転移の光から、無人機が多数出現する。
それは全て、最も小さく弱いアイオーン級だ。宇宙用のブースターを増設されたその姿は、統矢に謎の
嫌な予感を抱いたまま、それでも彼は瞬時に迎撃に出ていた。
だが、撃破したアイオーン級は、突然巨大な爆発の光で真空を揺るがした。
「こいつは! 対艦ミサイルクラスの爆発……全部、体当たりの特攻仕様か!」
『そうだ、摺木統矢! これだけの数の特攻兵器、捌き切れるか? 私は優しき指導者、人道的だよ! この無人機の特攻は! 敵しか死なない、実にいい作戦だ!』
「クソッ、があああああっ!」
乱れ飛ぶアイオーン級の中を、必死で統矢は進んだ。その身に宿ったDASTER能力が、限界まで知覚を拡張してゆく。極限の集中力は、まるで自分が宇宙の彼方まで広がっていくかのよう。
統矢は無心に
その間にも、スルギトウヤの【氷焔】はゆっくり天城へ向かってゆく。
だが、焦れる統矢の気持ちが、頼もしき風を呼んだ。
『統矢君っ、ここは私が!』
「
『……この男は、こんな男は! 私の大好きな統矢君じゃありませんっ!』
そのまま体を浴びせるように、鋼鉄の拳が
だが、敵もまたこちらと同等、それ以上の技術力を兵器に注いでいる。
肉眼ではっきりと確認できる程の、強力なグラビティ・ケイジが【氷焔】を守っていた。マントのような装甲に覆われた機体は、全く身動きする様子はない。ただ、静かに重力の
『くっ、貫けない!? こちらの重力場が当たり負けしているっ!』
『五百雀千雪ッ! こちらでも私に、この私に逆らうか! だが、お前の相手は……こいっ、レイル・スルール! 今こそ私の剣となり、盾となって戦え!』
『なっ……しまった!』
常闇の宇宙を光が走った。
超長距離からのビームによる狙撃が、千雪の【ディープスノー】を包む。かろうじて避け、避け切れぬ中で彼女はグラビティ・ケイジを最大出力で展開する。
奮戦する統矢も、それを横目で確認してほっとした。
千雪は自分と同じDASTER能力者で、自分以上の操縦技術を持つエースだ。
だから、スルギトウヤも自分のエースをぶつけてくる。
最終形態へと進化した無慈悲な
『五百雀千雪……トウヤ様の愛を拒んだばかりか、その邪魔をする愚かな女っ!』
『くっ、メタトロン! 増加装甲と火器の増設で』
『フ、フフ……アハハッ! このアニヒレーターなら、そんなちっぽけなPMRなど!』
その名は、メタトロン・ヴィリーズ
まさに、
「くっ、千雪!」
『大丈夫です、統矢君。殺さず勝ちます、私は……統矢君、レイル・スルールが死ぬのは嫌ですよね? ふふ、そういうとこ、私は好きですよ?』
「そういう余裕はいいんだっ! け、けど」
『安心してください……私は最強の【
メタトロンと【ディープスノー】が戦闘を開始した。
千雪だから、大型の【ディープスノー】だからこそ勝負になる。普通のPMRではもう、メタトロンは止められない。
そして、光と光がぶつかり合う激闘を尻目に、【氷焔】は天城に向かっている。
統矢もアイオーン級を蹴散らしそのあとを追った。
すぐに天城が見えてきて、仲間たちの攻撃が【氷焔】を迎え撃つ。
その先頭に立つラスカ・ランシングの声は、怒りの沸点を通り越した絶叫だった。
『
『了解であります』
『ラスカさん、前に出過ぎです!』
真っ赤な機体は紅蓮の炎、燃え上がる怒りのままにラスカの89式【
紅と白、二機のPMRが激突する。
だが、スルギトウヤはグラビティ・ケイジを展開するだけで、決して攻撃しない。
そして、全く進撃速度を落とさず天城に近付いていた。
『このっ、攻撃が通らない!? ならっ!』
『ハハハ! 割れ響く子犬のような声、ラスカ・ランシングだなあ!』
『うっさい、死ね! 死ぬまでアタシが殺してやるっ!』
『私は死なない。リレイド・リレイズ・システムの祝福を受け、死ぬ
『物は言いようね! 死ねないだけでしょ! それにっ、死ぬ気になる度胸もないっ!』
ラスカの突出した操縦技術は、天性のセンスと日々の訓練で培われたものだ。それは、時折DASTER能力を持つ統矢をも
繊細にして大胆な機動は、無数の乱撃で大型ダガーを叩き付けた。
だが、刃が通らない。
そして、
『相変わらずいい動きだ、ラスカ・ランシング。無冠にして無銘、誰にも認められなかった……私にしか認められなかったエースよ』
『うるさいわね! 【閃風】だ【
繰り出すダガーの刺突が、【氷焔】のグラビティ・ケイジに突き立った。暗き光のバリアに突き刺さったそれを、ラスカは愛機アルレインの回し蹴りでさらに押し込む。
同時に、腰のバックアーマーにマウントされていたパイルトンファーを装備。
そのまま、ダガーごと敵の壁へ連続して強撃を叩き込んだ。
『ハハハハ! 必死だな、ラスカ・ランシング!』
『当たり前でしょっ! なによ、生まれ変わり? それって、死ねないから……必死になれないから! そんなんだから宇宙人にも負けて、ウジウジ復讐とか考えるのよ!』
『おお怖い、なんて恐ろしいんだ。……こちらの側のお前は、もっとかわいらしい声で
『なん、ですって?』
ついにラスカの連撃が、【氷焔】のグラビティ・ケイジを突き破った。
そして、ついに【氷焔】の真の姿が現れる。マント状の装甲が上部へと開き、まるでおぞましい
マント状だった装甲は完全に展開し、まるで
そう、あれはかつて【樹雷皇】に搭載された動力部……こちら側が【シンデレラ】と呼んでいた機体なのだ。
『ラスカ・ランシング! こちらの地球のお前は、両親を殺され怒りに燃えていた。私にとって、同じ復讐の同志……そして、最高の
『な、なにを……嫌よ、なんでアタシがアンタなんかに!』
『私だけがお前をエースと認めていた……優しくしてやったら、すぐに身も心も捧げてきた。レイル・スルールを手に入れるまで、間違いなくお前はエースだったよ!』
『あっちのアタシのやることなんて、知ったこっちゃないわよ!』
『私がこの手で、何度も抱いてやった……私を信じて、使い捨てられたとも知らずに死んでいったよ! 馬鹿な女だ!
それは、統矢の知らないラスカの物語だ。そして、統矢の知っているラスカとは別人である。それでも……平行世界の同一人物であるラスカは、動揺も顕だった。
そして、統矢はその残酷にして非道な言葉に
湧き上がる怒りに、れんふぁの声と想いが重なる。
『統矢さんっ! 特攻兵器はわたしが処理しますっ! 行ってくださいっ』
「悪い、れんふぁ! スルギトウヤッ! ……俺の仲間を侮辱した、
統矢は【樹雷皇】から【氷蓮】を分離させた。
怒りに燃える機体は、全速力でターンするや天城に向かって加速するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます